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第3始 耳に空間に雷に

目の前には、まだ腕が壁から出ていたのだが、そのナイフを、長い刀で止めている。その刀の持ち主の方を見た。女子だ。


「大丈夫?とっくん。」


「風見!!」


その女子は、風見虎魚(かざみおこぜ)。先ほど教室で、殺人鬼の事など気にしてもいなかった、あの男女の女子の方だ。


「早く逃げて!!」


逃げて、と促されたはいいが、足が竦んで動けない。風見はナイフを弾き、腕に突き刺すが、能力が解除されたのか、魔法陣が消え、壁に刀がぶつかる。


「と、いうことは……」


風見が階段を駆け上り、屋上に出る。恐怖は恐怖なのだが、好奇心が僅かに勝り、屋上への階段に一歩、足を置いた瞬間、寒気がした。

首に、奇形ナイフがかかっていた。


「あいつをおびき寄せろ。俺がここにいることがばれないように。」


小声で言われ、思わず心の中で「はい」と答えてしまった。ナイフは首から背中、刺せば心臓を貫く位置にナイフを突き立てられた。


「あの殺人鬼。いつの間にかいなくなってる…屋上から飛び降りたのかな?」


風見が屋上を見終わり、階段を降りてくる。やめろ。来るな。危険だ。だけど言えば俺が死ぬ。死にたくない。死なせたくない。

そうこう考えているうちに風見は俺の目の前まで来てしまった。


「馬鹿め!!」


俺の背中から現れ、風見に斬りかかる。


……が、なんと風見は刀を鞘から出し、加現和の腹を斬っていた。


「私、居合が得意なんだよね。だから、刀は鞘に納めたまま、あなたに近づいたの。それに、私は異能力者。」


「異能『地獄耳(デーティングバック)』は、聴覚を高める能力。どんなにあなたが小さな声で話そうとも、私には聞こえてる。」


とどのつまり、風見は異能力者で、その異能で加現和が俺の後ろにいる事を暴いたという事だ。多分だが、俺が屋上に逃げ、加現和に見つかった時も、その能力を使ったのだろう。


「チッ、何だお前も異能力者かぁ……。それなら殺しがいがありそうだ。」


ナイフの刃の部分を舐め、舌を僅かに切り、出た血をナイフに塗りつけている。


「俺の異能は『空間歪曲(ツイストソング)』。好きなところにワープホールを生成できる能力ぅ。」


つまりは、逃げても無駄なのでは?とは思ったが、そこは風見がどうにかしてくれるのだろう。


俺は逃げた。唯、ひたすらに。簡単に文字に起こしてしまうと、「男子が殺人鬼に襲われ、女子が男子を助けて男子が情けなく逃げる」というなんともひどい感じになるが、しょうがない。だって、何度も言うが、俺は普通の人間。そして風見は異能力者、異能自体は戦闘向きではないというのは明白だが、刀術が優れているという点だと、もしかしたら殺人鬼を倒せるのかもしれない。俺にも異能力が欲しい。だが、使えるようになるかどうか。もしかしたら、使い方が分からないだけで、もう異能力者になっているのかもしれないし、一生使えるようにならないのかもしれない。


生徒達は既に避難し終わったようで、教室は蛻の殻だった。校舎を出るという手も考えたのだが、やはり気になってしまう。風見の事だ。いくら異能力者だとは言え、相手も異能力者だし、なによりサポート型の能力な為、攻撃型の加現和よりも戦闘面で劣る(この場合、戦闘面しか意味を成さないが。)。他にも不利なことがある。まず、男女の差、年齢の差、体格の差、そして技術。風見がいくら刀術に長けていたとしても、相手はナイフで人を殺しているのだ。躊躇いの差があると思われる。だから俺は、ロッカーから箒を一本取り出し、もう一度、来た道を戻る。もしかしたら、これが人生最大の勇気になるかもしれない。そして人生最後の勇気になるかもしれない。


―――

―――――

―――――――――


金属音が鳴り響く。何回も。何回も。何回も。何回も。何回も――――

殺人鬼のナイフが奇形だからか、刀が刻一刻と削れ、欠けていく。居合は、最初の一撃が大事なもので、長期戦になると必然と弱体化(?)してしまう。


「くっ…!!」


「どうしたどうしたァ!!弱くなってるぜぇぇ。このままぶった切ってやるぜぇ!!」


刀に思い切りナイフをぶつけ、手から離させる。そのまま腹を蹴り、尻餅をつかせる。


――――そのままナイフを振り下ろす。


「ッッ……!!!」


「うぉぉらあぁぁッッッ!!!!」


ゴッッッ…


よっしゃ、脳天に一発入れてやった…!箒での一発だったので殺人鬼、ましてや異能力者に効くのか心配だったのだが、何とか風見の命を救った。二人で逃げるべく、風見の腕を掴み、階段を降りていく。何とか体勢を持ち直したようで、引きずる形にならなくてよかった。


空間歪曲(ツイストソング)


「なッッ……」


俺は気付かされた。階段は奴にとって、最も強くなれる場所だという事に。

階段から出てきた手によって足を掴まれ、そのまま体勢を崩し、転げ落ちる。風見も同じように転げ落ちた。何とか頭をぶつけなくてよかったというべきか。それとも生きてしまった事を後悔すべきなのか。

今回の場合、頭をぶつけなくてよかったというべきなのだろう。殺人鬼を気にも留めていなかった男女の男、白蓮泣望(しろはすなきもち)が遅れてきたのだ。


「ったく、虎魚。突っ走ってんじゃねえぞ。せめて俺にも居場所教えとけってんだ。」


「あ、ああ、ごめん。」


「俺が来たからには安心しとけ。こんな殺人鬼程度、造作もなく倒してやる。」


雷おこし(ライスイーツ)


白蓮の指先から雷が発生し、加現和に直撃する。


「ゴッッ!!!」


肌が焦げ、口から煙を吐いて、倒れる。連続殺人鬼がこうも呆気なく倒されるのか。

異能力者の世界というものは分からないものだ。


「よし、じゃあ手錠をかけておくか。」


殺人鬼の意識が飛んでいる間に手錠と足枷をかける。犯罪者に手錠をかけるのは当然だが、この場合、足枷もつけるのだろうか。いや、この場合はどう考えてもつけるはずがない。いくら殺人鬼だとしても、そこまで用心することもないだろう。心配性なのかもしれないが。


「なんで、足枷もつけるんだ?」


「ん?ああ、異能力者ってのは、手錠と足枷をつけると異能力が使えなくなるんだ。理由は全く分かっていないけどな。」


そういう事なら、まあ、足枷をつけるのも頷ける。結局、そのままどんでん返しがないまま、殺人鬼は警察に捕らえられた。どんでん返しは無い方がいいのだが、やはり、あっさりすぎる。手練れの殺人鬼のはずなのに、それも異能力者なのに呆気なく倒され、呆気なく捕まったのだ。おかしいという他ない。考えすぎかもしれないが、まだ、何かがあるかもしれない。


――――――――

――――――――




それから暫くして、殺人鬼は死刑になり、処刑され、倉既裁衝の葬式も終わり、一応は平穏が戻った。あくまでも、一応なのだが。学校に来る度思うのだが、空席の出席番号11番を見る度、寂しくなる。別に親しかったわけでもなかったのだが、やはり同級生が一人、永遠に会えないと思うと誰でも寂しくなる。幼稚園の時に、喘息だったかなんだったかで亡くなった友人を思い出す。


「おーい、とっくん。おはよー。」


おっと、このフレーズは前にも聞いたことがあるぞ。だが、声が女子だ。つまりは…


「あ。聖各ちゃん。おはよう。」


殺人鬼襲撃事件当日の登校時、鉢節が真似していたのがこの子だ。説明が遅れたが、この子の名前は聖各双沙(ひじりおのそうさ)。俺が片思い(かもしれない)している人物だ。とにかくかわいい。優しい性格が、整った顔が、アニメのような透き通った肌。そして声。少しメンヘラ感があるが、それほどに可愛いのだ。さらに、その聖各ちゃんが俺と登校している。ああ、なるほどなるほど、つまりは今日、処刑された殺人鬼が蘇り、俺を襲ってくるというわけか。もしくはトラックが天から俺目掛けて落ちてくるということか。なにはともあれ、こんなうれしいことはない。


「とっくんってさー。好きな人とかいるの?」


「ブグフゥッ!!」


自分でしておいて何だが、なんだいまの声は。好きな人から好きな人が誰か聞かれるなんて滅多にない。滅多にというより生きている中で一度もあるはずがない。これは真実を言うべきなのか。それとも嘘をつくべきなのか。それとも適当に流すか。この場合は流すのが最善策なんだろうが、しかし、どうやって流す?流し方が全くと言っていいほど思いつかない。


「そ、それは……聖格ちゃん……かな……ハハ…」


言ってしまったーーーー!!なんで今俺は真実を選んだ!!せめて、嘘をつくべきだったか!?できる事ならば僅かに時間を戻して答え直したい。今更、訂正は効かないだろう。


「そうなの?嬉しいなぁ。」


帰ってきたのは意外な返答と笑顔だった。

と、言うことは、つまりは、両想い!?(んなわけあるか)


「な、なんか……恥ずかしいな…。」


やっべぇ。自分で自分が恥ずかしいぃ。もう駄目だ。顔が沸騰しそうだ。


「じゃあ……私の好きな人も言わないとね。」


「え?」


「私の好きな人は―――とっくん、かな。」


………………………………


ん?いやいやいやいやいやいや、え?ないないないないないない。えーと、俺が好きなのが聖格ちゃんで、そんでもって聖格ちゃんが好きなのがえーと、この俺。いやいや、ないない。あり得ない。俺じゃない。

「とっくん」に似た名前の誰かだ。


「え……と、もしかして、俺?」


「うん。そうだよ?」


ああああ、聞き違いじゃなーい!!まさかの両想いだったとは!!!いや、だがしかし、互いにカミングアウトしておいて、ここまで冷静なものなのか?からかっているんじゃないか?


「おーい、とっくーん。おはよー!!」


気まずい(俺だけ)雰囲気に終止符を打ってくださったのはこの方、鉢節裕善。


「お、聖格ちゃんと一緒にいるなんて珍しいな。何話してたんだ?」


や、やめろ!!その話題には触れるなぁぁーッッッ!!!


「二人で、好きな人を言い合ってたら、両想いだったの!」


「な……な……なんだってー!!!!?」


何故だ。こいつ、終止符を消しゴムで消しやがった。


「っていうことは………お前ら、つ、付き合う……のか?」


やめろ、俺の方を見るな。俺に振るな。せめて聖格ちゃんの方に振ってくれ。俺にはどうもこの状況を打開する策が思いつかない。チラッと聖格ちゃんの方を見ると、丁度聖格ちゃんもこちらを見ていて、軽く頷いてきた。


「うん。付き合うよ。」


いやいやいやいや、どこまで話が進んでいるんだ。ちょっと引いたぞ。多分、聖格ちゃんは、二人が両思いだからという理由だけで付き合うと考えていたのだろう。いや、まあ理由としては十分だが、それにしても唐突すぎるぞ、この流れ。


「ぐ、グハァッッ」


「いや、なんのダメージだよ。」


両想いという事にダメージ受けすぎだ。


てなわけで、俺と聖格ちゃんは付き合うことになった。無理やりにもほどがあるのだが、まあ実際こういうものだろう(しらないが)。漫画やアニメ、ドラマだと、その付き合うまでに時間をかけすぎだということか。良く分かったぞ(嘘か真か分からんが)。


――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――――――――――


照明が落とされ、蝋燭のみが唯一の光源となっている部屋に、女が一人、血のように真っ赤なソファに座っていて、その前に小太りの男が立っている。


「なあ、姐さん。加現和が脱獄してすぐだってのに捕まったらしいですぜ。」


「何?それは本当か。いつ捕まった?」


「1週間前ですぜ。」


「……?い、1週間前?何で早く知らせなかった?」


「それが……この1週間、俺以外皆有給を使ってまして……。俺は姐さんの世話しておりましたですぜ。」


「………えぇ……。と、というか、何で全員同じ日に有給を取らせるんだ。せめてもう少しいれば……」


「そういった管理は姐さんの仕事ですぜ。」


「……あ、そうか……」


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