第2始 ご対面
唐突な死亡ニュースに鞄から取り出した教科書を床に落としてしまった。
「殺人犯はまだ、この周辺にいるといわれています。他の先生方と相談したところ、暫く学校で待機とのことです。教室で待機していてください。今日の授業はありません。」
窓側の席だったので、景色をじっと見る。これは、殺人鬼がいるか確認するためだ。一応校庭が見えるため、僅かながらの用心だ。
授業がない。当然か。本来、台風やらなんやらで帰宅できる時はその一言に心躍ったわけだが、やはり、命の危険があると思うとそれすら幸運と思えない。さらに、教室で待機と来た。同じクラスの仲がいい奴らはほとんど全員廊下側なため、特に暇つぶしもできない。もとからするつもりはないが。校庭に来た時点で気付けるのは良いのだが、裏門から来られると成す術がない。裏門から来られると、まずは場所的に1年1組が危ない。正門からくると、1年3組辺りが危険だ。とは言っても、俺は3年2組。3階に来られてもまずは1組から。1組というと、友達が……3~4人くらいだったか。席替えしたかは知らないが、全員廊下側にいないのでとりあえずベランダからこっちに逃げてくる事も可能だろう。
生徒同士の雑談が聞こえてくるが、やはり全員殺人鬼の事で持ち切りだ。そんな中、俺の前の男女二人は全く別の話で盛り上がっていた。どうやら、先日やっていたアニメの話らしい。
「なあ、二人とも。何でこんな時にそんな話できるんだ?」
「ん?ああ、大丈夫。だって死なないし。」
「そうそう。」
「そうか。」
大分気楽な感じで応えられても少し困るが、まあ普通の人間ならそうだろう。俺も普通だが、この場合、普通の人間でも二つの考え方に分かれるらしい。当然だが、怖がる者と怖がらない者。そういう点で非難するつもりは全くない。そして二人はまた話を続ける。
そういえば、こんな事を聞いたことがある。人間には皆、異能力を持っていて、いつその能力が使えるようになるか分からないらしい。ある日突然使えるようになった者もいるし、努力して使えるようになった者もいるし、事件事故に巻き込まれ使えるようになった者もいるらしい。限りなく可能性は低いが、全員にその可能性を秘められていると、専門家が言っていた気がする。現に、異能力を使えるようになった者はほとんどいないし、なった者はテレビに引っ張りだこだったり、いいことだらけらしい。
当然そんな異能力、俺にはないし、きっと使えるようにもならずに一生を過ごすだろう。一生、といっても、後で死ぬかもしれない。もしかしたら、殺人鬼・加現和刹人も異能力者かもしれない。そんな事だったら一巻の終わりだ。
殺された倉既裁衝は同じクラスでとりわけ仲がいいという訳でもないし、話す事も全くと言っていいほどない。欠席者は今日は3人。その中に倉既も含まれている。他二人はそもそも普段から休みがちな奴らなのでそこまで気にはしない。
そういえば、今日見た加現和刹人が作った(と思われる)サイトをまだちゃんと見ていなかった。一応手がかりになるかもしれないので確認しておくとしよう。気分が悪くなりながらも、最後まで見ていく。
”2018年11月17日 被害者・倉既裁衝 四肢をもぎ取られ、手と足が入れ替わった配置で道路に放置”
(うっ……)
気分が悪くなる。が、やはり気付いた。このサイトが先ほど更新されたことに。よくメールアドレスのパスワードを覚えていたな、ととりあえず気を落ち着かせる。
「お、おい皆!!聞いてくれ!!」
俺は叫び、皆の視線を俺一点に集中させ、俺は前に出る。
「俺が朝に見つけたこの、”加現和刹人 殺害情報”っていうサイトのことなんだが、これが本人の作ったサイトで、今さっき更新されていたんだ!!」
「なんだと!!?」
「そ、それって本当か!!?」
「一番最後に、倉既が…」
クラスがざわめき始める。当然だ。
「ほ、本当だ…」
一人の女子が調べ、確信したらしい。それに続いて他の者もスマホを取り出したり、他の人のスマホを見た。
「お、おい…今、また更新されたぞ!!」
俺もページを更新させて、見ると、更にもうひとり、殺されたらしい。調べた時に、もうひとりが更新されていなかったらしく、最後の記事は、たった今、追加されたらしい。
とりあえず、席に戻る。
今追加された人は、君園玖蓮。関節という関節、すべて切られているらしい。
再び、窓を見た。
――――警察が、この学校に来ていた。パトカーが何台も校庭に来ていて、全員銃を構え、前にいるものは、名称は知らないが、警察が爆弾処理などでよく使う盾で身を護っている。
それはもう、間切れもなく、疑いもなく、ただ、一つの答えを示していた。
―――――――犯人は、もうこの学校内にいる―――――
汗が止まらない事に気付いた。袖で拭く。1階で、もう襲われている。殺される。もう駄目だ。耐えられない。1階が終わったら2階。そして―――――。もう耐えられない。
教室を走って出た。階段の方を見た。
「!!!」
「あぁ……れれぇ……?君ぃぃ…もしかしてぇ……僕のサイトを見てくれたぁぁ人じゃないのぉ?」
テレビで見た写真と同じ顔。加現和刹人。こちらを笑って、いや嗤ってみている。そして奇妙な形のナイフ。もう駄目だ。殺される。
「に…逃げろぉぉぉっ!!!!」
クラスにも大きな声で伝え、自分は先に逃げた。
(何で……もうここまで……)
1階、2階の生徒達を殺し終わったにしては早すぎる。と、いうことは…
信じられないが、3階から攻め入った、ということになる。
どういう事だ?異能力?連続殺人鬼ならそれもあり得るかもしれない。だが、どういう異能だ?
走って屋上まで来た。加現和が来る様子はない。とりあえず、塔屋の死角に隠れ、やり過ごそうと思う。
皆には悪いが、俺に立ち向かう勇気などない。当然だ。俺は普通の人間なのだから。勇気の突出した人間なんかじゃあない。
「!?」
地面から小さな魔法陣のようなものが、そしてそこから腕が出てくる。それも、奇形のナイフまで。そのままナイフが振り回される。膝が少し切れ、血が出る。
「痛ッ……!」
そして、もう一つ魔法陣が現れ、そこから顔が出る。そう、加現和だ。
「いたいたぁ……殺させてもらうぜ。騒ぎの本人。」
「それは…お前の事だろうが!!」
逃げ、階段を駆け下りる。と、その先の踊り場の壁に腕が出現する。次に、頬に鋭い痛みが。一瞬で気付いた。まぎれもなく、あの奇形ナイフだ。奇形ナイフが飛ばされ、奇跡的に軽傷で済んだ。
そのナイフを、狙っていたかのように(狙っていたのだろう)壁の腕がキャッチし、振り回す。もう駄目だ。こいつの異能力にハマってしまった。床から現れた腕に足を掴まれ、倒れてしまった。丁度、ナイフに頭が届く位置まで来てしまった。
「よぉぉし。君はもう……デェェェェッッドォォォォ!!!」
ナイフを振りかざし、俺の頭めがけ、振り下ろす。
「うあああぁぁっ!!!!」
ガキィィン……
思考が回らない中、金属のぶつかり合う音が聞こえ、目を開く。