三人組でピクニック
「なんでさぁ」
天気は晴天。気象観測魔法師によれば雨雲もなく、過ごしやすい一日になるでしょう! とのこと。
「どうした! 早く出発せねば時間内に戻ってこれないぞ! 俺様だけなら余裕だがな!」
右を見ればむさ苦しい筋肉。
「……どうしてかしら。あの女ではなく、わたくしが本来ならあの場所にいるはずですのに」
左を見ると呪詛でも吐きそうな般若。
「……どうしてこうなった」
本日の授業は特別編。課外授業である。
内容としては三人一組で学園外の山へ行き、頂上にあるチェックポイントで用意された羊皮紙にスタンプを押して貰って帰ってくるというもの。
道中には教師陣が準備した罠やモンスターもいる。
なお、剣術も魔法も使えない生徒は教師の引率のもと普通のピクニックである。
「いくら執筆のための資料集めとはいえ、俺がここまで危険を犯す必要はあるか? ないよね?」
「ぶつぶつ言わないでくださいませ。こうなった以上、目指すは一位だけですわ。……そしたらわたくしの評価はうなぎ登り間違いなし」
「男ならば勝利を掴みとる! ユーリ・オリオンには負けんぞ!!」
両脇で熱くなる二人。ミランダとシリウス。
敵視しているのはユーリ・サテラ・主人公のチームだ。
この班分けになったのはチーム内のパワーバランスを保つため。前回の模擬戦で主人公に勝った俺だけど、あの一戦以外は全敗。
運悪い主人公はあの後、ユーリとシリウスに無理矢理勝負を挑んで見事に全敗。
こうして、クラス最下位とブービーが決まった。
剣術一位のユーリ。
魔法一位のサテラ。
最下位の主人公。
剣術ニ位のシリウス。
魔法ニ位のミランダ。
ブービーの俺。
このチーム分けに悪意を感じる。
俺と主人公の立ち位置が逆だったら俺的には推しCP二人の協力プレーを一番近いところで観察できるという神イベントになるはずだったのに、どうして苦手な連中と肩を並べなくちゃいけないんだよ。
「よし。作戦だが、俺様が先頭で敵を倒す! お前ら二人は後からついてくる! これでいいな!」
「そうですわね。わたくしは優雅に可憐に。露払いは任せますわ」
これで決まりとばかり出発する二人。
でも確かこのイベントって……
「いやー、それ逆に時間かかるぞ」
「「どういうことだ?(ですの?)」」
「事前説明だとモンスターや罠が沢山あるだろ? で、一番にゴールするにはなるべく戦闘をせずに最短ルートを行けばいいわけだ。となると、真っ直ぐに罠に進むシリウスを先頭にすると時間がかかる」
「むっ、確かに……だが!それなら俺様が戦闘をすぐに終わらせれば!」
「それだとユーリたちと殆ど差がない。それにモンスターが複数いたらシリウスだって手こずるだろ?」
「その場合はわたくしの範囲魔法で消し炭にしてさしあげますわ」
時自信満々に答えるミランダ。
「それも悪手。ミランダさんの実力はサテラに比肩するけど、スタミナじゃハーフエルフのサテラが上だ。途中で魔力切れになったら元も子もない」
それにサテラは体術もそれなりにできる。それに対してミランダは根っからの魔法使いタイプだったはず。
「そこまで言うのですから、何かしら策はありますのよね?」
「二人が俺の指示に文句を言わず従ってくれるなら、一番乗りを約束してやるよ」
「ほぅ。いい度胸じゃねーか!」
品定めするようにシリウスがニヤリと笑う。
「なら任せた。テメェもそれでいいか巻き髪女!」
「口の利き方に気をつけなさい下民。いいでしょう。その代わりに、万が一負けるようなことがあればわたくしの権限で……ねぇ?」
あれれ? なんかもう失敗することが許されない状況なんだけど。
まぁ、やってみますか。
♦︎
「ふ、二人共。ちょっと待ってくれ」
現在、オレたちのチームは山の頂上付近まで進んでいた。
オレよりも強い二人とチームが組めたのは運が良かったと言えるはずだった。前回の模擬戦で一般人の彼に負けたことでオレが本当に勇者の生まれ変わりなのか? と疑問視する声もあったからな。
この課題で一番になれば! と意気込んでいたのだが。
「どうしたんだい。まだ折り返し地点にも着いていないんだ。先を急がなくては」
「いや。ちょっとペースが早くないか? ここまで誰にも抜かれてないんだ。もう少しゆっくり進んで問題ないと思う。サテラさんという女子もいるわけだし」
「私? まだまだ大丈夫よ。旅してたから体力には自信あるの。むしろ、もう少しペースを上げても大丈夫なくらい」
そう言ってのけた彼女の顔には汗すら浮かんでいなかった。なんなんだこの二人は。
「ふむ。サテラさんのことを考えてこのペースだったんだが……魔力的には大丈夫なのかい? さっきかなり広い範囲魔法を使っていたようだが」
「ユーリくん、それも大丈夫よ。まだ五割以上は残っているから。魔力切れになっても弓矢を持って来ているから対処可能よ」
「流石は森の民エルフだ。もしかしたら僕よりも強いかもね」
二人で笑いながら話をする始末。
こっちは体力の限界で魔法も使って魔力切れ寸前だというのに。
くっ。オレは勇者の生まれ変わりなんだ。それが普通の人間やハーフエルフなんかに負けていいはずがない。もっと踏ん張らなくちゃいけないんだ。
「……ヤマトくんは大丈夫なの? さっきから肩で息をしてて辛そうだけど」
「それもそうだな。僕らはまだ余裕だが、ここは一番力のない君に合わせよう。棄権なんてことになったらここまでの頑張りも無駄になるからね」
くっ。好き勝手に言いやがって。オレだって……オレだって!
「心配ないよ。オレは勇者の生まれ変わりだからね。このくらい何の問題もないよ」
「そうかい。なら、先を急ごう。他のチームに差をつけないとまずいからね」
「他のチーム? 君たちはそれぞれ学年のトップなんだろう? そしてオレがいる。負けるわけないじゃないか」
特進クラスとだけあって優秀な生徒が集まっているが、正直な話だとこの二人がずば抜けている。
脳筋ダルマや性悪令嬢もいるが、この二人程ではない。
「いいや。アッシュのチームがある。あそこは油断できない」
「そうね。アッシュくんがいるものね。警戒しなくちゃならないわ」
アッシュ? ……あの模擬戦でオレと戦った冴えない奴のことか?
奴との戦いに負けたのは不意打ちされてバランスを崩したからだ。まだまだ戦えたし、実戦であれば魔法を使って簡単に倒すことができた。
所詮、授業のお遊びとはいえ、奴が勝ったのはマグレでしかない。
「どうしてアイツなんだ? 剣術も魔法も人並み以下。むしろ足を引っ張りそうだと思う。それにシリウスとミランダ嬢は性格的に合うとはいえない。仲間割れでもしそうなくらいのはずだ」
「あぁ。アッシュさえいなければそうなっただろう。そしたら僕も警戒しないさ」
「私も同じよ。でも、アッシュくんがいる。彼がいるチームは不思議と彼を中心に上手く回るの。誰かの特性を上手く活かしたり、足りないところをフォローする力がアッシュくんにはある」
「味方にいれば心強いが、敵にするとアッシュほど厄介な奴はいないさ」
うんうん、と頷き合う二人。
そんなに凄い奴には見えなかった。むしろ、どうしてこの二人と関係を持っているのか疑うレベルだ。
おそらく、この二人の奴に対する評価は過大だろう。だって、あんな奴はオレの物語に相応しくないのだから。
「わかった。二人がそこまで言うならペースを上げよう。オレはトラブルに備えて体力を温存する。だから、しばらくは二人で戦ってくれ。万が一の時はオレが……」
そこまで言った時だ。
何かが山の頂上から走ってきた。
「フハハハハ! 我がライバル、ユーリ・オリオンよ!! この勝負は俺様の勝ちだ!」
「おーほほほ! 無様なハーフエルフの方。所詮、アナタはわたくしより矮小な存在なのよ!」
「ちょっと黙ってくれよミランダさん! 暴れてたら走りにくいからさ!」
三人分の荷物を背負って走る筋肉バカと性悪令嬢を担いで走る奴がいた。
山を降りてくるということはつまり、頂上のチェックポイントにたどり着いた後だということ。
くそっ! どうなっているんだ。
「ヤマトくん、ユーリくん!」
「あぁ。今ならまだ間に合う。走って彼らに追いつこう!」
……しかし、この後にオレが力尽きたこともあり、オレたちのチームは真ん中くらいの順位になった。




