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障害が自分の足でやってくる

 

 シリウスとの授業で主人公が疲労困憊になって居眠りをし、廊下に立たされた日の放課後。


 ユーリが珍しく放課後の自主練が休みだというので、サテラと三人でお茶会でもしようかと穴場のカフェにやってきたんだが。


「おや? 奇遇だね。君たちもお茶しにきたのか?」


 どうしてここにいるんだよこの主人公!

 ドアのベルを鳴らしながら店内に入ると、入り口近くの席に見知った黒髪がいた。

 ここのカフェって俺がユーリとサテラをくっつけるために探しに探した穴場スポットだったのに!

 原作ゲームにも出てきてない店だったんだぞ。


「あの〜、ヤマトさんはどうやってこの店に? ここ、通りから一本裏道だし、学生もあんまり来ないんですけど?」


「えっと君は……………」


 俺の質問に対して主人公様は言葉を詰まらせた。

 目を必死に泳がせて誰か思い出そうとしてるけど、出てこないようだ。


「……アッシュ。アッシュ・ダストンです。一応、クラス一緒です。席はユーリの隣です」


「あぁ!……アッシュくんだね。転入してきたばっかりでまだ覚えれてなくてごめんね」


「いえいえ。まだ二日目ですから。覚えてなくて当たり前ですよ」


 うん。俺ってば地味な見た目と性格だしな。原作には出てこないモブキャラみたいなものだ。直接会話するのは今日が初めてだし、仕方ないさ。ユーリは有名人だったしな。


「そちらの女性はサテラさんで間違いないかな?」


 前言撤回。こいつ、俺に興味なかったから忘れてやがったな。


「どうも、サテラです」


 声をかけられたサテラは少し身を強張らせながら挨拶を返す。

 最近は俺やユーリ、図書館の人とか一部生徒相手には普通に話せるようにはなったけど、慣れない相手、しかも男は苦手なんだよな。


「君、可愛いね。クラスにも可愛い子は何人かいたけど、君はその中でも特に可愛い」


 おーっと、どうしたこいつ。サテラに話しかけながら少し顔が赤いぞ。一目惚れしたとか言うなよ。言ったら俺はこの場から二人を撤退させるならな。


「はい。ありがとうございます……」


 一方のサテラは自分の顔見て頰を赤くしているのが気持ち悪いのかさっきより引き気味。なんなら俺の制服の袖掴んでるし。


「そ、そうだ。よかったら三人共オレの席にどうだい? 慣れないことが多くて色々と質問をしたいんだ」


 謹んでお断りします!と元気よく言おうとしたところ、背後のドアが開き、新しいお客が入ってきた。


「あらぁ、こんな所にいらっしゃったのですかヤマト様。わたくし、あちこちを探していたのですわよ」


 聞き覚えのある声に振り向くと、笑いそうなくらい髪の毛にカールをかけて羽根つきの扇子を持つお目目ぱっちりの女生徒がいた。


「ミ、ミランダさん⁉︎ どうしてここに…………………完全に撒いたと思ったのに…」


 後半、ボソッと何かを呟いた主人公。


「どうしても何も、わたくしが得意なのは探知系統の魔術ですわ。プロの騎士ならまだしも、学生の魔力くらい簡単に追跡できましてよ?」


 おほほほほっ、口に開いた扇子をあてて高笑いする女。

 その様子に俺とユーリは呆れている。学園内で魔術を私用目的で使うのはマナー違反だし、それを特定個人の追跡使うとか普通にアウト。ストーカー規制法にゴールインだ。


「ミランダ嬢、それは学園内のルールとして、一般的なモラルとして良くないことだよ」


 ドン引きの俺と違い、正義感あるユーリはミランダに注意をする。


「あら、ユーリ様。ご機嫌麗しゅうございます」


 制服のスカートの裾を摘んでお辞儀するストー……ミランダ。


「えぇ。確かに魔術を使うのはいささかやり過ぎたかもしれませんわね。でも、これも学園に不慣れなヤマト様のことを案じてのこと。善意ゆえの過ちというものですわ。それにミランダには一般の、平民の方々のモラルなんてわかりませんわ」


 およよ、と泣き真似する女。

 ミランダ・スピカ公爵令嬢。王家に次ぐ地位の公爵家の一人娘。父は宰相も兼任していてこの学園最大のスポンサー。ユーリの実家よりも爵位は上だ。


 ユーリが家ではなく、個人の力で頑張ろうとするなら彼女は真逆。実家の力を最大限に利用し、コネと金で我が道を貫く女王。

 お友達というか家来たちはどいつもこいつも買収されてるとの噂だ。あと、成績については普通に学年上位だったりするからタチが悪い。


「そうだ。ユーリ様、よければわたくしとヤマト様とご一緒にお茶でもいかが? わたくし所有のサロンに最高級の紅茶と取り寄せた流行の茶菓子がありますの?」


 いつの間にか数に入れられている主人公は、頬を引きつらせていたので、ザマァみろ。


「申し訳ないが、こちらの二人が先約なんでね。またいつか、タイミングが合う時があれば、多分参加するよ」


 ユーリもにこやかに笑っているが、それ、内容的に絶対行く気ないだろ。


「そうですか。先にご予定があったのなら失礼しました。………ですが、お付き合いされるご学友はもう少しお考えになった方がよろしいですわ。平民の方もですけど、よりによってそんなハーフエルフ。侯爵家の名に傷がつきますわよ」


 それだけ言い残すとミランダは主人公の手を引きずるように引っ張って店を出てった。


「すまない二人共。彼女はその………」


「いいよユーリ。俺もアイツの評判とか噂とか知ってるし。……腹立つ前に呆れたし」


 彼女も原作登場キャラである。人気があるかどうかはあの立ち振る舞いで察して欲しい。

 俺自身は絡まれるのが初めてじゃないからまだマシなんだけど、その、特にサテラは……。


「………へっ、やっぱり私なんていちゃいけない子なのよ」


 体育座りでいじけてらっしゃる。

 昔なら逃げ出してもおかしくなかったのだが、最近ではこうやって塞ぎ込むようになった。


 成長してるのかしてないのかいまいちわからないが、まだマシな方かな?


「ユーリ、とりあえずこの場は俺とお前の割り勘な」


「異議なしだ。彼女を元気付けよう」


 俺とユーリは軽く拳を合わせた。






 ♦︎






 ミランダ・スピカ。


「ミランダさん。さっきのはいくらなんでも言い過ぎじゃないかな」


 将来の手駒……もしかしたらわたくしの旦那様になるかもしれないお方、ヤマトがそうおっしゃいました。


「言い過ぎとは?」


「目つきの悪い男子とサテラさんへの発言だよ。いくら彼女が混じり血のハーフエルフだとしてもだよ」


「あぁ、あの子ですか。お気になさらずに。大丈夫ですわ」


「な、何が大丈夫なんだ?」


 訳がわからないと言わんばかりに首を傾げるヤマト。

 あぁ、そういえばこの方は転入されたばかりで今日のアレを知らなかったのでしたわ。


「わたくしはハーフエルフ自体が嫌いなのではありませんわ。むしろ、半分がエルフであるなら寿命が長くて肌も美しいまま保たれる。ちょっと羨ましいくらいですわ」


「それならどうして」


「えぇ。金にも地位にも美貌にも男にも興味がないくせにユーリ様の近くにいるあの女狐が単純に嫌いなだけですので」


 それと、先日の試験。魔術の分野で学年トップの座だったわたくしに倍近い点数を叩き出して特進クラスに入ったことが気に喰わない。

 半年前の決闘では闘技場を半壊させてなお互角だったのに。……思い出すだけで腹立たしい。


「…………女って怖い」


「あら?何かおっしゃいました?」


 思わず手に持っていた扇子を握力だけでへし折ってしまいました。

 そして何故か、ヤマトは子鹿のように震えているではありませんか。


「ふふっ。ヤマト様、まだまだ紅茶も茶菓子もおかわりが沢山ありますので、ゆっくりとお話しをしましょう……ね?」





 翌日、主人公ヤマトが体調を崩して欠席した。







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