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サテラとエンカウント……

 



 さて、ユーリと仲を深め始めたのと平行しながらもう一人の推しキャラ、サテラを探さなくてはならない。


 ところがどっこい。彼女は中々見つからないのだ。ゲームでもイベントやらアイテムやらを使ってやっとのことで会えるんだが、生憎とゲーム主人公ではないモブキャラの俺では自力でどうにかするしかない。


「見つけたところでどう話しかければいいのか」


 ユーリのような根が優しいお人好しとは違ってサテラは要取扱い注意人物だ。

 何故なら彼女は故郷を捨てて行き倒れになりかけたところを校長にスカウトされた経歴がある。すなわち、この学園で彼女に何かあれば去って行ってしまう可能性があるのだ。

 実際、会話パートの選択肢で心の折れかけたサテラを救う場面があったんだけど、五連続で最適解を出さないと『夜明けとともにサテラは学園を去った』というオチに繋がり、ニューゲームを始めるまで一切登場しないという徹底ぶりだから恐ろしい。

 だからスタッフ何考えてんだよ。


 兎にも角にもサテラを見つけないことには計画は進まないので片っ端から探す。しらみ潰しに。

 一年の時は何処かのクラスにいるはずだからと思って各教室で聞き込みをするが、誰も彼女を知らないらしい。

 ゲームの時は主人公として転入してきた時に名前と容姿だけは有名だったはずなんだけど。


「サテラは魔法属性に特化していたから魔法で何処かに隠れているとか?」


 そうなると非常に厄介だ。ユーリのような超人なら人探しの魔法もお茶の子さいさいで使えるんだろうけど、そういうのが苦手な俺に出来るのはライターみたいな火を付けたりコップ一杯の水出したりだからね。


 魔法とかマジックアイテムとかあるよこの世界。バトル育成要素ありだったからゲームを全クリアするのは大変だったなぁ。パーティーメンバーに入れておかないとクリア条件みたせない奴とか、今世の俺みたいにステータスが低すぎる奴とか。

 メインルートだけなら簡単なのに。


 話が逸れた。

 他にサテラがいそうな場所は……。











「やっと見つけた」


 入学式から半年。

 ついにその人を見つけた。


「……誰?……どうしてここにこれたの。誰も気づかないはずなのに」


 いつでも魔法を使えるように手を伸ばす少女。

 学園の敷地内にある庭園。その中にある桜の森の中に彼女はいた。


「えっと、俺は一年のアッシュ・ダストン。この同級生に物凄い美人の妖精みたいな人がいるって噂を聞いて探してたんだ」


「質問の答えになってないわ。……どうして私が結界を張っていたのにここにこれたの? 仮にここに来ても私には気づかないはずよ」


 白いローブを被り、怪訝な目でこちらを見つめるサテラ。警戒心MAXですね、はい。


「本……。本だよ! 俺さ、物語りを書いてるんだけどアイディアが浮かばなくて。それで、学園のどっかに妖精がいるって噂を聞いて、……相談に乗って欲しかったんだ。藁にもすがる思いで」


「……相談? 私に?」


 よし、食いついて来た。流石、前世のゲーム知識。サテラは本の虫。


「そう、俺が書きたい最高の騎士と美しい妖精の女王様との話について」


 嘘は言ってない。内容はユリ×サテだけどね。


「……私の結界には私に危害を加えようとする人に気づかれないようにする効果がある。それを通り抜けてここまで来れたのなら、あなたは私の敵じゃない。……それにさっきから嘘つきかどうかを判断する魔法を使ってるけど反応がないわ」


「魔法使う準備じゃなくてもう魔法使ってたのね」


「………本当に私に相談しに来ただけ?」


「そういうこと。……とりあえず図書館にでも行かない? 君が好きそうな本もいっぱいあるけど」


「……サテラ。家名は無いわ。案内してちょうだいアッシュ……くん」


「了解サテラさん」


 とりあえず、第一関門突破?

 さて、こっからどう仲良くしていこうか。






 ♦︎






 サテラ・???。


 私は故郷を捨てた。……いえ、これじゃ語弊があるわね。

 自主的に出てきたけど、実際は追放されたも同然だった。だって私は混血種だから。


 禁忌の子。忌子として扱われてきた。母は私を産んですぐ亡くなり、父親はどこの誰かもわからない。ただ、人よりも人間よりも長生きで賢い森の民、エルフはその人間の血を嫌った。

 祖母が私を引き取って育ててくれたけど、エルフの重役だった祖母が病気で亡くなったとき、私の周りには誰もいなかった。

 髪の色も瞳もみんなと違う。少し尖った耳だけが同じ。同じ年代のエルフからはいじめられた。石を投げられことも一度や二度じゃない。


 守ってくれる人も相談してくれる人もいなくなって、私は母と祖母の形見、会ったこともない父が書いたという本だけを持って故郷の森を出た。

 誰も呼び止めてはくれなかった。出て行くことは反対されなかったけど、戻ることだけは許さないと言われた。


 行く当てはなかったけど、どこかで父が生きているなら一目だけでも逢いたいと旅をした。

 人間の国は森よりも過激で、私は何度も捕まりそうになったけど、母譲りの膨大な魔力と祖母から教わった沢山の魔法で逃げ切った。


 どれくらいの時が経ったのか、ついに父の生まれ故郷に着いた。……父の墓を見つけた。


 歳を考えれば当たり前のことだった。他のエルフたちと違ってハーフエルフの私の寿命は短い。けれど、人間のそれよりは長い。


 父の書いた本には続きがあった。


『もし、いつか叶うならあの時愛した森の妖精にもう一度逢いたい』


 その本を手荷物に加えて、また旅をした。

 その中でこの学園の校長に拾われた。


 行く当てがないならうちの学園にいるといい。君の才能は素晴らしいし、君のお婆ちゃんには世話になったからと。


 学園に籍を置くことにした。だけど、授業には参加しない。それが私の出した条件だった。


 庭園の深奥、故郷を思い出す森の中に住むようにした。


 できればこのまま誰にも逢わずにゆっくりと終われるように結界も貼った。生活必需品を買う時だけ森を出る。

 一度だけ姿隠しのローブが捲れて騒ぎになったけど、あれ以来は街に近づいていないから大丈夫なはず。数年もすれば学園の人間はほとんど入れ替わるからそれまでの辛抱だ。


 そんな日だった。彼が来たのは。


「やっと見つけた」


 結界の中に誰かが入ってきたのは分かっていたから、何の目的なのかを知るために嘘発見の魔法を使った。もし、嘘をつくようなら気絶させて、私はこの居心地のいい森を出なくてはならない。


「えっと、俺は一年のアッシュ・ダストン。この同級生に物凄い美人の妖精みたいな人がいるって噂を聞いて探してたんだ」


 泥だらけの洋服で見た目が凄く怪しい、死んだお魚みたいな目をした彼はそう言った。

 彼は物語を書いていると言った、そのアイディアについて私に相談したいと。


 私に敵意のない人間。父と同じ物書き。


 気を許すつもりはないけど、敵視する気は失せた。


 とりあえず私はアッシュに従って本の山程ある図書館に案内してもらう事になった。











「なんなのかしら昔の私」


 今日もいつも通りにアッシュくんと話をしたあと、私は半年前に書いた日記を見て赤面した。


「えぇ、確かにあの頃はすっごいアッシュくんが怖かったけど、いきなり魔法を使うのは問題があると思うの」


 彼と出逢ってからこの図書館の中ではローブを脱ぐようになった。

 一時期は学園で騒ぎになって私を一目見ようと多くの人が集まったけど、図書館で騒ぐと司書さんに力づくで静かにさせられたり、アッシュくんのお友達のおかげで静かに本に集中できるようになった。


 今ではたまに声をかけられる程度だけど、ほとんどの人はただ私とお話したいだけだから私も楽しくお喋りしている。


「……そういえばアッシュくんが前に言ってた騎士と妖精の本っていつになったら読ませてくれるのかしら」


 明日、彼に聞こう。

 その前に日記を書かなきゃ。

 あぁ、明日が早く来ないかしら。






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