推しCPのために暗躍します
久々の新作です。
バーっと通ったトラックに跳ねられて異世界転生。
俺を轢いたトラックの運転手は大丈夫だろうか? まぁ、スマホ操作しながら赤信号の交差点に突っ込んで来たあちらさんが悪いんだけどね。
俺はきちんと青信号を手を上げて渡ってたしね!
前世の死因についてはこれくらにして、今世の俺の説明をしよう。
中世ヨーロッパと現代が中途半端に混ざり合った世界に転生したわけなんだけど、実はこの世界は俺の好きだったゲームの世界だった。
タイトルは『フェアリーロザリオ』。RPGとギャルゲ・乙女ゲを混ぜ合わせたみたいな内容でアニメ化はしてないけどコミカライズまではあった。シリーズの続きとなる作品も製作中だった。
まぁ、そんな憧れの世界に転生できたから大喜びだよね。前世の未練とかゲームの続きが出来なかったくらいだし。………天涯孤独なブラックサラリーマンは辛かったよ。
「さっきから何をブツブツ言っているんだい?」
教室で声をかけて来たのはこのゲームで主人公であるプレイヤーのライバルキャラであり、この学園でトップクラスの実力者ユーリ・オリオンだ。
「いやぁ、創作中の小説についてあれこれ考えていたんだよユーリくん」
「アッシュくんは物書きだったね。完成したものを読ませてくれるのを楽しみにしているからね。頑張りたまえ」
そう言って教室を出て行くユーリ。いやぁ、キザっぽい振る舞いだけど顔がいいから様になるなぁ。
貴族の息子で幼少から正義の騎士に憧れ、鍛錬を積み、学園卒業後には国王近衛兵団入り確定ってまで言われてるエリートだからね。
田舎村の村長の三男坊の俺とは生まれも育ちも違うわけですよ。
「学業も優秀で困ってる人を見捨てられないとかもうアイツ主人公でよくね?ってなるよな」
手元のノートにユーリの情報を書き連ねる。改めて見て思う。カッコいい。顔もだけど性格もイケメンって彼のことを言うのだろう。流石、俺の推しキャラだ。
「さて、そろそろ時間だからもう一人の方の様子を見に行くとしよう」
荷物を鞄にまとめて俺が向かうのは図書館。教室から数キロ離れた場所にあるので行くだけで一苦労。
誰だよこんなマップ作った製作者。大陸一番の規模を誇る学園っていってももう少し配置を考えてよ。敷地面積都市一つ分とか頭おかしいでしょ。
図書館での目的は執筆の資料集め。本じゃなくて人物観察なんだけどな。
額の汗を拭いながら木製の重たいドアを開ける。各地から集められた参考書や伝記、民話、研究成果なんかが大量に保管してある図書館にその人物はいた。
長い銀髪の髪を自然な状態でおろした少女。白く、シミひとつない肌はまるで陶器のようで、穏やかに本を読む姿はまるで教会に飾ってある絵画より美しい。何人もの美術部が彼女を題材にした石像をスクラップビルドしてるらしいけど、創作家としては共感するよ。
俺の人生の中で最も美しい美少女だ。名前はサテラ。家名はない。彼女はある特殊な生い立ちのせいで故郷を捨てたのだが、類い稀ない才能を学園の校長から見出されて入学してきたのだ。
そう、彼女も俺の推しキャラだ。
美男美女ばっかり出てくるゲームの中で一、二を争う美少女。しかし、このゲームの真のファンを自称する俺は外見ではなくその出自や生き様の観点から評価をする。その結果が彼女推しにたどり着いたのだ。
「あら? アッシュくん、今日も来たの?」
あまりにもマジマジと彼女を観察していたせいか、こちらに気づいたようだ。
「ごめんねサテラさん。読書の邪魔をしちゃって」
「いいえ、大丈夫よ。ちょうどいいところまで読み終わっちゃったから。それに、ここに来てくれたってことはまた新しいお話ができたのよね? 聞かせて欲しいわ」
「もちろん!……と言いたいんだけど、ちょっと煮詰まってね、よければサテラさんの意見を聞きたいなと思った来たんだ」
「私なんかでよければ。任せてちょうだい」
俺のファン一号である彼女の向かい側の席に座り、書きかけの原稿を見せる。
推しキャラと会話しながら作業できるとか幸せ過ぎて死ぬ。しかもリアルに凄いいい匂いがするんですけど彼女。何のシャンプー使ったらそんな匂いするの? そもそもちょっと距離近くない? 俺も男だから美少女が近くにいると色々と意識してガッガッガガガガガガガガガガガガガガガガっ!!
この後、出してもらったアドバイスをメモするのに滅茶苦茶苦労した。
図書館でサテラと別れた後、日が暮れ始めたので夕食の買い出しを済ませて自宅に戻る。
学園には寮もあるので大半の生徒はそっちにいるのだが、生憎と俺には見られたく無い資料や原稿があるのでアパートを借りている。
三男坊にそんな金があるのか? と言われれば実家からの仕送りなんてないに等しいのだが、ちょくちょく書いてる原稿がちょっとしたお金になってくれている。おかげ様で〆切に追われる毎日だけど。
簡単な手料理を作り、仕事用の原稿を終わらせると、引き出しの中に鍵付きで隠していたノートを取り出す。
表紙には『フェアリーロザリオ外伝。 ユーリ×サテラ』と書いてある。
………いや、ほらね。推しキャラと推しキャラのカップリング考えるのって楽しいじゃん。しかもサテラって原作ゲームじゃ主人公プレイヤーの攻略対象なんだけど、隠しルートというか一番選びにくいルートだとユーリと親密なルートになるんだよ!
くぅー、始めてそのルートをプレイした時に思ったよ。楽園はここにあったんだってね?
以来、俺はユリ×サテ中になった。二次創作物を漁りユリ×サテを求め続けた。
だがしかし! 圧倒的素材不足! ゲームの中で二人の絡みが少ない! 公式! どうにかしてくれ!
とまぁ、嘆くしか無かったわけだが。
ここでは違う。公式なんて存在しない。俺だけがゲームの世界だと知っている。ならば、やることはただ一つ……
ユーリ×サテラのCPを誕生させ、それを特等席から眺めようじゃないか!!……もちろん無理強いはしない。あくまで二人に自発的に動いて貰いたい。なので、まずはそれぞれ二人と仲良くなろう。
そして、間も無く原作開始と同時に転入してくる最大の敵をどうにかしなくてはならない。
推しCPのために今日も俺は暗躍するのだった。