西園寺 花奏
【高級マンション玄関前-愛・祐・光 部屋の中-花】
有栖川 花奏「ふぅ。私の休日は今日も平和ですわ。もっとも・・。しばらくカレンダーなんて見ていないので今日が平日か休日かは分かりませんが・・。元々働いていませんし関係ありませんわね!」
ピンポーン
花奏:「あら誰ですの?」
カチャ
花奏:「ハイ。どなたですの?」
愛:「やっほ♪」
花奏:「・・・本当にどなたですの!?」
光:「初対面で『やっほ♪』は無いでしょ・・。すみませんうちの人が突然・・。えーっと・・。僕たち、一応仕事の勧誘をしにきたんですけど・・。その・・。どうでしょう。一緒に働きませんか?」
花奏:「いえ結構ですわ。お構いなく。」
バタン
祐司:「おい。すっげぇ丁寧に断られたぞ。どうすんだよ。今日のとこは帰るか?」
愛:「帰らないよ。狙った獲物は逃がさない主義なんで。〔ニヤリ〕」
光:「お願いですから彼女にまで脅すような真似はしないであげてくださいね。これ以上犠牲者なんて・・。」
愛:「え?何で私がそんなことするの?」
光:「え、だって、僕のときは・・えええぇぇ?」
花奏:(・・何ですのあの方たち。急に働こうなんて・・。そ、それにしても・・。
ひゃーーー!ですわ!久しぶりに誰かと会話しましたの!!平然を装うのに必死で思わず冷たい態度を取ってしまいましたわ!どうしましょう!謝りに行くべきですの?でも今更どんな顔でドアを開ければ!!それに・・。それに、私にお仕事が勤まりまして?きっとご迷惑になるだけですわ。)
愛:「ねぇ開けてよー!ただのカフェの定員!難しくないよー!」
花奏:(と、とりあえず話をしないと長いこと居座りそうですわ。ここは素直にドアを開けてハッキリ申さねばなりませんわ。)
カチャ
花奏:「・・む、難しくないお仕事なんてありませんの!それに、カフェの定員なんて接客業ですのよね。私に勤まりませんわ・・。」
愛:「君、花奏ちゃんでしょ?裁縫得意って聞いたから制服も作って欲しいんだよねぇ♪あとは・・。」
花奏:「人の話を聞いてますの!?働く気は無いって言ってますの!」
愛:「うん。聞こえてたよ。そしてスルーした。」
花奏:「何故ですの!?」
愛:「やってもいないのに諦めてるからぁ。聞き流しもいいかなぁって。」
花奏:「諦めるも何も・・。足でまといになってしまうのは目に見えてますわ。」
愛:「私達は花奏ちゃんの失敗を必要以上に責めたりしないし、出来ないことを悪いとも思わない。だから一緒に働こうよ。」
花奏:「な、何ですのいきなり。そういえば何で私の名前・・。あなた一体何者ですの?」
光・祐司:(俺/僕もそれ知りたい・・。)
愛:「君の素性を調べたうえで君を必要とするものさ!」
花奏:「え、素性!?」〔引く〕
愛:「え、引かないで。」
祐司:「いや、引くだろ普通。」
花奏:「き、きっと私の不甲斐なさにすぐに呆れますわよ!何も出来ない私を雇ったって、何のメリットもありませんわ!きっとお店が潰れてしまいますの!!」
祐司:「あー。その心配はいらねぇぞ。ほっといても潰れるからなあんな店。」
花奏:「えー・・。」
愛:「ちょっ、仮にも己自信の働き先を『あんな店』呼ばわりするなよー!」
祐司:「つーか俺たちはそもそも出来損ないの集まりだ。そういう奴らってさ、まずは受け入れられるとかそういうこと考えずに、がむしゃらに頑張ってみねぇとダメだと思うんだわ。」
花奏:「で、ですが・・。」
愛:「祐司の言うとおり!それに、壁に当たったら私達が助けるから!一人じゃないよ。」(あれ?私華麗にスルーされた?でも慣れてきてる自分がいるわ。)
光:(祐司さん愛さんのあしらい方プロだなぁ。リスペクト。)
愛:「あ、それに私は貴方を必要としてるから今ここにいるの。貴方に可愛い制服を作って貰いたいし、赤字だらけのあの店を何とかして欲しいの!頼む!!」
花奏:「私を・・。必要と・・?」
光:「この人の言うことはいつも的外れなんですけど・・。今回ばかりは賛成です。正直、僕たちってまともな人いないから、こんな人たちと働くのは嫌かもしれないですけど・・。」
祐司:「少なくとも俺たちはお前の力が必要だな。」
花奏:「私何かでいいんですの・・?」
愛:「貴方じゃなくちゃダメなんだよ!」
花奏:「で、ですけど私なんて・・。」
愛:「花奏ちゃん。ネガティブすぎるわー。」
花奏:「う、うるさいですわ!」
愛:「察してると思うけど私は貴方のお母様のこととか知ってるよ。でもって、貴方に非は無いと思う。」
花奏:「・・・!」
光:「ていういか問題は西園寺さんのお母さんにあったんじゃ・・。だからそんなに自分を責めないで下さい。悪いのは確実に親なんだかr」
花奏:「お母様を悪く言わないでください!!!」
光:「わ!ご、ごごごごめんなさいぃぃ!そんなつもりではぁ!!」
花奏:「お母様は・・お母様は悪くありませんの!全ては私の責任ですわ。私がお母様のご期待に答えることが出来ずにいたから・・。」
愛:(ちょっとムカついてきた・・。)
花奏:「・・私なんてお役に立てませんしもう嫌なんですの。あんな気持ち!!」
愛:「・・ごめんちょっとキレるわ。」
光:(え、怖いから早く逃げy)
ガシ〔祐司に腕を捕まれる〕
祐司:「この先また何回かこいつのこの姿見るかもしれねぇだろ。慣れとけ。」
光:「そんなぁ!はーなーしーてくださいいいい!!」
祐司:「大丈夫だ。『ちょっと』って事は前ほど酷くはねぇよ。ほら、あん時みたいな雰囲気してねぇだろ。」
光:「ほんとだ。んー・・。でも・・怖い。」
祐司:「そこはしょうがない。」
愛:「ねぇ。あんたは母親から認められたかったんだろ?」
花奏:「え、ええ。」(言葉遣いが変わった・・?雰囲気もなんだか・・。どういうことですの?)
愛:「認めて貰いたいなら認めろ。」
花奏:「認める?何をですの。」
愛:「自分の弱さも強さも全て認めてろ。自分に自信がない奴が他人の心を掴めるわけが無い。」
花奏:「ですが・・もうあんな思いは嫌ですの!失敗ばかりで、惨めで、徐々に心が崩壊していくあんな思い・・。貴方には分かりませんわ。」
愛:「・・・・・。失敗ばかりで認めて貰えず、毎日毎日暗い日々。頑張って猛練習して賞を取ってもダメ。でしょ?」
花奏:「そ、それくらい誰にだって予想できますわよ!そんな事しか理解出来ない程度じゃもう決まりのようですの。お引取り願いますわ。」
〔ドアを閉めようとする〕
愛:「でも母親は嫌いになれない。」
〔花奏の動きが止まる〕
光:「何で・・嫌いになれないんですか。子供を認めようとしない親なんて・・。」
愛:「家族ってよっぽどの事がないと嫌いになれない。前にも言ったでしょ。それは時に子も同じ。例えよっぽどの事があっても嫌いになれない時だってある。もしそれがたった一人の親ならなお更ね。」
光:(あ・・。そうか。花奏さんの親は離婚していて父親のほうはもう家庭がある。だから彼女の家族は母親一人だけも同然。)
愛:「たった一人の母親。嫌われて失ってしまうのが怖くて認めて貰いたかった。どんなにひどい事言われても嫌いになれない。だから何も出来ない自分の事が嫌いになってくるだけ。てこと。違う?」
花奏:「・・・私が叔母様の元へ行った時、少しホッとしてしまいましたの。安心という感情が不本意にも芽生えてしまいました・・。自分が不甲斐ないせいでお母様を満足させられなかったのに、そのまま贅沢な暮らしへ逃げている自分には安心感を覚える資格なんてありませんのに・・!私はそんな自分が許せませんわ。だってそうでしょう?大切なお母様を幻滅させておいてその居場所から逃げ去ったなんて・・。それだけでは収まらず、新しく頂いた叔母様のいる居場所までも私のわがままでここに移らせてもらって・・。こんな愚女・・!お母様だって愛想尽きますわ!」
愛:「居場所っていうのは自分が自分でいられる場所のこと。ずっと母親に気を使わなくちゃならない所は居場所何かじゃない。」
花奏:「自分が自分でいられる・・?」
愛:「あんたは一度たりともちゃんとした居場所を掴んだことない。居場所は見つけるもの。」
花奏:「もし・・。見つからなかったら?そしたら結局は私みたいに一人になるしか道はありませんわ。」
愛:「うん。私もそう思ってたことあるよ。でもね、見つからないなら作ればいいんだよ。だから私は作った!」
祐司:(やっと落ち着いたか・・。)
花奏:「でもそんなこと早々出来ませんわ。貴方がイレギュラーなだけですの。」
愛:「イレギュラーかぁ・・。まぁ私もまだ達成してないんだけどね~。」
花奏:「・・・。はい?え、今『作った』って仰いましたわよね。」
愛:「ごめん訂正。厳密に言えば作ってる『途中』。」
花奏:「途中?」
愛:「うん。カフェを経営しながら皆と楽しく暮らすのが目的だもん。でもその『皆』ってまだ集まってない気がする。」
花奏:「私に・・・その『皆』の中に入れと申しますのね。」
愛:「もちろん強制じゃないよ。でもここが貴方の居場所かどうか入って探ってみたら?違ったら辞めてもいい。」
花奏:「辞めてもって・・。本当にそんなこと言ってよろしいのです?私が違うと感じたら本当に辞めますわよ!」
愛:「うんいいよ。居場所は探すもの。違うならまた居場所探しにいけばいいんだよ。他に行くところが無いからって無理して居座る必要は無い。この広い世界、居場所なんていくらでもある。まぁ、出来ればずっといて欲しいんだけどね。」
花奏:(『出来ればずっといて欲しい』・・・。ってええ!?わわわ私、こんなに思って貰ったの始めてですわ!少し・・いえ、かなり怖いですし、また傷つけたり傷つけられたりする関係になってしまうかも・・。ですが・・。恐れてばかりではいけません・・のよね。それは認めますわ。・・・そ、そういえばあの金髪の・・祐司、さん?と申したかしら。あの方、先ほど確か・・)
『受け入れられるとかそういうこと考えずに、がむしゃらに頑張ってみねぇとダメだと思うんだわ。』
(って言ってましたわよね・・。がむしゃらに頑張る・・・。やってみようかしら・・。怖がっていたら何も始まりませんが、また失敗してしまうかもしれません。また自分を嫌いになってしまうかもしれません・・。も、もしかしたらまた・・。あの冷酷な視線を浴びることになるかも・・。で、ですが・・。覚悟を決めますわ。怖いけど、がむしゃらに頑張りますの。)
花奏:「まぁ・・。いいですわよ?入って差し上げても。そこまで言うのなら。」(わ、私の大バカ者ですわー!!何でもっと素直言えないんですの!!バカバカバカバカ!)
愛:「やっっったーーーー!!!!これで経営難は逃れられる!!花奏ちゃんみたいな可愛い子が入ればきっと人が来てくれるはず!」
花奏:(あんな返事なのにとても喜んでくださってますの!逆に良心が痛みますわ!!)