a middle part ‐ 2 .
車から降りて、アタシたちは玄関に向かった。ログハウスの主に会わないことには、約束は果たせないのだ。
だけどそのログハウスの主は……
「――居ないか?」
「……うん、そうみたい。鍵がかかってる」
「……そっか」
「約束してたのに……」
「忙しい人だからな。仕方無いないさ。三人でもいいじゃないか。な?」
「……うん」
見るからに気落ちしてるアタシを見かねてか、珍しく蒼葵が、慰めの言葉を掛けてくれた。
普段は三枚目だけど、こういうやさしいところもあるのだ。
だけどその心遣いにもアタシは、力なく微笑むこととしか出来なかった。
それくらい、本当に残念で仕方なかった。蒼葵もそれ以上は何も言わず、しばらく二人の間に沈黙が訪れる……――
――って、あれ?
いつもならこんな時、あの小悪魔が口出ししてくるはずなんだけど……?
「琴沙?」
「……すごぉい……」
「……ああ。これか……」
たぶん、車から降りた途端にコレを目にしたのだろう。
今夜は新月で、いつまでたっても月が姿を見せることはない。
その月明かりに足りるだけの光量は、星たちが放ってくれている。
まさしく、星月夜。
琴沙は、車の傍で胸にフルートのケースを両手で抱いたまま空を見上げ、そこに果てしなく広がる星の大海原に魅入られ、見入っていた。
気持ちはよくわかる。アタシも、初めてこれを見た時はそうだったから。
この光景を初めて見た人は、きっと心奪われる。たぶん、どんな人でも。
そんな琴沙の様子に、それまで沈んでいたアタシの心が、羽根のように軽くなった。
「ほら、そんなところでぽかんと口開けてないで。例のやつやるぞ? 準備しろ」
「え? あ、うんッ」
琴沙は、呆れたとばかりに溜め息を吐いたアタシの呼びかけに気付き、返事と同時にフルートケースを掲げ――って、ちょっと待て。
ふとトランクの辺りで、ヴァイオリンケースを取り出していた人がいるのが見えた。
アタシは驚いて、その人物の元に駆け寄る。
「ついさっきまでアタシの傍にいたのに。一体いつの間に車に戻ったんだ?」
「禾楓ちゃんが琴沙ちゃんを見つけてすぐだよ。禾楓ちゃんが元気になったから、オレも準備しなきゃなと思って」
「…………」
油断した。
満面の笑みで言う蒼葵を見た途端、説明のつかない熱で顔中が紅潮したのだ。
それを髪で隠すように、アタシはとっさに視線を外してしまった。
「そ、そうか」
「そっ♪」
「……あ、アタシも、準備しなきゃ」
それ以上話し掛けるスキを与えまいと、蒼葵の隣でキーボードと専用スタンドを取り出し、すぐにその場を離れた。
後ろを振り向かなくても、アタシの数歩あとを蒼葵が微笑みながらついて来るのがわかるのが、何となく悔しかった。