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テスト近いです……次を早く出せるよう頑張ります!

人は、道に迷ったときどうするか。

他人に道を聞くか。それとも、自力で正しい道《答え》を探すのか。はたまた、そこで諦め引き返してしまうのか。

俺は思うのだ。たとえそれがどんな道であろうと、目的地へと向かう正しい道《答え》を目指し、探し、歩む事こそが"成長"だと――



今俺は木の下に腰を下ろし、数少ない荷物の中から内容を暗記するほど繰り返し読んだ小説を取りだして、ゆっくりとページを捲っていた――


結果から言うと、俺はあれからしばらく歩き続け、無事に山道から抜け出ることに成功した。

なのだが、そこからが大変だった。

俺が出た場所、その周辺すべてが畑で埋め尽くされていたのだ。

田舎ではよくある光景なのだが、逆によくあり過ぎる光景のため、今いる場所がどこなのかが特定できなかった。

真倉から送られてきた地図も、現在地が分からないため機能せず、しばし途方に暮れていたのだが……。

そんな時に携帯電話の、GPS機能を応用した道案内アプリを発見し、俺はそのアプリを使うことにした。


「最近は、こんな物も普及しているのか……随分と便利な世の中だな」


――ぽつりと、俺はそう呟くとすぐにアプリを起動させた。

それから俺は、それを元から内蔵してあった携帯電話と、アプリの開発者に感謝しつつ目印になるような場所へと歩き続けたのだ。


GPSが使えないなどというトラブルも発生せず、無事に目印になるような場所までたどり着くことができた。

それから真倉へ電話をかけたのだが、電話に出た真倉の機嫌は相当悪い様だった――



「……お兄ちゃん。なんでさっき、いきなり電話を切ったの」


通話をはじめて早々、不機嫌丸出しでそんな事を言われた。

しかしこれには、俺も多少言い返したい部分がある。

まぁ、我ながら単純な理由ではあるが。

それに"いきなり"電話を切った訳ではない事も言っておきたい。


「長時間の通話は、通話料金が高くつくからな。それと、切る前には一言ちゃんと言ったはずだぞ?」

「……だとしてもです。それでも、返事を待たずに切るのはやめてほしいです」


……理由はなんとなくだが察した。

心配したんだろう、俺の事を。

特段、心配する必要もないだろうに……。

そう思いもするが、しかしここは素直に謝ることにした。


「すまない、俺が悪かった。以後気を付けよう」


そして俺はそのまま、用件を伝える事にした。


「そういえば、用件を言っていなかったな。やっとだ、俺の知っている場所まで着いたぞ」

「むー……。分かったけど……お兄ちゃん」

「なんだ?」

「さっきのは、その……ひどいです。気持ちのやり場に困ります……」


恐らく、俺が思いのほかあっさり謝ったことが、あまりにも意外だったのだろう。

電話口から、真倉の拗ねたような、そしてどことなく安心したような声が聞こえてくる。

そして、ため息をひとつついた真倉は続けて――


「……アイスをひとつ、買ってきてくれたらうれしい……かも、です」


要約すると、アイスを買えば許したげる。と、そういうことだろう。


よく、女に甘いものを与えると機嫌がよくなると言うが、それはどうやら我が家の妹も例外ではないようだ。



そのあと俺は、真倉に現在地を伝えて歩き出そうとした。

なのだが、真倉は……


「西の一本杉の丘ですね、すぐに迎えに行きます!」


と、どうやらここまで迎えに来るつもりのようだ。

「遠慮しておく」と伝えはしたのだが

「迎えに行きますから」

と、聞く耳すら持たない状態だ。

真倉がこうなったら、なにを言っても無駄だということは、俺が一番理解している。


なので俺は昼間に一人、一本杉の真下で読書にふけっている。


遮蔽物しゃへいぶつが全くないせいか、冷たく涼しい風が、木陰で座る俺を突き抜けるかのように通りすぎる。


「気持ちが落ち着く場所だな……ここは」


この場所には昔、行ったことがあるような気がする。

記憶を振り返るために目をつむると、少しうとうとしてしまった。

夏の陽気と涼しい風に当てられて……ふと、ここ最近自分が寝ていないことに気がついた。


「真倉が来るまでの間、少し仮眠をとるか」


そう一人で呟くと、俺は微睡まどろみの中へと吸い込まれていった。



――あれはいつの事だろうか。

俺はいつもの道を、いつものようにランドセルを背負いながら走って行く。


「はぁっ、はぁっ……」


もう少し……もう少しであの場所まで着く。


狐玉総合病院こだまそうごうびょういんそこが俺の目的地だ。

この先の信号を渡れば、すぐに病院へと着く。


――思い出した。これは俺が小学6年生の時の記憶だ。

確か俺は、誰かに会うためだけにこの病院まで毎日毎日通っていたのだ。


――病院へついた俺は、毎日通ったからか知り合いになった受付の看護婦さんに挨拶をした。


「こんにちは」

「あらあら奏音君、こんにちは。また一人できたのかい?」

「はい、そうです。母さんは、仕事なので」

「まぁ!奏音君も毎日小学校からここまで、大変でしょう?」

「いえ、俺は大丈夫です。真倉いもうとが毎日苦しい思いをしているので。あにがしてやれることは、なんでもしてあげたいんです」

「奏音君は将来いい男に育つわね」


看護婦さんはうふふと微笑み、俺にいつもの台詞を言った。


「いつも通り、三階の左端、窓側の病室ね。今日も小説や、マンガかしら?」

「はい。今日は面白いマンガを友達から借りたから、真倉にも見せてあげたくて」

「そのマンガ、真倉ちゃんもきっと気に入るわ」


ありがとうございます。と、礼を言うと俺は階段を上り始めた。


「真倉ちゃん、早くよくなるといいわね……」


後ろの方から聞こえてくる看護婦さんの言葉が、少し遠く聞こえた。



病室前まで着いた俺はすぐに、病室のスライド式のドアを開けた。

中にはいると、病室の真っ白な壁が夕陽で真っ赤に染まっていた。


「奏音兄ぃ……今日も来たんだ」


窓からずっと外の景色を見ていたのだろう。

真倉が、病室へ入ってきた俺を一度も見ることなくそう言った。


「真倉見てよ、今日はマンガを持ってきたんだ」


やっとこちらを向いた真倉の、どこか哀しい顔を見るのもこれで何度目だろう。

抗がん剤であらゆる部位の毛が抜け落ち、皮膚は薄く青ざめ、見るからに血が足りていないその顔は恐らく栄養が不足しているのだろう、すっかりやつれれてしまっている。

本来こんなに弱りきった姿は、誰にも見せたくはないだろう。


「いい……読まない」


真倉はなにかを切り捨てるようにそう言った。


「マンガ、ここに置いていくね。よかったら読んでみて」


俺はそう言い残すと、真倉のいる病室をあとにした。


――結局今日もダメだった。

病院から出た俺は、自分の非力さを噛み締めながら、病気で苦しんでいる真倉を支えてやれていない現実にいい加減嫌気がさしてきた。

今の真倉は、精神的にとても危ないところにいる。

誰かが守ってあげなければいけないのに、誰も守ってあげることができない。

なぜなら、真倉本人が助けを拒んでいるからだ。

それがなんでなのか……俺はその場で少し考えた。

答えらしい答えは出なかったが、俺はひとつの確信を得た。


もう迷いはない。


真倉を助けたい。


今はそれだけで十分だと思った――。



「…………ゃん…」


遠くから声が聞こえた。


「お……ゃん…」


声が少しずつ近づいて来ている。


「おに……ゃん…」


誰の声だ?


「お兄ちゃん、お兄ちゃん起きて?」

「……ん……んぁ?」


目が覚めた。

少しの間仮眠をとるつもりが、思いの外深く寝ていたようだ。

あくびをしてから、その場でゆっくり伸びをする。

すると、眩しい視界が段々と、鮮明に鮮やかに色づき始める。

二度三度とまばたきを繰り返し、先程俺を起こした声の主を探す。

相手はすぐに見つかった。

相手はなんと、俺のすぐ目の前にいた。

顔を確認しようとしたのだが、赤く眩しく光る夕陽に阻まれてよく見えない。


「誰だ……?」


俺は自分の腕で夕陽を隠して、相手の顔を見ようとした。

――ちょうどその時だった。

相手は光を遮る影を作るように屈んで、自らの顔を見せつけるようにこちらへと近づいてきた。


「お兄ちゃん、いつまで寝ぼけているつもりなんですか……。私ですよ、真倉です」


肩甲骨半ばまである、サラサラと細くて茶色に近い黒の髪を耳に掻き上げながら、俺の妹こと萩間はぎま 真倉まくらは、わざとらしく自分の腰に手をあてて「むー……」と唸っていた。


「こうして実際に会うのは久しぶりだな、真倉。お前、見ないうちに随分と可愛くなったんじゃないか?」

「な、会って早々いきなり何てこと言うんですか、お兄ちゃん!」

「何って俺の素直な気持ちだが?」


そう、真倉は俺が見ないうちにとんでもない成長をしていたようだ。

身長は160㎝程になっていて、肌は初雪のように白く、全体的に肉の薄い体つきだが、昔に比べれば相当肉が付いたと言えるだろう。

今真倉が着ている白を基調としたワンピース。それが真倉にとてもよく似合っていて、俺が今こいつを儚く可憐な美少女だと言ったとしても、誰も文句は言わないだろう。


「んー……もぉ。お兄ちゃんはいつもそうやってなんでも褒めればいいと思って……。私なんかをおだてても、なにも出てきませんよ?」


そういう真倉の困った顔も、とても可愛く思える。


「真倉、お前……変わったな」


随分と成長したんだな、病気で弱りきっていたあの頃から……。


「どれもこれも、全部お兄ちゃんのお陰なんだよ……」


真倉は俺が聞き取れないほどの声量で、何かを呟いた。

俺が「ん?」と聞き返す前に、真倉は続けて言った。


「あ、お兄ちゃん。早く家に帰りませんか?」


そう言って真倉は丘の下の方を指差した。


「お母さんが待っているので、早く行きましょう」


そう言って丘をくだる真倉のあとを目で追った。

真倉が、自分が指差した方向へとトットットッ、と軽く跳ねるようにスキップしながら進んでいく。

真倉の進む先には、白の軽自動車があった。

真倉は寸分の迷いもなく、その軽自動車の方へと進んでいく。

つまりは――


「お母さん、奏音お兄ちゃんいましたよ!」

「あらあら、随分と機嫌がいいのね真倉。それで、当の奏音はどこにいるのかしら」


振り返った真倉がこっちを見て、「早く早く」と言わんばかりに手を振ってくる。

俺もずっとその場で座っているわけにもいかない。

あることを心に決め、俺は不本意ながらその場から立ち上がった――


その後、自宅へ向かう途中に乗り物酔いを起こしたことは言うまでもない。

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