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8月29日~1stday~ 帰宅Ⅲ

お待たせしました!

文字数が予定よりも増えたため、更新が遅くなってしまいました~


駅前で小一時間アカギツネ達と共に休息をした後、駅から少し離れた所にある森の斜面を下っているところで、俺はあることに気が付いた。


「ヤバイな。メールの返信、すっかり忘れていた……。」


ポケットの中から、黒い携帯電話を急いで取り出す。

その場で立ち止まり、電源を入れて携帯電話が起動するのを待つ。

しばらく経ち、携帯電話が起動したのを確認すると俺は真倉からのメールを確認すべく、メールボックスを開いた。

メールボックスを開くとそこには、狂気ともとれるほど大量のメールが届いていた――。


「これ……約一分毎に届いてるぞ……」


画面いっぱいに、おそらくすべて真倉から届いたのだと思われるメールの山が、届いた時間を丁寧にも、秒単位で示してくれている。

正直メールを開くのにも抵抗を感じてしまうのだが、内容を見ないことには返答のしようがないため、たくさんあるメールの中から適当なものを選び、開くことにした。

何が待ち受けているのかと戦々恐々しつつメールを開くと、そこには――




『奏音お兄ちゃんへ』


お兄ちゃん、今どこにいますか?

できるだけ早く連絡下さい……お願いします。

もう村には着いたのですか?

予定通りだったらもう近くまで来てるはずですよね?

連絡下さい、すぐに迎えに行くので。

もしかして、道に迷っているのですか?

もしそうなのでしたら、ここ周辺の地図をメールに添付しておきます。

それと、確かお兄ちゃんは、自転車で移動なさっているんですよね?

なら、特別急がなくてもいいので、安全運転で、事故にだけは気をつけて下さい。

あとは、メールの返信や通話なのですが、村の周辺は電波環境があまり良くないので、村の中に入ってから連絡なさるのをおすすめします。


P.S.お兄ちゃんを困らせてばかりの役立たずで不甲斐ない妹ですが、お兄ちゃんのためなら、どんなことでもやります。些細な質問等あるようでしたら、死力を尽くして返答いたしますので、お気軽にご連絡下さい。


萩間はぎま 真倉まくらより


……その、追加でひとつ確かめたいことがあるのですが、今日で合ってますよね?お兄ちゃんが符月菜村に戻ってくる日は。

もし間違ってて、仕事中とかだったらごめんなさい。

カレンダーにもちゃんと日付を書いてて、何度も見ているんですけど……心配で。

合ってたらいいんです!

けど……こんなこといってて、間違いだったら、その……恥ずかしいので……

と、とにかく!早く会いたいんです!

れんろく待ってます!




――そこにはそう綴られていた。

他のメールも少し読んだのだが、すべてこれと似通った内容で、これを約一時間の間に百回近く送ったとなると、それもある意味尊敬に値する。

いうなれば、『心配性の人間に、懸念を抱かせ、それをしばらく放置していたらこうなった。』みたいな状況だ。

……いや事実、現在そうなっているのだろう。

(メールの最後の方なんて、とてもじゃないが、あいつが書いたようには思えないしな。)

尊敬しているのかそうじゃないのかよくわからん言葉遣いから始まり、最後のあの誤字ときたものだ。

一体何なんだ、"れんろく"って……。

そんなことを考えながら、俺はメールの返信を手早く済ませる。


「まぁ、こんな感じでいいか。」


一度、自分が書いたメールを見直す。




真倉へ


もう、村には着いている。

今は家に向かって歩いているが、少しばかり時間がかかりそうだ。




少しばかりユーモアに欠けている気はするが、古くからの友人にパーティーの招待状を送るというわけでもあるまい。

そこは特段気にする必要もないだろう。


俺は一息つくと、メールの送信ボタンを一思いに強く押した――。



メールの送信から十秒ほど経った頃だろうか。

なんの予告もなしにいきなり、携帯電話が小刻みに震えだした――。


「――っ、」


……ビクり、と体が嫌な反応を示す。

恐る恐る携帯電話の画面を覗くとそこには、"真倉から着信"との表示が……。

ズボンのポケットへと携帯電話をしまおうとしている最中の出来事だったためか、俺は少し、戸惑ってしまったようだ。


「はぁ……」


と、ついつい安堵の息を漏らしてしまう。

こんなところまで来ても、"癖"というものは厄介なことに、簡単には抜けてくれない。


「……全く。この警戒心はどうにかならないものか」


原因は恐らく、警戒を怠るな、と日々教え込まれていたからであろう。

(……いや、それとも――。)

まぁ、どちらにせよ、今日から始まる"日常生活"には関係のないことだ。

そう一人で結論付けた直後だった。

――携帯電話の震えが止んだのは。


「……あ。」


このとき俺は、自分の悪い癖ランキングに、"物忘れ"という項目を追加した――。



その後すぐに、真倉へ折り返しの電話をかけた訳だが……。


「お前、電話にでるの早すぎだろ……」


電話をかけてすぐに真倉がでた。

――ワンコールすらしていない状態で。


「私が早いんじゃなくて、お兄ちゃんが遅いだけだと思います……」


何故か少し呆れ気味にそう言われたのだが、どうやら真倉の不機嫌は連絡が遅いことに対してだけではないようで――


「……お兄ちゃん。聞きたいことがあるのですが、少しいいですか?」

「ん、なんだ?」

「先程のメールの件についてなのですが。」

「どうした、何かおかしな所でもあったのか?」

「私の記憶違いじゃなければ、お兄ちゃんは自転車で移動中のはずですよね?」

「いや、全然違うが?それはきっと記憶違いだろう。」


大体この話の内容がわかった。

真倉は昔から、変なところで勘が鋭い。ここは適当に別の話題に――


「お兄ちゃん、嘘は……ダメですよ?」

「嘘はついていないぞ。」


そう、嘘はついていない。


「じゃあお兄ちゃん、今何で移動しているの?」

「徒歩だ。」

「――ほんとの事をおっしゃって下さい!」


いつになく真剣な真倉の声はおそらく、俺を心配しての事だろう。

(本当に昔から俺のこととなると、何かにつけて心配ばかりするな、あいつは。)

俺がそんなにも頼りなく見えるのだろうか?

これでも、人並みになんでもこなせる自信はあるのだが。


「……はぁ、わかったわかった。」


俺は素直に降参し、どうやってこの村まで来たのかを、簡潔に説明する事にした。


「昨日と一昨日の二日間は自転車、そして今日の朝方に駅を見つけてな、電車を使ってここまで来たんだ。」

「ほんとうに……ですか?」

「ほんとだ。嘘は一つも吐いていない。」


というのも、朝方というのが午前九時半に該当するのであれば、だが。


「そう……ですか、そうですか……」


よかった、と電話越しに安堵の胸をなでおろす、真倉の声が聞こえる。

すると、真倉は続けて――


「本日午前九時頃、高速道路で自転車とトラックが衝突!一体そこで何があったのか!?ってお昼のニュースで大々的に報道されていたので、つい……お兄ちゃんの事じゃないかって……私、凄く……凄く……心配、っしたんですよ?」

「――!そ、そうかそうか、それは気苦労も絶えなかっただろうな!要らぬ心配をかけたようだ、悪かった。」


電話口で、言葉もたどたどしく今にも泣きだしそうな真倉に、俺は労いの言葉をかける。


「……もぅ、お兄ちゃん。最後のは余計です。妹とは常々、兄を心配して生きる生き物なのですよ?」


よくもまぁ、こんなにも良くできた妹に育ったものだ。

兄として、この言葉以上に言われて嬉しい言葉なんてないな、と俺は素直に感動していた。

そして俺は心のなかで、そんな妹に心配をかけ、高速道路を自転車で疾走し、挙げ句にトラックと衝突した事を、心から反省していた――



「あ。すっかり聞くのを忘れてました、お兄ちゃん――」

「なんだ、まだ何か聞きたいことがあるのか?」


少し時間が経ち、俺も反省し終えた頃に、声のトーンを聞く限り、落ち着きを取り戻したであろう真倉は、もうひとつの疑問を俺に投げ掛けた。


「……家の場所、覚えてますか?」


……そう言われた途端に心配になってきた。


「あ……ごめんなさい。変なこと聞いちゃいました……」


確かに自分の家の場所くらいは覚えている、覚えているのだが……


「悪い、真倉。現在地から家までのルートがわからない。」


先程真倉から送られてきたメールに添付されていた地図にはなんと、俺の今いる森の道が存在していないことになっているのだ。

まぁ、それも仕方のないことだろう。人間一人がやっと通れるくらいの、ほんとに小さな森の脇道をいちいち道路と数えていたらキリがない。

だから、この先どこに出るかわからない道を、ただひたすら進んでいる俺は、どうすればいいのかと必死に悩んでいる訳だ。


「お兄ちゃん、今どの辺りにいるの?」

「どの辺り、か……。」


ここは符月菜村のどの辺りなのだろうか。

まずは広い道へでなければいけないな。


「真倉、悪いが一度電話を切るぞ。」


俺はそう告げると、半ば一方的に電話を切り、再び山の斜面を下り始めた――


次の話からサブタイトルが変わります。

それと、最近別のシナリオにチャレンジしているので投稿ペースが落ちるかもしれません……

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