恋先輩とのデート!??
多種多様な服装をした男や女がまばらにオシャレをして立っている。
「お待たせ 〜」や「待った〜?」などの声があちらこちらから湧いたように聞こえてくる。
はぁー、と心の中にある自分でも良く分からない何かを吐き出す。
そんなことをしている内に、緑に近寄ってくる1人の女の影があった。
「よー!」
屈託の無い満面の笑みで恋先輩から声をかけられた。
その姿は普段研究室で見るそれとは大きく異なるもので緑は面を食らっていた。
「こんにちは…」
「どうしたー? 元気ないぞー!」
いつもの調子の先輩に少しホッとして何でもないですよ、と言った。
夏の日差しを気にしてなのか、少し大きめの帽子を被りノースリーブの白いワンピースを着ている。
その丈は膝より少し上。
緑はその美貌にこの格好の恋先輩に緊張していた。
「じゃ、行きましょうか」
いつもの緑では考えられないほど弱々しい声だったので恋先輩は少々驚いている様子を見せた。
ディゾニーシーまでの電車の中。2人は微妙な位置関係に座り、空間は静寂を守っていた。
「次はー舞浜駅、舞浜駅ー」
車掌さんからのアナウンスが入り2人は無言のまま立ち上がる。
傍から見れば異様、としか言い様のないものだった。
「ここからは近いので歩いて行きましょう」
ようやく緑は言葉を発した。
しかし、恋先輩はそれに取り合うことなく黙ってコクりと頷くだけだった。
「どうかしました?」
あまりにも恋先輩が話さないので緑は訊いた。
「えっ、あー、大丈夫だよ!」
話が噛み合わない…。緑は思い切って訊いた。
「緊張してます?」
「そ、そんなー……。あはは、バレちゃったか」
力無く笑う恋先輩に胸の鼓動が速くなるのを感じた。
「お、おれもですよ」
恥ずかしさのあまり緑はうつむいてそう告げた。
「なーんだ! そうならそうと言ってよー」
少しぎこちない部分はあるけれど微妙に元の恋先輩に戻った気がして少し表情を緩めた。
チケットを使い2人はディゾニーシーの中へ入っていった。
「何乗りますー?」
「あれだよー、あれ!」
「あれって何ですか?」
互いの緊張は大分解かれ普通に会話しているように見える。
「あの、ビューんって上がってドーンって落ちるやつ!」
「ごめんなさい、全然わかんないです」
苦笑する緑。
「ちょっと入場の時にもらったマップかして!」
恋先輩にそう言われ緑はマップを手渡そうとする。
その時、互いの手と手が触れ合った。
『あっ』
2人揃って同じ声をあげ、顔を赤らめた。
どこまでもウブな2人はハニかんでから謎の効果音の正体がタワーオブディラーだと判明し、そこへ向かった。
「うわー、1時間30分待ちだって」
とてもテーマパークに遊びに来ている人がする顔ではない顔をしながら恋先輩は言う。
「そんなこと言ってちゃ何にも乗れませんよ?」
列の最後尾に向かいながら恋先輩に提言する。
そんな〜、など1人でグチグチ言いながらも緑の隣に並んだ。
待っている間はこれまでの2人からするとびっくりする程の会話をした。
「乗らなきゃよかった…」
乗り終わった後の恋先輩の第一声はそれだった。
先輩の顔は夏の青空より青くこの数分間で一気に頬がコケたように思える。
「だ、大丈夫ですか?」
このようなアトラクションが得意な緑は心配のあまり声をかけた。
「生きてるのが不思議だ。今にも口から心臓が飛び出してきそうだ」
本当に気分が悪そうな表情で言ってから「テレビは信用ならん!」と加えた。
次に2人はインディーボーンズのアトラクションに向かった。
理由は1つ。テレビで人気アトラクションとして紹介されていたからだ。
先ほどまで信用ならん!と言っていた恋先輩も楽しげに向かっていた。
「さっきのあの台詞は…」
ボソボソと口篭りながら緑は言った。
「待ち時間が2時間。さっきのより長い」
もぬけの殻のように恋先輩は言う。
「長いですね。でも、これは楽しいらしいから並びましょうよ!」
そう言う緑を疑いの目で見ながらため息を吐き列に並んだ。
「あっ、そう言えば!」
列に並んでから約30分が経った頃。緑は思い出したかのように恋先輩に声をかけた。
「なんだ?」
先ほどの恐怖がまだ残っているのか顔を青ざめたまま返事をする。
「もしですよ。もし月が元に戻らなかったらどうなるんでしょう?」
「わからんな」
そこからは2人は互いに少しずつ話ながら時間を過ごした。
アトラクションから出てきた2人の顔は満足そのものだった。
「いや〜、楽しかった!」
恋先輩は今にもジャンプしそうなくらい楽しそうである。
「ですね。でも、時間も時間だしそろそろ帰らないとですね」
「何っ!?」
慌てて時計を探す、恋先輩。しかし、やはり夢の国ディゾニーシーでは簡単に時計は見つからない。
隣の緑がスマートフォンを手渡す。
「スマホ見ればいいじゃないですか」
苦笑しながら画面をつける。
「うひょー」
気の抜けた声を発する。
時間は午後6時52分だ。明日学校は無いが、研究所へは行かなければならない。
更に今から新しいアトラクションに乗ると終わる頃には8時を回るだろう。
そんなことを考え恋先輩は落胆する。
「ご飯食べて帰ります?」
先輩に時間があればですけど、と付け加え緑は提案した。
曇っていた恋先輩の表情に光が灯る。
「うん、行こう!」
そう返事するや否やマップを広げレストランを探し出した。
隣の緑はこそっと財布を取り出し残り残高を確認した。
"ブフェ"という名のレストランに入った2人。運のいいことに席にまだ余裕がありすぐに座ることが出来た。
2人は揃ってパスタを食べることにした。理由は1番安いわけでもなく1番高いわけでもない中堅の値段だったからだ。
「うん、まぁまぁいけるじゃん」
恋先輩は屈託の無い笑顔でそう告げる。
「ですね!」
フォークで麺を巻きながら緑は返事をする。
「あっ、知ってます? パスタって食べるとき基本音立てちゃいけないんですよ?」
ラーメンを食べるごとくズルズルと音を立てながら食べる恋先輩に緑は悪戯な笑みを浮かべて言った。
「っ…」
口に入れたパスタが出てくるのでは無いかと思われるほど大きな口を開けて驚く恋先輩。
それを見た緑は見本を見せる様にフォークに巻いた麺をスプーンに添え口元へ運びゆっくり食す。
「おお…」
思わず声を漏らす恋先輩。緑は誇らしげだ。
パスタを食べ終えた2人はお会計へと向かう。
緑は2人分払うと言う。それを許そうとしない恋先輩。
最後は誘ったのは俺ですからと言って緑が払ったものの恋先輩の食いつきには驚いたものだった。
「お土産見ていきます?」
その一言に悩んだ様子を見せてから行こうか…な?と呟く恋先輩を横目に緑は笑顔でいた。
「これつけてみてください!」
お土産屋に入った緑はディゾニーシーで1番人気があるニッキーの耳付きのカチューシャを恋先輩に渡しながらテンションをあげて言った。
「んー、こうか?」
恥ずかしさで顔を少し赤らめる恋先輩にそのカチューシャはとっても似合っていた。
「にあってますよ」
あまりに似合い過ぎていたため緑は片言になった。
「そ、そうか。ありがとう」
よそよそしい空気が流れる。
その空気を打開するために緑はこのチケットをくれた潤にお土産を買って帰ろうと提案した。
それに同意した恋先輩はカチューシャを元あったところに戻した。
「楽しかったですね!」
帰りの電車の中。手には中くらいのディゾニーシーならではの袋を手にした緑が笑顔を向ける。
「そうだな」
こちらも満足げな笑顔を浮かべる。
しかし、満員電車のため座ることができない2人の顔色は少し疲れているのを感じる。
1つ目の駅に着いた時、座っている人の何人かが立ち降りて行った。
緑はまばらに空いた席の1つを確保し恋先輩を呼んだ。
「先輩、座ってください」
「い、いいのか?」
「はい!!」
その眩しいほど真っ直ぐな笑みを見詰めながら恋先輩は座った。
その前にぶら下がっている吊革を握り緑は立った。
自分たちの降りるべき駅に着いた。
2人はディゾニーシーの余韻に浸りながら会話をし駅の改札を抜け、外に出た。
「楽しかったです、先輩!」
「ああ、私もだ!」
2人の笑顔に嘘偽りは見えない。
「ではまた、明日!」
手を振りながら緑は言う。
「また明日。では、私はこっちだから」
少し寂しそうにも見えた恋先輩は9時前だと言うのに人がたくさんいる駅前を歩く。その後ろ姿が見えなくなるまで見送った緑は「帰るか」と呟き帰路についた。




