可視光線延長グラス
国の緊急対策研究室に入ってから約1か月。
赤い月出現より約2か月。
生物の巨大化や原因不明の病だけでなく、人間の腕や脚、顔など衣服で隠せない場所が次々と壊死していく現象が見られた。
1か月前の適性検査をパスしたのは緑、恋先輩、そして中学生の三浦潤だった。
独創的な発想とその行動力と駆られてのことらしい。
「ロクちん! 何かわかったー?」
ロクちん、これは潤によって付けられた緑のあだ名だ。
「いや、何にも」
特に何の感情をも抱いていないような脈絡で返事をする。
「じゃー、これ使ってみよーぜ! おれパクって来たんだ!
研究室から!」
やけに嬉しそうな表情で言うとサングラス的な色付きのガラスのメガネを見せた。
「これは…」
潤が言おうとした瞬間。
「可視光線延長グラス」
緑は先にそう口走った。
「えっ、ロクちん知ってたの?」
鳩が豆鉄砲をくらったように驚きをあわらにして訊いた。
「えっ…。まぁ、一応」
驚かれたことに驚きたじろいだ。
「じゃー、話は早い! これどうやって使うんだ?」
キョトンとした顔で聞いてくる。
「し、知らねぇーの?」
「うん」
真顔で答える潤にため息をついて説明をはじめた。
「人間が目に感じられる光のことを可視光線って言うだろ?」
緑は確認を取るように目を向ける。
「ああ、それはわかるぜ」
「そっか。光は波長の長さによって見える色が異なることは知ってるか?」
「おーよ! 1番波長が大きのが赤。逆に1番小さいのが紫! 赤より大きいのを赤外線、紫より小さいのを紫外線って言うだよな!」
「そうだ。でも、このメガネを掛けると赤外線や紫外線までもが見えるようになるんだ」
「へぇ〜」
潤は感心しきった顔だ。
そして時は過ぎた。現在9時32分。緑と潤は研究所から少し北へ移動したところに存在するサークルマンションというマンションの屋上にいた。
「よーし、じゃ、見るか!」
ノリノリの潤は可視光線延長グラスをかけた。
「うぉー、やべぇー! 色鮮やかすぎだろ!」
辺りが暗いため表情を読み取ることはできないが声はアゲアゲだ。
「ほれ、見てみ!」
外したグラスを緑に手渡しながら言った。
「おう」と短く答え緑はそれを掛けた。
驚いたことに今まで見えなかったはず黒色だった部分に色がついていた。
空からはまるで光線のような紫色の線が無数に伸びてきている。
「こ、これが紫外線…。夜にもあるんだ…」
感嘆の声を漏らしつつ視線を赤い月へと移した。
「なっ…」
思わず声が出る。
月から出る光は赤色だった。その上、妙にゆらゆらと揺れている。
そのことに疑問を持った緑はグラスを潤に返してから勢い良く駆け出した。
「ちょ、どこ行くんだよ!」
突然走り出した緑に慌てて声をかける。
「研究室だ! もしかすれば、分かるかもしれねぇ!!」
その声は歓喜に震えているようにとれた。




