恋先輩
ふぅー、と息を吐きながら化学室を目指す緑。
学校指定のスリッパを鳴らしながら廊下を歩いている。
「遅かったではないか!」
ドアを開けた瞬間、そんな声が聞こえた。
「な、何ですか?」
「何ですか、じゃないだろ〜」
そう言う女。名を高橋恋という。
容姿ははっきり言って完璧。モデルにだって負けてない。しかし、問題はその趣味にあった。
生物解剖。彼女の趣味はそれだった。だから、男も寄り付かない。
宝の持ち腐れ、というやつだ。
「いや…、おれにとっては何ですかなんですけど…」
「まぁ、いいじゃないか!」
あっ、誤魔化した。
緑は心の中で思ったが口に出すと先輩の長い話が始まるのでその言葉を飲み込み言った。
「何かあったのですか?」
「何かじゃないよ! 国の研究室が人員募集を始めたんだよ!!」
「え、えっーーーーー!?」
緑は学校中に響きわたる声をあげた。
化学室にいる人は皆手で耳を塞いだ。
恋は緑の口が閉じたのを確認して手を耳から話すと睨みつけるようにして言った。
「うるさい、バカ!」と。
「すいません。でも、それっておれらも行っていいんですかね?」
「さぁな。適性検査さえパスすればいいんじゃないか? 年齢制限ないみたいだし」
そこまで聞くと緑は目を輝かせた。
「恋先輩! 受けましょうよ、適性検査!! みなさんも!」
化学室にいる人全員に向けて緑は言った。
「そう言うと思いましたよ、緑くん」
開けっ放しになっていた扉に手をかけた白衣を着た男がそう言った。美ノ上先生だ。この前、緑と蟻の観察をしていたのもこの先生だ。
「先生! いいですよね?」
いいです、と言えとばかりの迫力で緑は迫る。
「いいですよ、履歴書は先生が送っておきました。全員分ね」
含みのある笑顔で呼びかけてから先生は颯爽と立ち去った。
「美ノ上何なの!」
「何勝手に決めてんだよ!!」
教室のあちらこちらから不満の声があがる。
そんな時、パンパン、と手を叩く音がなり、静寂が訪れた。
「もう決まったことだ! 本当に嫌なら適性検査の時に自分なら絶対採用しないと思う行動を取れば良い」
恋はそう告げると手を顎の下に持っていき何かを考える仕草を見せた。そしてボソッと呟く。
「美ノ上…、何を考えてる……」




