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とある預言者の歩み  作者: N
天使と勇者の共同戦線
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とある北方の地は不死者に襲われる

この世界にはギルドと呼称される機関が、各地に存在している。

だが、北方の地にあるギルドは、俺が拠点としているロールスの街にしかなかった。ロールスの街のギルドに寄せられる依頼は不死者絡みのものが多く、そのほとんどが辺境地の村からである。

ほぼ一年中雪に閉ざされた北方の地では、不死者が発生しやすい。

ヴァンパイアハンターである俺の使命は、少しでも多くの不死者を本来あるべき姿へと還すことだ。そのため、不死者の発生しやすい北方の地に拠点を置くのことは当然である。


「それにしても、ルキアちゃん。どうしてダヴィードくんと組むことになったのかしら?」


前回引き受けた依頼が終わったことの報告と、今回引き受ける新しい依頼を探すため、俺とルキアシエルは一緒にロールスのギルドを訪れていた。


「知りたいですか?」

「もちろんっ!」


俺がルキアシエルの、天使の《勇者》になってから数日が経った。

それから依頼の度にギルドを訪れれば、受付嬢からギルドメンバーだけではなく、何故だかギルドマスターからも、いまルキアシエルが受けているものと同様の質問を口にする。


「ずっと誰とも組まずに一人で活動していたダヴィードくんが、ルキアちゃんみたいな可愛い女性といたらね。誰だって気になっちゃうもの」


その質問を俺の代わりに全て引き受けて対応するルキアシエルは、「ふー......ん、ところで先日引き受けた依頼の件なんですが......」と。慣れた様子で相手の質問をかわしつつ、自分の聞きたい情報を上手く相手から引き出してくるのだ。

いまも俺との関係を聞いてくるギルドの受付嬢に質問されていると思いきや、いつの間にか会話の主導権はルキアシエルへと移っている。とてもじゃないが、俺には真似できない芸当だった。

はっきり言って、俺は他人との交流が苦手である。

これは自分の生い立ちや特殊体質のこともあって、どうしても他人との距離を図りかねてしまうためだった。それでも俺をヴァンパイアハンターとして育ててくれた師匠は、俺の様々な事情を考慮した上で、一人で生きていくために困らないよう戦闘以外の技能も叩き込んでくれていた。

師匠の考慮がなければ、俺はいま以上に苦労を強いられただろう。

他人との交流は生きる上では必要なことだった。どうやらルキアシエルがいた天上界でも同様らしく、戦闘以外の技能も必要に応じて取得した結果。所属していた隊が少し変わっていたこともあり、あまり苦手なことがなくなってしまったのだと言う。

それならと、対人からの情報収集はできるルキアシエルに任せることにして、俺は依頼が貼られている掲示板を集中して見ることにする。

ギルド内の掲示板に張られている依頼は様々で、内容や難易度、金額設定もまばらだった。

数分後。俺は不死者絡みの依頼を見つけると、依頼が記入されている貼り紙に手を伸ばす。


「ダヴィード」


瞬間。久々に聞く懐かしい男の声が、俺の名前を呼んだ。

声の聞こえた方へと視線を向けると、そこには俺と同じくギルドに所属するステルクの姿があった。


***


俺は北方の主要地点となっているロールスの街を訪れていた。

この街のギルドは比較的大きく、立地の関係上、不死者絡みの依頼が多い。そのため、ギルドに所属するヴァンパイアハンターの多くが、この街を拠点としていることも多かった。

今回、俺がロールスの街を訪れた理由は、何かと気にかけているヴァンパイアハンターのダヴィードと会うためである。

ダヴィードの性格を一言で表すならば「警戒心の強い猫」だろう。

俺とダヴィードは互いの師匠同士が親友であり、修行時代から師匠の命で何度か共同依頼を受けたことがあった。また、独り立ちしてからも、極稀にだが利害が一致すれば、共同依頼を受ける間柄だ。

パーティを組むことはあっても、基本的にはお互い、ソロとして活動している。

だからこそ、その噂をギルドで聞いた時、俺は驚いた。複雑な生い立ちのせいもあって他人と行動することを嫌うダヴィードが、特定の誰かとパーティを組んだと言う事実に。しかも噂では、美しい女性とのこと。

残念なことに、まだダヴィードに会えていない。

ここ数日、ずっとギルドに顔を出してはいるのだが、タイミングが合わないのだ。

ダヴィードに会うためにロールスのギルドに顔を出して一週間。ギルド内にある依頼が貼られた掲示板の前で、依頼が記入されている貼り紙を手にしたダヴィードを見つけ、


「ダヴィード」


彼に声をかける。俺の声に反応して、こちらをダヴィードは向く。

ダヴィードは少しだけ目を見開き、すぐにいつもの顔に戻るがこのロールスの街に、俺がいることにかなり驚いている。


「...............ステルク......」


ようやく俺はダヴィードと会うことができた。


「どうしてここに?」

「ダヴィードが以前から欲しがっていた不死者絡みの情報を手に入れてな。ここ一週間はお前に会うために、この街に滞在していた」

「...............そう、か......」


不死者絡みの情報を聞けば、ダヴィードを取り巻く空気が一瞬にして変わる。しばらく会っていなかったが、不死者絡みの話題になると相変わらずだな、と。俺は思う。自分も恐らく、あの話題になれば、ダヴィードと同じような空気をまとうのだろう――とも。


「それにしても、この街は相変わらずヴァンパイアハンターが多いな」

「不死者が生息しやすい地域だからなのは、ステルクも知っているだろう」

「ああ。北方は他の地と比べると、不死者が多い」


「...............やつ、が.........やつが、いるからな。不死者はいくらでも現れるさ」


まるで実親の敵のように、ダヴィードは忌々しげに言葉を紡ぐ。


「ダヴィード、今回はその話だ」

「...............」


途端。ダヴィードは俺の予想していたよりも、酷く、闇を抱えた目をした。

自分の呪われた血を。

存在を。

取り巻く環境を。

理不尽に生まれた命を、己の感情のままに恨み、疎み、世界を破滅へと導きかねない。仄暗い光を宿した目だった。


「ちょっと、ダヴィード」


この不穏な空気を壊したのは、凛とした女性の声。「こんなところで殺気を振りまかないでよ」と、ダヴィードを落ち着かせるために、清浄な気を放つ彼女は言う。黒曜石の瞳と髪。すらりと伸びた手足に、細すぎない、戦士として鍛錬された身体。顔の造形だけではない、噂に違わぬ、美しい女性がダヴィードの腕に触れる。

すると、先程までダヴィードを取り巻いていた空気が和らぐ。


どくん


「...............君は?」


自分の心音が聞こえた。

天使。伝承だけだと思っていたが、本当に存在したのか。


ダヴィードの殺気が収まったことを確認した天使は、その視界に俺を捉えて「まだ想定内かな」と呟く。

そうして微笑を浮かべて天使は言う。


「はじめまして、ステルク・ジオ・ハーツ。私はルキアシエル。あなたが想像している通りの存在だよ」


***


ステルクの提案で、取り合えず、ギルドから酒場へと場所を移すことになった。

ギルド内で立ったままするには、ステルクから聞きたい話の内容は確かに込み入っていたし、それにルキアシエルのこともある。ステルクは凄腕の魔導剣士だ。恐らくだが、ルキアシエルの正体にも気づいているのだろう。

ルキアシエルの様子を見る限りでは、どうやらステルクに自分の正体を隠す気はないようだった。

賑わう店内の中でも比較的に落ち着いて話せそうな壁際の一角を見つけて、俺とステルク、ルキアシエルの三人は席に座る。


「適当に頼んでくれて構わないのだが、その、君の分はどうしたらいい?」

「んー......、適当でいいよ。いまのところ地上の料理はどれも美味しいから。あ、でも、お酒は飲みたいな」


ルキアシエルの回答に、ステルクは俺に助けを求めているようだった。


「...............こいつは本当に食べるし、酒も飲める......」


天使の生態について俺は知らない。けれど、ルキアシエルに限って言えば、美味しいからとの理由で人間と同じように食事もするし、嗜好品の類である酒も飲むのだ。

聖職者や信仰心の厚い人間でなくとも、自分たちが思い込んでいる天使像とは随分とかけ離れている。

だから、俺はルキアシエルをほとんど人間のように扱う。

ルキアシエルも天使として扱われ、変に気を遣われるよりも、人間と同じように扱われる方がよいらしい。


「何と言うか、君は、いい意味で天使らしくないのだな」

「そう?」

「ああ、親しみが持てる」

「なら、よかった」


そう言って、ルキアシエルは人懐っこい笑みを浮かべる。

やはりルキアシエルからは天使らしさを感じない。もっと言ってしまえば、俺よりも人間らしいのだ。


「ところで」


なのに、彼女は自分に与えられた役割を忘れない。


「ステルクも天使の《勇者》としての素質があるけど」


ルキアシエルがどんなに人間らしく振舞ってはいても、彼女は、自分に与えられた役割を放棄することはないのだろう。

それは俺が自分に科した使命を止めないのと同じことだ。

自分が何者なのか。何者であるのか。何者でいたいのか。

ルキアシエルの行動を見れば、嫌でも気づくし、気づかされる。俺も同じだから。


「もう私以外の天使と接触した?」


だから、ステルクに彼女は確認する。


「..............いや......」

「まあ、接触してたら分かるしね」

「分かるもの、なのか?」

「うん、何となくだけど。気配で分かるよ」


明らかに戸惑うステルクに対して、どこか納得したようにルキアシエルは頷く。


「天使の《勇者》としての素質がある以上、もしかしたら、私以外の天使が接触してくるかも知れないから」

「....................」

「その時は、ステルクが決めて。自分がどうしたいのか」

「..............ああ......」


難しい課題を出されたような顔で、今度はステルクが頷いた。

ステルクとルキアシエルの会話は、俺が適当に注文した料理と酒が届く頃まで続く。気になる会話の内容は、ほとんどが天使と《勇者》に関するものだった。ようやくステルクの好奇心が満たされたのか、不意に、ルキアシエルとの会話が途切れる。

そして、ステルクは俺を見た。


「ダヴィード」


視線を合わせれば分かる。これからステルクが俺に何を告げようとしているのか。

ステルクが俺に合わせて、慎重に、言葉を選ぶ。


「この北方の辺境地で時折。ほんの時折だが、思い出したように現れる古城があることは知っているか?」

「..............いや......」


聞いたことがない。続く、ステルクの話によれば、その古城が出現する条件は分からないとのことだった。

ただ、その古城には不死者を統べるヴァンパイアの王がいるとの噂らしい。

ここ最近の不死者の発生率からも、このまま俺は北方の地で不死者狩りを続けることに間違いなさそうだと確信する。


「次の依頼は、辺境地に近い村だ。そこで古城に関係しそうな噂を集めてみる」

「分かった。まだしばらくは俺もこの街を拠点に活動するつもりだから、古城の件も含めて、不死者絡みの情報があれば言う」


「..............ああ、頼む......」


そうして、俺はステルクと「また落ち着いて食事をしよう」と約束を交わした。

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