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とある預言者の歩み  作者: N
天使と勇者の共同戦線
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とあるヴァンパイアハンターの呟き

深夜の墓地。そこでは闇よりも暗い怨念と、死を受け入れることのできない者とが混ざり合い、生ある者への害意で満ちていた。本来であれば聖職者の言葉により、埋葬される時に浄化は終わっているため、死者が蘇えることは先ずない。

だが、それでも死者は蘇る。ここより北に位置する王城には、すべての不死者を統べるヴァンパイアの王がいるのだ。

ヴァンパイアの王の手により、この大陸の北方では不死者が生まれやすい。

俺が所属するギルドで今回も受けたのは、不死者絡みの依頼だった。依頼の内容としては、村にある墓地の調査。もし、不死者を発見すれば討伐もして欲しい、と。

依頼のあった村へ到着したのは昼間。村長に挨拶を済まし、早速調査を開始してみれば、直ぐに不死者の形跡を発見できた。

そして、深夜、俺とルキアシエルは次々と蘇る死者たちと戦っている。

死者はグールと呼ばれ、不死者の中でも弱い方に部類されるのだが、場所が墓地と言うこともあって頭数が多い。

俺は自分の師匠から譲り受けた愛用の刀で以って、次々とグールを倒していく。

グールを操っている上級不死者がいないか。気配を探りながら、俺の方へと向かってくるグールを倒す。

いまのところ、上級不死者の気配は感知できない。


「上級不死者の気配を感じるか?」


俺と同じようにグールと戦う、ルキアシエルに訊く。

ルキアシエルは「うー......ん」とグールを倒しつつ、上級不死者の気配を探りながら、


「感じない」


と。俺へと向けて、端的に回答する。

上級不死者の気配を探り、俺からの質問に回答する間にも、ルキアシエルは手慣れた様子で次々とグールを倒していく。

ルキアシエルが本当に天使なのかと疑いたくなるぐらい、彼女は戦い慣れている。

天使は基本的に補助系や治癒系統の祝福が得意らしいのだが、ルキアシエルは体術を中心に、身体に仕込んだ投擲用の刃だけのナイフと、通常よりは肉厚で刃渡りが少し長めのナイフを、見事に使い分けながら戦う。

その姿はまるで、幼少の頃に師匠から聞かされた戦乙女のようだった。

俺は彼女以外の天使を知らないが、恐らく、ルキアシエルが天使として規格外なのだろう。彼女の話によれば、彼女の他にも地上に遣わされた天使がいるとのことなので、チャンスがあれば言葉を交わしてみたいと思った。他人にあまり興味を持てない俺にしてはらしくないなと思いながら、俺は、いま目の前に群がるグールを倒し続ける。


夜はまだ明けそうにない。


***


それから間もなくして、グールとの戦いは終わりを告げた。


「これで終わり、と」


ルキアシエルは最後のグールを倒すと、俺に向けて、血で汚れた姿のまま言う。


「そうだな」

「あとは村長に報告して、そのままギルドに戻る?」

「ああ」


グールの血で同じように汚れた姿で、俺はルキアシエルの言葉に頷く。

俺が予想していたよりもグールの討伐はスムーズに終わり、短時間で終わってしまったのだ。少しでも多くのグールを倒したい俺にとって、これは嬉しい誤算である。また、ルキアシエルのように戦い慣れした天使と協力関係を結べたこともよかった。

流石にグールの血で汚れたままの姿でいるのは嫌だったのか、ルキアシエルは俺を含めて浄化の祝福を使う。

そして、いつもなら俺が自分でやることなのだが、グールたちの弔いもしてくれる。

時間のかかるはずだったグールたちの弔いは、ルキアシエルが祝福の言葉を唱えると一瞬で終わった。

青白い炎がグールたちの亡骸を燃やす。その光景はどこか幻想的で、ただ純粋に綺麗だと俺は思った。


「助かる」


俺は感謝の言葉を、彼女に伝える。

すると彼女は少し驚いたように「これは私が勝手にやってることだから」と。素っ気なく、けれど、どこか照れ隠しのように俺と言葉を交わす。

逆の立場だったら、俺も彼女と同じような反応をしたかも知れない。


天使の《勇者》が何を求められているのか。


ルキアシエルから説明を受けてはいるが、まだ俺には、よく理解できていない。

ただ漠然と、俺は思う。彼女が自分の《勇者》として、俺を選んでくれてよかった、と。まだ彼女自身のことはよく知らないけれど、少なくとも、彼女の存在は俺の目的を達成するために役立つだろう。

俺が欲しいのは「天使の《勇者》」と言う称号ではない。


あいつを。

俺の存在の全てをかけて否定する存在を、どのような手段を使ってでも殺すために必要な力なのだから。


***


「ダヴィード・シェーンベルグ」


数日前。

ほとんど呼ばれることのない俺の名前を口にしてから、


「それで、あなたは私の《勇者》になってくれるの?」


そう彼女は、俺に訊いてきた。

彼女が抵抗できないよう俺の体重を乗せ、押し倒されたままの体制で、ただ真っ直ぐに俺と目を合わせたままの彼女が紡いだのは、俺への問いかけだった。力づくでベッドの上に押さえつけられた状態だと言うのにも関わらず、彼女は動揺の一つも見せずに淡々と訊く。

まるで、俺の拘束などは、どうとでもなるように。


「...............」

「うー......ん、取り合えず、会話をしようか......」


いつまで経っても警戒を解かず、無言の俺に向かって、そう彼女は提案した。

そして始まったのが彼女の自己紹介である。


「私の名前はルキアシエル。天上界から地上に遣わされた天使です」

「...............天使、?......」

「そう、天使」


どちらかと言えば、天使ではなく、悪魔に近い印象を彼女から受けるのは何故だろう。


自分とよく似た。けれど、色合いの違う黒い目と髪。

彼女の目の奥に宿るのは自分の欲に忠実な光で、それは、どこか不死者たちとよく似ている気がした。

まるで血に飢えた獣の目だと思う。


「天使には見えないな」


俺は彼女の存在を否定するが、彼女は気にせず「よく言われる」と笑顔で応える。


「この地上は混沌へと向かい、いずれ時がくれば崩壊します」

「...............」

「天上界側としては、あくまでも放置するわけにはいかないため......。私を含めて四人の天使が地上へと使わされました」

「......それで?」


物語を朗読するかのように、淡々とした彼女の声。


「この地上を救うためには、天使に協力してくれる《勇者》の存在が必要です」


ああ、本当に物語だ。

地上が混乱する時、天使が現れ、《勇者》を導き世界を救う。


「ダヴィード・シェーンベルグ」


彼女は再び、俺の名を口にする。


「あなたには天使の《勇者》になれる素質がある。だから、私はグールに喰い殺されかけていた、あなたを助けた」

「...............この世界に存在しない、欠損部位を修復する治癒魔術を使って、か?」


満足そうに笑う彼女を、天使ではなく、やはり悪魔に近いと俺は思う。


「天使の《勇者》とは、具体的には何をすればいい」


結論から言えば、俺は彼女の《勇者》になることを承諾した。

彼女、ルキアシエルが天使として求める《勇者》の役割が、いままで俺がしていたことと何一つ変わりなかったからだ。

俺はいままで通りにギルドから依頼を受け、不死者を殲滅し続ければよい。

天使の《勇者》としては地上が混とんへと向かい、崩壊に至るまでの理由を排除し続け、世界を善と悪とのバランスが取れた状態にすればよいとのことだった。


また、ルキアシエルからは、戦闘を含めた様々なバックアップをすると約束された。


天使の《勇者》になり、ギルドの依頼をルキアシエルと一緒に行うようになってから数日。

ギルドからの依頼も、不死者の殲滅も、ルキアシエルの戦闘技術やバックアップも含めて、想像以上に上手くいっている。


これならば、あいつを。

俺の存在の全てをかけて否定する存在を、予定よりも早く殺すことができるだろう。


***


まだ夜が明けるまでは充分な時間。村長に依頼が終わったことの報告を済ませると、俺はルキアシエルと一緒に、ギルドのある街へと帰路に着いた。

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