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とある預言者の歩み  作者: N
間話
13/35

とあるヴァンパイアの王の考察

まだ薄らと青白い輝きを放つのは、転移用の術式を組み込んだ特殊な陣だった。

それはこの謁見の間で、つい先程まで行われていた戦闘の後を示すモノの一つでもあり、同時に我の興味を誘うモノでもある。この世界には転移魔術は存在しない。天上界や魔界には転移用の術式が存在しており、使い手もいるとは聞くが、そもそも絶対数が少ないとのことで。


「我も実物を見るのは、初めてだな」


もし、この場に妹のように可愛がっていた魔術師がいたら、さぞや喜んで研究を始めたことだろう。


「それにしても......」


思い出すのは息子の方ではなく、


「ルキアシエルと言ったか。あれは手元に置きたくなる」


あの黒曜石の色をまとった美しい女天使のことだった。

ほとんど戦闘に参加することなく、我と息子の手合わせとも呼べない児戯を傍観していただけのようだったが、彼女なりの考えが何かあってのことだったのだろう。実際に我が血の呪縛を以って、息子を無力化した後のルキアシエルの行動は素早かった。

我の気を逸らし、そのまま転移陣を用いて、あっさりと古城から脱出。

天使にしては戦い慣れし過ぎている。自分も歴戦の剣士と呼ばれていた時代があったからこそ分かるが、あの動きは、普段から過酷な戦場を渡り歩かなければ身に付かない。

ルキアシエルの足元には、恐らく、無数の屍や躯が転がっているのだろう。


「まるで......」

「まるで魔王さまの、よう」


我の声を遮るように、ぬらり、と。まだ薄らと青白い輝きを放つ転移陣の中から、唐突に、現れた魔人と目が合った。

まるで道化師のような化粧と、派手な衣装に身を包み、奇抜な帽子を被った魔人の名は口に出すべからず。本来ならば地上にいるはずのない、彼女の名を口にすることは、そのまま死を承ることになるのは魔界では有名な話である。


「あなたとお会いするのは、初めまして、ですね。この地上の不死者を統べるヴァンパイアの王よ」


洗練された動作で挨拶をする彼女は、まるで先程のルキアシエルを連想させた。


「ああ、よろしければ私のことは《いかれた帽子屋》とでもお呼びください」

「.....................」

「今回は正式な訪問ではありませんゆえ、そんなに警戒しないでくださると、ありがたいのですが......」


彼女が困惑したような声を出したのは、殺気を放つ、この幼い姿をしたヴァンピールのせいだろう。ヴァンピールは我の近くによると「こいつ殺っちゃっていい」と伺いを立ててくる。

もちろん、我の回答は「否」だ。


「そちらのお嬢さんは、どうやらやる気のようですから。暇つぶしに少し遊んでいくとしますか」


言って、《いかれた帽子屋》は微笑する。彼女に限らずだが、魔人はとても気まぐれだと聞く。その中でも《いかれた帽子屋》は気まぐれで、気分やで、彼女の逆鱗に触れることさえしなければよいとさえ噂される。

問題は、彼女の逆鱗に触れることが「何なのか」分からないことだ。


「ヴァンピールと遊ぶのは構わないのだが......」


だから、なるべく我は慎重に、《いかれた帽子屋》へと話しかける。


「貴殿の用件をお聞きしたい」

「......ああ、そうでしたね。いずれ正式な使者を出し、その上で回答をいただきに参りますが、あなたに私側の陣営についてもらいたいんです」

「それは......、魔界の後継者争いのか?」


天上界には、天上界。

地上には、地上。

そして、魔界には、魔界の事情がある。


「ええ、そうです。あなたもご存じの通り、魔界の後継者争いで数ある地上がそれに巻き込まれている状況。私側の陣営としては、さっさとくだらない遊びは終わらせたいと言うのが本音でして......」


魔界側の事情の一つに、次代の魔界を背負う後継者争いがあるのだ。魔界の次期後継者には「誰がなるか」との問題はもう長いこと続いており、その事情が、天上界や地上を巻き込んで行われている。

数ある地上の一つに住む者としては、いい加減にしてもらいたいところだった。


「ご一考くだされば、ありがたいことです」

「...............分かった......」


では、と。話が済んだのか、《いかれた帽子屋》は現れた時と同じく、ルキアシエルが残した転移陣の中へと姿を消す。

そこには最初から何もなかったかのように、転移陣すらも一緒に消えてしまっていた。

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