とある独裁者の宴
がやがや
苛立った神経に響く、雑音。
本来の言葉である意味を無視して、酷く耳障りな音にしか認識されない。
「 」
誰に言ったわけでもないが、返事がないことに苛立ちは大きくなる。
「......ぁ、あのぅ...」
「何だ?」
こちらの機嫌を伺うような声で、最近部下になったばかり少年が口を開いた。
びくびくとしたそいつの態度が癇に障った。一瞬このまま殴り殺してやろうかと思ったが、さすがにそれは後が面倒だったので我慢する。
使えない部下でも、いないよりは幾らがだがマシだ。
今は作戦の真っ最中で、襲撃があればいつでもこの一帯は戦場となるのだ。例えどんなに役に立たなかろうと、向こうの目を逸らす駒ぐらいにはなるだろう。
「用があるなら、早く言えっ」
中々用件を言わないそいつに向かって、殺気を含んだ声で怒鳴る。
「貴方が前線部隊の隊長さん?」
応えたのは部下である少年ではなく、聞き覚えのない女の声。
声質から言ってまだ少年と同じか、それ以下の少女だろう。顔と身体の半分以上を薄汚れたローブで隠した姿で、ゆっくりと少年の背後から進み出る。
「誰だ?」
「質問に質問で返さないでよ。訊いているのは――ま、いっか。それは固定したってことだろうしね」
「おい、女」
一方的に話しを進める女に嫌なモノを感じ、殆ど本能的に剣に手をかける。
が、
「殺しに来たの」
剣に触れるよりも先に、女が言葉を発した。それを理解するよりも早く、目の前を見慣れた赫い液体が舞い散った。
痛みはない。
身体は何が起こったのか判っていると言うのに、突然のことに頭では状況を理解することが出来ない。息を吸おうとする度に喉の奥でひゅうひゅうと鳴るだけだ。
「私は貴方を、貴方たちを殺しに来たの」
先ほどまでの騒ぎは、もう聞こえない。
口の端を吊り上げた女の表情と、彼女がいつの間にか手にした鋭利なナイフを最後に視界が暗転した。結局最初から最後までローブで隠されていた為に自分を殺した女の顔を見ることはなかったと、そんなことさえ思う暇さえ与えられずに。