狩りと騒動。
次の獲物を探すことになった。
ガレトが活躍の場がなかったとごねたからだ。
りゅういの『暑苦しい』と言わんばかりの視線は綺麗に流している。
夕食時間帯には寮の方に戻りたいんだがな。
「氷姫にこの狩りの成果を捧げるのだー!」
力強く暑苦しく吼えるガレト。
「それは、ありがとう」
朗らかな笑顔で黒狼が礼を述べる。微妙な表情で黒狼を見据えるガレト。
「なぜ、貴様に礼を言われねばならん!!」
また、吼えるガレト。
うん。負け犬の遠吠えそのものだ。
「いやぁ」
黒狼が照れたように頬を掻く。
「俺の恋人に捧げるって言うんだから、お礼ぐらい代わりに言っておこうかと思ってね」
悪気のなさそうなハニカミ表情が今のガレトにはキツそうだ。
ちなみに、黒狼ファンはこの朗らかさと大らかさ時折り見せる真剣な眼差しとこういうハニカミ表情のギャップ萌えがイイらしい。
黒狼は学内で『何があっても守りきってくれそうな恋人』候補上位五位には毎回ランクインしているような男だ。
俺?
俺は助けれるけど見捨てそうなヒトランキング上位百になぜかランクインだ。
校内にはいろいろなファンクラブが存在し、色々な活動組織が存在する。
講義や実務研修バイトだけが活動ではないということだろう。
諜報・情報学科の実習はストーカーもどきだったりするらしいけど。
雑学終了。
狩りの対象は魔獣。
5メートル越えの角猪。
肉が旨く、毛皮も高価。牙もかなり良い値がつく。
ぼろ儲け獲物だ。まぁ状態も重要だが。
「うぉおおお」
怒声と共に襲い掛かるガレト。
哀れ角猪は怒声に硬直し反撃する間もなく沈んだ。
ま、竜人種だしな。
竜の咆哮って麻痺効果や状態異常を引き起こすんだよなー。
一方的に殴り込んでて、まるでイジメだったぜ。
「弱いものイジメ?」
りゅういが呟く。
慌てるガレト。
「ち、違うぞ! コレは狩りだ! 手負いで逃がす方がマズイからな!」
その通りなんだがな。
でも見た印象がな。
「捌かないとなー」
のんびりした口調で黒狼が片手で角猪の頭を持ち上げる。
手にした刃物で的確に切り裂いていく。あっという間に血臭が満ちる。
あー。旨そう。
ガレトと視線が合う。
お互いに苦笑。
思うところは一緒だったらしい。
「どっちでもいいから清浄魔法。血臭を飛ばせ」
黒狼の発した平坦な声でりゅういが気分悪げなのに気がついた。
顔色がひどく悪い。
じっと血の流れる角猪を見つめている。
「血生臭いのは、こわいかい?」
脈が踊る。
体は怯えている。
同時に、りゅういはそれを理解していない。
乱れる血流に反してりゅういは首を傾げる。
「確かに、驚いたけど?」
こわくないと言わんばかりの発言。
ガレトが術を使うついでに、こっちを見てくる。
そう、子供がする反応じゃない。
びゅっ
風を切る音。
「黒狼!!」
目の前の光景。
それは黒狼がりゅういに血抜きに使っていた刃物を向け、寸止めしてる光景。
りゅういが動けばあっさりその皮膚から血が吹き出るだろう。
黒狼が俺の怒鳴り声程度で動揺しないのはわかっている。
きょとんと状況がわかっていないかのようなりゅうい。
乱れていた脈動はひたりと落ち着きを取り戻している。
刃を向けられて冷静になる戦士というものもいる。
それとりゅういは違うのがわかる。
りゅういは冷静だ。
死や傷つけられることに冷静に観察している。
「クロードさん?」
不思議そうな声。
逃げも非難も怯えもしない。
ただ不思議そうな声。
「このまま動けば死ぬぞ?」
黒狼が冷たい声で事実を告げる。刃物は動かさない。
「うーん、そうかもー?」
返すりゅういの言葉は軽い。
「俺、死んだほうがいいの?」
言葉が軽い。
青の瞳が黒狼を映す。愉悦さえ含ませて。