冒険学科と三乙女
朝一の授業。
今日は冒険学科で格闘、採集講座。
使うのは障害物設置もされている第三運動場。
訓練相手は女。
まっすぐな赤毛が特徴の女。
準備体操をしながらこちらに送ってくる視線は好戦的だ。
「ソルディ。お手柔らかに」
「もちろん。ばっちりのしてあげるわ!」
ぐっと勢い良く腰を捻り、ショートパンツから伸びる白い足。太ももを彩る青い刺青が映えている。
ソレイユ・ラー・ソル・デル。
均整の取れた身体をハイネックジャケットとショートパンツ。7センチくらいのヒールのレザーショートブーツに包んでいる。
刺青が映える白い足は生足で気を抜くと蹴りが飛んでくる。
軽い跳躍で障害物のひとつに飛び乗り、見下ろしてくる。
「お相手よろしく! マクレーン!!」
ソルディの手首を彩る刺青が空気を震わせる。
存在しない支えに軽く体重を乗せ、蹴りに魔力を乗せる。
あの刺青は魔方陣の一種。
知らなければ痛い目にあう。
片腕で蹴りを受け止める。
振動がかなり響いてくる。
ソルディが深緑の目を不愉快そうに眇める。
「ソルディ。せめて講師の合図を待たないかい?」
こちらの意見を聞き、首を傾げるソルディ。
わかっていたさ。聞く気などないことは。
「あら、実践では敵は事前に合図をくれるのかしら?」
がっ
と勢いのいい衝撃音がして俺がさっきまでいた足場が砕けた。
外野から「女二人に絡まれて羨ましい」とか声が聞こえる。
いつでも変わるけどな。
増えた相手は
ミズノリエ。
流石に攻撃直撃はやばい相手だ。
濡れたような黒髪ロング。
装いは格闘授業だというのに黒のロングドレス。その上から医療用白衣。
全てに興味がないかのような覚め切った視線で動きを観察されているのがわかる。
「さぁ、これが幻獣系種族の戦闘力ですが、普通其れ相応の対策なくちょっかいをかければ、もちろん。死にます」
いつの間にか来ていた講師が外野に向けてそんな解説を始める。
俺も受講生なんですけど?
「はい! 私も参加します!」
ぇ?
元気良く手を上げるのは黒髪ツインテールの少女。
講師がゆっくり道を開ける。
白のブラウスに動き易さ重視なのか、紺のカーゴパンツ。
ただ、少女の瞳は獲物を狩る欲望にまみれてる。
「さぁ、マクレーン。貴方からは何が採集できるのかしらー」
にっこりと笑う。
授業でカツアゲっすか!?
彼女は、
リーネ・サ・ティカ
魔力を持たないヒトではあるが戦闘力特化。
冒険学科を専攻してはいないので体育一般で必要単位を得るために来てると知れる。
冒険学科の授業を受ければ体育の必要単位が得ることができるのだ。
たとえ、運動を伴わなくとも問題はない。
「ちょっと! 私の獲物よ!」
「思うところがある。邪魔せぬよう」
「いーじゃない。混ぜてよ」
きっと、単位より俺をのしたいだけな気がするなー。あいつら。
まぁ俺の意見は取り上げられない。
苦笑がもれる。
けして妬みの視線を向けられる類の奪い合いではない。
周りからはそんな目で見られがちだがな。
ソルディは現在フリーだが、リーネとミズノリエは決めた相手があるしな。
本当に言いつけてやろうか?
あれ?
ミズノリエ。思うところ?
視線が合う。
妖艶な笑み。
「狩りをおこなったであろ?」
頷く。
「うまうましく食しておったのぉ」
うん。美味しかったね。
「おかげで楽しい狩りが出来なかった。貴様が警告などを放つから」
物凄く不本意そうに俺が放った警告に不服を申し立てるミズノリエ。
ちょ、
ちょっと待てーい!
「警告を行うことは一応校則だろーが!」
「狩場だぞ? 警告を放てば逃げるモノも多いわっ!」
「ざけんな! そんなことだから種族評判悪いんだろーがお前んとこ!!」
「余計な世話だ。私は私の好む狩り方があり、それを邪魔した貴様に制裁を与えねば気が済まぬ」
口論がヒートアップ。
ミズノリエから魔術攻撃に物理攻撃がはじまり、俺もそれに呼応するように反撃を繰り出す。
「はい。みなさん講義内容を変更します」
講師が外野に向けて宣言を始める。
「ただいま、幻獣系生徒による戦闘行為発動につき、制圧貢献で単位取得となります」
「制限は制圧完了か、双方が鎮静化するまでとします。この単位取得は全校生徒参加可能となります」
淡々と伝えられる内容に学生がざわめく。
「やっぱりな」「やると思った」「よっしゃー単位ゲットー」「え? まじ?」「やめてー」「こわいー」「え? 回復協力でもいいの?」「うん。もち」
などというざわめきである。
ちくしょう。猫の二の舞かよ。
ミズノリエは控える気が一切ないらしく容赦ない攻撃を無差別に加える。
そこに混じるリーネによる攻撃。慌てて逃げ惑うしかできない生徒側には攻撃が向かないよう気を配りつつ、講師陣、戦闘特化生徒による防衛の補助の様子を確認して俺からも攻撃のプレゼント。
一応、授業終了まで逃げ切れば単位取得となる。
その際、器物破損だけには気をつけなくてはいけない。
再生可能か不可能かでペナルティの有無が決まる。
「戦闘行為に首を突っ込むのだから反撃がないなどと思わぬようにな」
うっすらと笑みすらはいてミズノリエが攻撃を宣言する。
「大丈夫。ちゃんと採集してみせるわ。幻獣系からのレア素材期待しちゃう」
リーネはあくまで採集授業のつもりらしい。
ある意味、おそろしい女だ。
ソルディは弱いものを庇いつつ退避させながら、こちらを悔しげにチラチラ睨んでいた。
「いつまで物理攻撃のみで躱せるのかしら? 実力をおだしなさいな」