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地球の裏側

登場人物


メアリ

グループのリーダー格


エレン

グループの調整役


モネ

天然キャラ


3人とも水泳部に所属

都立水泳競技場


全国高校生水泳競技大会が

開催中である。


メアリ、モネ、エレンは

高校3年生の水泳部員だ。


3人は

400メートルメドレーの

チームメイトだった。


去年の夏の大会での順位は

4位だった。


普通なら

夏の大会が終わったら

部活を引退して

受験勉強に専念するのだが

3人の場合は

普通では無かった。


どうしても

表彰台に上がって

メダルを首に掛けたいと

熱望して、部活を1年間

留年したのだった。


他の2年生の

チームメイトと一緒に

1年間、毎日、猛練習して

今年の大会に臨んだのだ。


アンカーのメアリが

スムースなストロークで

水をかきながら

ゴールへと向かって来る。

会場が大歓声に包まれる。


メアリは

プールの縁にタッチして

プールサイドに

両手を掛けると

水の中で、しゃがんで

次に思いっ切り

身体を伸ばした勢いで

ジャンプして

プールサイドに

飛び乗った。


会場が大歓声に包まれる中

メアリは

憮然とした表情で

更衣室に向かった。


優勝したチームの

アンカーが観客席を仰いで

大空に向けて思い切り

拳を突き上げた。


メアリ達のチームの結果は

惜しくも去年と同じく

4位だった。



水泳大会が終わった

帰り道に

メアリ、モネ、エレンの

3人でマックに寄って

腹ごしらえをしている。


モネ

「ごめんなさいね

私がオッパイ大きくなって

水の抵抗が増したせいで

タイムが落ちたのよ」


エレン

「あんたは

単純に太っただけよ

それに浮力がついて

泳ぎ易くなったから

少しタイム上がったのよ」


メアリ

「私ぜったい

納得できない」


エレン

「納得できないって

言ったって、もう試合は

終わったのよ

どうにも出来ないのよ」


モネ

「いい方法があるわよ

3人で留年するのよ

そうすれば、もう1回

試合に出られるわよ」


エレン

「馬鹿なこと言わないでよ

留年なんかしたらそれこそ

代表になんて選ばれっこ

無いじゃない!」



メアリ

「ねえ知ってる?

世界中で毎日

テロで何人も何十人も

死んでるのよ、人間なんて

はかない命なの

パキスタンでも

アフガニスタンでも・・」


モネ

「パキスタンとか

アフガニスタンとか

ウズベキスタンとか

カザフスタンとか

スタンって

どういう意味かしら?」


エレン

「国の名前の最後に

付くんだから何とか国って

意味じゃない

きっとそうよ」


モネ

「スタン スタンって

スタンばっかりね

砂漠の国は」


エレン

「タジキスタンってのも

あったわね」


モネ

「うーーーーん

あった あった」


メアリ

「とにかく、このままじゃ

終われないわね

絶対に何かしなくちゃ」モネ

「えーーーー メアリも

戦争に行っちゃうのー?」


エレン

「いきなり戦争に行ける訳

無いじゃない!!

メアリは自衛隊に入るのよ

卒業したら」


モネ

「えーーー やっぱり

戦争に行っちゃうんだー

どうしょう・・・?

お土産、ヨロシクね」


エレン

「やっぱり戦争

行っちゃうの?」


メアリ

「ねえ、こんな都市伝説

あるの知ってる?

山梨県の、とある湖に

潜ると地球の裏側に

出るんだって

それを私達で

確かめに行くのよ

大丈夫、場所は

分かってるわ

『林を抜けた先に

湖があって

そのほとりは

断崖絶壁である』

これがその都市伝説の

場所よ」


モネとエレンが

ポカーンとして

メアリを見つめる。


モネ、エレン

「地球の裏側?????」


モネ

「地球の裏側って

星?それとも・・・月?」


エレン

「日本の裏側は

ブラジルよ」


モネ

「日本の裏側は

白い紙よ、ブラジルは

だいたい

日本の右下の方よ」


エレン

「それは

世界地図でしょ!

地球儀で見なさいよ

あんた天動説の

時代の人か?

でも、山梨県なら

都市伝説じゃなくて

山間部伝説ね

女子高生なら

もっと女子高生らしいこと

しましょうよ

カラオケとか

ゲーセンとか

だって、最後の

夏休みなのよ」


モネ

「私 山間部電鉄

乗りたーい!」


メアリ

「よしっ決まりね!!」


モネ

「わーい!わーい!

お土産っ!お土産っ!

何とかスタン

かんとかスタン」


メアリ

「違うわよ!!

地球の裏側に行くのよ!」



夏休に入った。


女子3人で

キャンプをするために

特急列車に乗って

山梨県に、やって来た。


今回のキャンプの目的は

都内の女子高生の間で

流行っている都市伝説を

確かめることだった。


その都市伝説というのは

山梨県の湖に潜ると

地球の裏側に出るという

荒唐無稽な噂話だった。


駅に着いて列車を降りると

外の空気が

ひんやりとしていた。エレン

「東京、出発したときと

比べて随分と涼しいわね」


モネ

「ねえ、さっきの陸橋

下、凄い景色だったね

何メートルくらい

あるんだろうね、高さ

70メートルくらい?

さすが山間部電鉄ね」


エレン

「JRよ!!」


メアリ

「さあ行きましょう

時間が勿体ないわ」


エレン

「行きましょうって

どっちに行くのよ?」


メアリ

「知らないわ、地図

忘れたから」


エレン

「はあ?地図

無いの?」


メアリ

「その方がドキドキ

するでしょ・・

冒険なのよ!」


モネ

「そうよ!冒険なのよ

だから御飯も自給自足よ」


エレン

「モネ!! あんた御飯

忘れたわね!?」


モネ

「エヘヘッ」


東京育ちの女子高生が

山梨県の山中で

大冒険を経験したいとの

思いでテントと寝袋を

持ってやって来た。


駅から街道沿いを

歩いていると

狭い林道の入口を

見つけたので

あてずっぽうに

そこへ入って行った。

緩やかな下り坂を

10分ほど歩くと

道幅が狭くなって

道の両脇に高山植物が

茂って、小さな赤い花が

沢山咲いていた。


エレン

「熊でも出てきそうな

雰囲気ね」


モネ

「そうよ

良く気が付いたわね

花咲く森の道ーーー

熊さんにー

出ー会ーったーよ」


メアリ

「それは、歌でしょ

熊なんて

そんなやたらに出ないのよ

駅の近くだし、大丈夫よ

きっと」


モネ

「ねえ 森の熊さんは

ひぐまなの?

それとも

つきのわぐま?」


エレン

「お嬢ちゃん

お逃げなさいって

言うくらいだから

つきのわぐまよ、きっと

羆じゃ凶暴だから

そんな親切じゃないわね」


メアリ

「つきのわぐまだって

結構、凶暴なのよ

山中で出会ったらねえ

ジッと目を見て

反らしちゃダメよ!

相手の目をジッと

見つめたまま

ゆっくりと後退りして

その場を逃れる、だって

本に書いてあったわ

少しは勉強したのよ」


モネ

「熊って

どれくらい大きいの?」


メアリ

「さあね、羆なら

2メートルは

あるんじゃない?」


モネ

「あっ!!

ワンちゃんいるー」


モネが指差す方向に

丸く、ずんぐりとした

黒い犬の姿が見えた。


林道をそのまま進んで

丸く、ずんぐりとした犬に

近付いて行くと

その犬がこちらを見たまま

固まって動かずにいる。


それは、犬では無く

小熊だった。


モネ

「どうしよう・・

花咲く森の道で

熊さんに出会っちゃた」


エレン

「熊さんの言うことにゃ

お嬢さん、お逃げなさい」


メアリ

「すたこら、さっさと

逃げるわよ

でもゆっくりね

目を反らしちゃ

ダメだからね・・」


3人は、子熊の目の前を

横歩きでジリジリと

通り過ぎて行った。


熊の目を見ながら


メアリ

「どーーーもーーー」


モネ

「お構いなくーーー」


エレン

「失礼ーしまーすーー」



国有林の中の林道を

歩いていると

適当な広場を見つけたので

そこでキャンプを張った。

テントは、空中に投げると

パカッて開くタイプだから

簡単に設置できた。


メアリがスコップを使って

テントの周りの地面に

グルッと一周

溝を掘っている。


モネ

「何それ

何かのお呪い?」


エレン

「あっ 分かった

魔よけでしょ?」


メアリ

「何、馬鹿なこと

言ってるのよ

テントの周りにこうやって

溝を掘らないとね

雨が降ったらテントの中が

水浸しになるでしょ

これが終わったら

次は、食事の準備ね」


エレン

「モネは、晩御飯抜きよ

忘れてきたんだから

あんた自分で

何とかしなさい」


モネ

「大丈夫だよー、山には

沢山食べ物があるんだから

山菜、木の実

魚だって捕れるのよ」


エレン

「ふーん、それでは

お手なみ拝見

しましょうか」


メアリ

「面白そうね、この辺

探検しましょうよ」


3人は、林の中に

獣道を見つけて

入って行った。


エレン

「獣道って、案外

真っ直ぐに続いてるのね」


モネ

「そうよ猪突猛進って

言うじゃない、だから

この道は、きっと

猪が走ってる道なのよ」


メアリ

「もし本当に

猪の道だったらヤバいわね

猪って危険なのよ

牙で襲って来るんだから」


エレン

「熊の次は、猪かよ

勘弁して欲しいわね

ねえメアリ、猪は

どうやって

逃げればいいのよ?」


モネ

「木に登ればいいのよ」


エレン

「ねえメアリ

長い棒か何か持ってた方が

いいんじゃない?」


モネ

「だから、木に登れば

いいのよ

スイスイスーッて」


メアリ

「棒で叩いても

無駄でしょうね

そんなんで怯まないわよ

野性動物は

それに動きが俊敏だから

叩くのは、無理ね」


モネ

「木に登れば・・・」


メアリ、エレン

「あんた いつから

木に登れるように

なったのよ!!」


3人は、獣道を進む。


先頭をモネが歩いている。


モネ

「うわっ!!」


メアリ、エレン

「何よ、急に

大声出して?」


真っ直ぐに続く獣道には


何の姿も見えない。


立ち尽くすモネの

背中越しにメアリと

エレンが覗き込むと

数メートル先に

体の大きさが

10センチもあるような

全身、緑色の

蟷螂虫かまきりむし

雌が両腕の鎌を振り上げて

3人を威嚇していた。


エレン

「凄い闘争心ね

自分の大きさの数万倍も

あるような敵に

立ち向かうなんて蟷螂は

きっと世の中の生物で一番

闘争心のある動物ね」


モネ

「それも こっちは3人よ

勝てる訳無いのにね」


エレン

「あんた1人が相手なら

蟷螂も勝てるかもね?」


モネ

「やーだー!!

蟷螂、恐い」


3人は、蟷螂を避けて

獣道の端を歩いた。


蟷螂が3人を見送った。


暫く歩いて行くと道は

民家の庭先にぬけた。


メアリ

「なーんだ

獣道じゃ無かったのね

林業の整備で使う小路ね

どうりで真っ直ぐで

歩きやすいわけよ、さあ

引き返しましょう」


モネ

「なーんだ

もう冒険、終わりなの?」


エレン

「モネには、私の御飯

分けてあげるから

あんまり

ガッツかないでよ」



3人がテントに

帰って来た。


メアリ

「さあ、食事の準備を

しましょう」


モネ

「私、薪、拾って来る」


エレン

「遠く行っちゃ

ダメだからね

熊出るわよ」


数分も経たない内に

モネが薪を拾って

戻って来た。


エレン

「随分、早く

戻ったわね」


モネ

「うん、そこらじゅう

枝だらけよ」


メアリ

「ここは、植林された

杉林だから、地面には

剪定された枝が

落ちてるのね、杉なら

燃えやすいから助かるわ

誰かマッチかライター

持ってないかしら?」


エレン

「無いわよモネは?」


モネ

「あるわけないでしょ

私は、不良娘じゃ

ありませんから」


エレン

「何を力説してるのよ

火を起こして

料理を作るのよ」


モネ

「料理なんて、そんな

大層な物じゃないでしょ

レトルトよ

インスタントなの」


メアリ

「そのインスタントを

温めるのに

お湯が必要なのよ

分からない子ねー」


3人は、仕方なしに

レトルト御飯と

レトルトカレーを

冷たいまま食べた。


エレン

「レトルト御飯って

冷たいまま食べると

バリバリしてるのね

食品サンプル

食べてるみたい

新発見だわ」


モネ

「えー、食品サンプル

食べたことあるのー」


エレン

「例え話しよ

分かるでしょ

そのくらい」


メアリ

「うーん、何と言うか

お腹には、溜まりそうね」


エレン

「どこまでポジティブ

シンキングなの?

お腹に溜まるんじゃなくて

消化に悪いのよ」


モネ

「んー、でも

ずっと噛んでるとなんか

甘くなってきた」



エレン

「あんたには

勝てないわ」


ピロピロピローン♪


ピロピロピローン♪


メアリ

「あっメール」


モネ

「こんなとこにも

アンテナ基地局あるのね」


エレン

「不便だ、不便だって

言ってるけど

ここまできたら逆に雰囲気

壊すわね、誰、メアリ?

あんた彼氏でも

出来たの?」


メアリ

「ううん、ママからよ

読んでみようか・・

えーと、今夜は

パパと二人きりで豪華に

中華料理です、

だって・・

写メがあるわね・・

何よこれー!!

私がまずい物

食べてる時にー

麻婆豆腐?

北京ダック?

杏仁豆腐?

だとー!!」


エレン

「あんたのママって

エキセントリックなのね」モネ

「ふあー、いいなあ

エキセントリックも

食べてるんだ!?」


エレン

「私、今の言葉

取り消すわ、もっと

エキセントリック

なのがいた」


メアリ

「パパは

もっと変わってるわよ

最近、マンションの窓から

こっそり隠れて、紙飛行機

飛ばすのに凝ってるの」


エレン

「楽しそうでいいじゃない

うちは、厳しくて

やになるわ

今日のキャンプだって

説得するのに

苦労したのよ」


メアリ

「逆にうちは、自由過ぎて

ほっとかれてるみたいで

時々、不安になるわ

今夜だって

私が居ないのを良いことに

中華料理に行くなんて

まったく、娘が

心配でないのかしらね」


モネ

「いいなー、私も

35階から飛行機

飛ばしたい、それに

私もパパの悪口言いたい」


エレン

「御免ね、モネは、パパ

いないんだったわね

気分悪くしないでね

気が付かなかったの」


メアリ

「モネんちは

いつお父さん

居なくなったんだっけ?」


モネ

「小学校4年生の時よ

今でも良く覚えてるのよ

どうして

苗字が変わったんだって

クラスの皆に聞かれて

答えられなかったこと」



モネが鼻をすすっている。


メアリ

「皆、見て

星が凄く綺麗なの!!」


エレン

「スッゴいわねー、空に

こんなに沢山の

星があるなんて

星が瞬くって

こう言うことだったんだ

大きな星が

ゆらゆらって言うか

ギラギラって言うか

点滅してるみたいなのは

どうして?

星と星の間にも全部

エアブラシで

吹き付けたみたいに

細かい白い点が

びっしりと光ってるのね

ロマンティックねー」


モネ

「ふぁっくしょん!!」


メアリ

「さあ、テントに

入りましょ」


食事を済ませて

テントの中で3人ならんで

寝そべって話をしている。


モネ

「御飯、なんか

盛り上がん無かったわね

折角のキャンプなのに」


メアリ

「しょうがないわよ

火が使えなかったんだから

食べられただけでも

ましだと思うしか

ないわね、私達、普段

当たり前にガスとか

使ってるけど本当は

凄いことなのね

現代人で良かったわ」


エレン

「現代人の使い方が

間違ってるけど

メアリの意見に賛成ね

玄関開けたら2分で御飯は

やっぱり温めて

食べるものね、その前に

ここには、玄関無いけど

でもね、モネは、今回

文句言えないのよ

何も持って

来ないんだから」


モネ

「だから、その分、沢山

薪ひろったじゃない

枯れ枝、集めるのだって

結構大変なのよ

蚊に一杯、刺されるし」


エレン

「だから、その薪が

役に立たなかったって

言ってるのよ!」




モネ

「でもね、こうやって

テントの中に飾ると

緑の良い香りがするのよ」



メアリ

「ふぇっくしょん!!」


メアリが鼻水を啜ってる。


メアリ

「ねえモネ?あんた私が

花粉症だって知ってる

わよね?」


モネ

「エヘッ!」


メアリ

「エヘッじゃ無いわよ!

可愛く無いのよ!

・・・

はーあ・・

マッチもライターも

無いなんて

考えても見なかったわね

いつもは、どっかその辺に

転がってるのに」


エレン

「私達、3人とも

タバコ吸わないからね

それを後悔するとは

これも今まで

考えても見なかったわね」





モネ

「ねえ、メアリは

戦争とかに興味あるの?」


メアリ

「どうして

そんなこと聞くのよ?」


モネ

「大会が終わった後で

マックでそんなこと

話してたでしょ」


エレン

「メアリって

時々私達と違うこと

言うよね

どうして難しいことばっか

考えてるの?」


メアリ

「難しいことだなんて

思ってないわよ

普通にテレビで

やってることよ

戦争のことだけじゃなくて

環境問題とか、

皆は、興味ないの?」



モネ

「戦争とか環境とか

良くわかんない

そんなこと周りの人に

話したって

会話にならないし

真剣に物事考えてるって

見られると

なんか格好悪いし

もっと簡単に

オチャラケタ話し

してる方が

周りに馴染めるのよね」


エレン

「モネって

そんなキャラだっけ?

あんた、エヘヘとか

ンキャキャとか

殆ど意味の無い言葉しか

発しない子だと

思ってたのに

ちゃんと考えてるのね」



モネ

「そうなのよ

そんな風に装ってるのよ

あのね、私、小学校の時

学級委員やってたの

一生懸命やってたんだけど

それが他の生徒の

鼻についたみたいで

虐められてたのよ

そのことがトラウマで

中学では

大人しくしてたから

地味で暗い子だったの

高校に上がれば

学区が選べるでしょ

だから知り合いの少ない

今の学校を選んだの

高校では失敗しないように

キャラ設定してるのよ

御免ね・・うぇっうぇっ」


エレン

「どうしたのさ

泣かなくてもいいじゃない

誰だって辛い過去が

あるのよ・・・

えんっえんっ」メアリ

「何よ、エレンまで

泣き出して

そんなことされたら

そんなこと、そんなこと

んっんっわーーーーん」


それから、3人抱き合って

大泣きしながら

いつの間にか

寝付いていた。 




次の朝、湖を探しに3人で

林の中を探検しようと

歩いて行った先で

断崖絶壁に出くわした。


崖の下を覗くと湖だった。


メアリ、モネ、エレンの

3人で湖に飛び込もうか

どうかを

決めかねているのだった。


地図も持たずに

噂話だけを頼りに

ここを見つけ出したのだが

この場所が都市伝説の

その場所であるという

確証は

何処にも無いのだ。それでも

彼女達の知っている

噂話の景色とそっくりな

『林を抜けた先に

湖があって、そのほとりは

断崖絶壁である』


という条件に

ピッタリ当てはまる

この場所を彼女達は

都市伝説の場所であると

確信していたのだった。

断崖絶壁に立って

3人で相談している。


エレン

「どうする?

飛び込むの?」


メアリ

「いっせーのーでーで

飛び込んじゃおうよ」


エレン

「深さも確かめないで

飛び込むのは

まずいんじゃない?」


モネ

「深さもそうだけど

その前に高さじゃない?」


3人で岸壁に寝そべって

下を覗くと

垂直に切り立った崖の

遥か下に水面が見える。


エレンが石を

落としてみる。


真っ直ぐに真下へ

落ちていく石が

水面に届いて

飛沫を上げるまでに

3つ数えることが出来た。


モネ

「3秒かかったから

下までは10メートルって

ところね」


エレン

「あんた何で10メートル

って分かるのよ?」


モネ

「そんなの感に

決まってるでしょ」


エレン

「あんたの感に頼って

命懸けで飛び込めって

言ってるわけ?」


メアリ

「もう、こうなったら

一か八かで3人同時に

飛び込みましょう」


思いっきり助走をつけて

飛び込む為に

岸壁の10メートル手前に

立って3人で手を繋いで

呼吸を整える。


メアリ

「さあ、行くわよ

覚悟は、いいわね

3、2、1でスタートよ」


メアリ、モネ、エレン

「3、2、1

GO!!」


3人は、服を着たまま

湖に向かって

思いっきり飛び込んだ。


3人とも空中を走るように

足をグルグルと回しながら

水面に向かって落下した。

空に飛び出すと繋いだ手は

自然と放れた。


落下する間の時間が

自分の予想を越えて

どんどん延びていく。


バッシャーン!!


バッシャーン!!


バッシャーン!!


ブクブクブクブク。


落下した勢いで

体が沈んで行く。


透明度の高い水の中で

3人とも自分のことよりも

他の2人が沈んで行く姿に

驚いて目が点になって

お互い同士で

顔を見合わせている。


高飛び込みは

今さっき経験済みだから

もう怖く無いけれど

今こうしてどこまでも

沈んでいく状況が

怖かった。


3人とも上を見上げると

遥か上の水面が

ゆらゆらと揺れて

波紋に太陽の光が反射して

光っていた。


メアリが湖の底を指差す。

モネとエレンが

大きく頷く。


3人とも

下に向かって潜り始める。


手で水をかいて

足で水を蹴って

底に進むにつれて次

第に水面からの明かりは

届かなくなった。


真っ暗な水中を、どんどん

どんどん深く潜って行くと

いつしか底の方に

薄明かりが見えてきた。


3人は、息の続く限り

思いっ切り底に向かって

泳ぎを続ける。


湖の底の明かりが

だんだんと強くなって

水面に広がる波紋に

反射する太陽の光が

はっきりと見えてきた。


3人は、もう既に息が

切れかかっていた。


今、肺にある一杯の空気を

思い切り吐き出して

新しい空気と

入れ換えなければ

その代わりに、

無理矢理に

湖の水が肺一杯に

侵入して来ることが

分かっていたが

もうこうなったら

何も考えないで

手足を出来るだけ効率的に

稼働させて、水面を

目指すしかなかった。


バッシャーーーーン!!


バッシャーーーーン!!


バッシャーーーーン!!


メアリ、モネ、エレン

「プッツハーーーッ!」


メアリ、モネ、エレン

「やったわねーーっ!」


メアリ

「きっとここが

地球の裏側ね!?」


モネ

「私達、逆さまに

なってるのに

何で落ちないんだろう?」


エレン

「馬鹿ねー

何言ってるのよ

逆さまなんだから

落ちるんじゃなくて

上がるんでしょ!だけど

皆、良く、息もったね

水泳やってて良かったわ」


遠くから船のエンジン音と

波を掻き分ける

音が聞こえる。


バシャバシャバシャバシャ

音がだんだん大きくなって

船が3人に近づく。


観光遊覧船だった。


甲板の上で

中国人の小母さんが

3人を見つけて指差した。


小母さん

「アイー、アイー

ちょっと皆、見なさいよ

女の子が泳いでるわよ!!

あら、服、着てるわねえ

そうだ、ありゃ

日本の海女さんだよ!!

ほら、見てごらん

皆で手を振ってるよ

可愛いねえー」


甲板の上の中国人の団体が

皆で一斉に手を振った。


中国人の団体

「わーい

こんにちわー!」

「ニーハオーーー!」

「シェイシェイーー!」

「魚いっぱい捕れよー」


中国人の団体は

誰ひとりとして日本語を

理解出来なかったので

メアリ、モネ、エレンの

3人が大きく手を振って

助けを呼ぶ声は

遊覧船に届かなかった。


3人は、真っ暗な水中を

底に向かって真っ直ぐ

潜って行くつもりだったが

身体の浮力が作用して

気付かぬうちに

水面へ向かって

浮上していたのだ。


モネ

「中国に出ちゃった

みたいね」


エレン

「えー、ブラジル

じゃなかったの?」


メアリ

「何言ってるの

何処にも行ってないわよ

さっき飛び込んだ湖よ

水中で引き返してきたのね

まあ、当たり前って言えば

当たり前ね」


モネ

「これから

どうするの?」


エレン

「もう一回、潜るの?」


メアリ

「あはははは!無理よ

何度、潜ったって

どうにもなりは

しないわ」


モネ

「だったら何のために

来たのよ?

あーそうか、泳ぐためね

私達、水泳部だからね」


エレン

「メアリ

泳ぎ足りないなら

大学でまた

水泳やればいいじゃない

湖じゃメダル

取れないわよ」


メアリ

「あはははは、そうよね

湖じゃ表彰台も無いわね」


モネ

「トライアスロンに

転向すれば?」


エレン

「私は、バナナ食べながら

泳ぐのは、無理ね」


メアリ

「あはははは、さあ

そろそろ帰りましょ

向こう岸まで

競争するわよ、GO!」


おわり

この物語を読んでくださった方々へ

ありがとうございます。


ご意見や感想を頂けると嬉しいです。


また、もし気に入ってくださったのであれば是非ポイントを入れてください。励みになります。

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