ハルカレ
――柊 波瑠様。
ある昼下がり。
部活を終えて帰宅した俺のもとには、一通の手紙が届いていた。
――差出人:皆瀬 梨央。
「知り合い?」隣でちゃっかりポストをのぞく俺の彼女、香織が訊く。
……知ってるもなにも。
「姉さん……」
5年前に嫁に行った、俺の姉さん。
正直なことを言えば、差出人なんてものを見なくても おおよその予想はついた。人の名前の末尾に句点を付けるほどのアホは、悪いが俺は姉さん以外に見たことがないのだ。
「お姉さん? ……ああ!」
思い出したんだろう。香織はおおげさに、拳を手のひらに打ちつけた。
香織とは、3才のとき父親の転勤でここに越して来て知り合った。かれこれ15年の付き合いだ。姉さんが結婚したとき、俺らはまだ13才で、本当の姉のように慕っていた香織は泣きながら見送った。
「香織ちゃん、ありがとう。でも大丈夫よ、またすぐに会いに来るわ」
香織はその言葉でやっと泣きやんで、
「約束だからね!」
涙を拭って姉さんの小指を自分の小指に絡ませていた。
それなのに、あいつは一体なにをしているのだろう。姉さんはたったの一度も、ここへ帰って来ていないのだ。
昔っからボーッとした感じの奴だったけど、まさか忘れてるんじゃないだろうなぁ……。
「なんかあったのかなぁ?」
香織の声に、我に返る。
「さぁ?」
「なんだろうね。ま、ゆっくり読みなよ」香織はそう言うと、「じゃあね」と坂を下って行った。
ったく。香織の言う通り、なんだろうね、だ。だいたい今どき手紙なんか送る奴がどこにいるか。
「ただいまぁ」
いつも言うだけ言うが、誰もいないことは分かっている。
「なんだ、なんだー?」
俺は部屋に入るなり、ビリビリと派手な音をたてながら封を開けていった。
『波瑠へ。
明日、そちらへ帰ります。』
『では。』
……以上?
「……って、短かっ!?」拍子抜けした。
まるでレポートでも書くんじゃないかというくらいのとんでもなく大きな紙が幾重にも折り畳まれて入っていると思ったら、一体何なんだ この短さは。
しかも、明日!? こいつ、この手紙が俺のもとにいつ届くか、本当に解って書いてるのか? 偶然 今日中に届いたから良かったものの……。
どちらにしろ、こいつはバカだ。マイペースでアホだ……。
結婚しても変わらないなんて、相当重傷な致命傷らしい。
きっとここに帰る約束も、ずっと忘れていたんだろう。あの頭じゃもはや、覚えているほうが奇跡だ。
俺は手紙を片手に、母さんに電話をかけた。
「もしもし、母さん?」
――今日は早く帰ってきた方が良いみたいだよ。明日アホが帰省するから。




