追放された乙女ゲーの悪役令嬢は隣国で魔法学院の教師になります
アルメリア帝国国立魔法学院。
大陸最高峰と名高いその学院では、今日も新任教師たちの採用試験が行われていた。
試験官たちの前へ現れたのは、黒髪の美しい女性。
エレノア・ヴァレンティア。
隣国レイシュタイン王国で、婚約破棄をされ追放されてきたという噂の侯爵令嬢だった。
「……レイシュタインの“氷薔薇”ですか」
「社交界で恐れられていたあの……?」
試験官たちは緊張する。
しかしエレノア本人は涼しい顔だった。
「教師募集を見て参りましたの」
「本気で教師になるおつもりで?」
「もちろんですわ」
周囲は半信半疑だった。
貴族の令嬢が教師になるなど前代未聞。しかも彼女はかなり若い。
だが試験が始まった瞬間、空気は一変する。
実技では上級魔法の同時展開。
筆記では複雑な術式理論の完全解答。
さらに魔法研究論文の発表では、古い理論そのものを覆す新説まで提示した。
試験官たちは絶句した。
「な、なんだこの才能は……!」
そしてエレノアは、学院史上最年少の特別講師として採用される。
だが、そんな彼女の採用を快く思わない教師も少なく無かった。
職員会議の結果、彼女が担任として受け持つことになったのは、学院で最も問題を抱えるクラスだった。
「また新しい教師か」
「どうせすぐ辞めるだろ」
エレノアの受け持ちとなったのは、落ちこぼれクラスと揶揄される1-Cクラス。
貴族子弟、問題児、素行不良。
学院内でも有名な厄介集団だった。
教師が何人も逃げ出したクラスである。
だがエレノアは動じない。
教壇へ立つと、静かに黒板へ魔法式を書き始めた。
「まず、あなた方は基礎理論を間違えていますわ」
次の瞬間。
彼女が放った火魔法は、通常の半分以下の魔力で発動した。
生徒たちが目を見開く。
「なんでそんな低魔力で!?」
「術式の無駄を削っているからですわ」
さらにエレノアは、生徒一人一人の癖や適性を瞬時に見抜いていく。
「あなたは出力過多」
「あなたは魔力制御不足」
「あなたはそもそも属性適性を勘違いしています」
その指導は正確すぎた。
すると落ちこぼれだった生徒たちは、少しずつ結果を出し始める。
そして気づけば、問題児クラスは学院で最注目のクラスへ変わっていた。
エレノアの名声が高まる一方で、学院内外で彼女を快く思わない者たちが増えていった。
特に保守派貴族たちは激怒する。
「平民の生徒まで優秀になっているだと?」
「血統主義が崩れる!」
エレノアの教育は、“才能ある貴族だけが優秀”という常識を壊していた。
さらに学院対抗魔法大会の日。
問題児クラスは、名門クラス相手に圧勝する。
会場は騒然となった。
だが試合後、ある教師がエレノアへ言い放つ。
「所詮お前はレイシュタインを追放されてきた下賎な身だ」
空気が凍る。
生徒たちは怒るが、エレノア本人は微笑んでいた。
「ええ、その通りですわ」
「否定しないのか?」
「結果を出す人間は、嫌われるものですので」
静かな声だった。
しかしその言葉には、長年積み重ねてきた孤独が滲んでいた。
その夜。
生徒の一人が尋ねる。
「先生って、本当はどんな人なんですか?」
エレノアは少しだけ困ったように笑う。
「ただの、魔法好きですわよ」
数年後。
アルメリア魔法学院は、大陸最高峰の教育機関として名を轟かせていた。
その中心にいるのは、もちろんエレノアだった。
彼女の教え子たちは、宮廷魔導士、研究者、騎士団長として世界中で活躍している。
卒業式の日。
かつて問題児だった生徒たちが、壇上のエレノアへ頭を下げる。
「先生のおかげで、俺たちは変われました」
「魔法が好きになれました!」
エレノアは静かに目を細めた。
「あなた方が努力した結果ですわ」
そこへ学院長が現れる。
「エレノア殿。研究院長への推薦が来ています」
「お断りします」
即答だった。
周囲が驚く中、彼女は教室を見渡す。
新入生たちが緊張した顔で席に座っている。
エレノアは柔らかく微笑んだ。
「わたくし、教師が天職みたいですので」
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