始まり
「クノス・ランデル、其方に魔王討伐の任を命ずる」
跪く俺に王が命じる。
「王様、私が魔王討伐ですか?」
予想外の言葉に思わず頭を上げて王に問う。
「なんだ?無理だとでも言いたいのか?」
王が顔をしかめる。
「いえ、魔王討伐の命、謹んでお受けいたします」
これ以上何かを言っても気を損ねるだけだと思い、了承する。
「よろしい、詳しいことは追って連絡しよう。下がれ」
「かしこまりました」
立ち上がり玉座の間から出る。
扉の前に一人の男が立っており、俺を見つけるとこちらに話しかけてくる。
「クノス、終わったのか」
彼の名はロイス・ランデル。騎士団の団長で俺の父親だ。
「終わったよ」
「で、王様の要件は何だったんだ?」
父が俺をここまで連れてきたのだが要件は知らなかったらしい。
「俺に魔王討伐してこいってさ」
「はぁ!?魔王討伐!?」
近くで大きな声を出され、耳が痛い。
「そんな大きな声出さないでよ」
「だってお前、魔王ってなんでまた」
「ちょっと、これ以上はここで話すのは止めよう。とりあえず家に戻ろう」
今は城の中だ。俺と父以外にも沢山の目と耳がある。
あまり人がいる場所で話したくない内容もある。
「ああ、そうだな。サラもいるし家で話すか」
俺の言いたいことが分かったのかすんなりと聞き入れてくれた。
城を後にし、家に帰ってくる。
「おかえり二人とも。今日の夕飯はシチューよ~」
家には女性がキッチンで料理をしていた。
彼女はサラ・ランデル。騎士団の魔法長であり、俺の母親。
「サラ、少し話したい事がある」
父が真剣な顔で話し始めようとすると彼女は魔法を唱え始める。
「結界よ私たちのいかなる情報を遮断せよ」
俺たちがいる部屋を囲うように結界が展開される。
「はい、これで私たちの会話は聞かれないし外から見えもしないわ」
「ありがとう」
皆、椅子に座る。
俺の対面に両親が座る。
「王様に魔王討伐を命じられた」
「なんですって?」
母は俺の言葉に怪訝な表情を浮かべる。
「クノス、本当に魔王討伐を命じられたのか?」
父に関しては信じていなさそうだ。
それほどまでに俺が魔王討伐を命じられるのはありえない。
俺は騎士団のTOP2である二人から生まれた人間であり、もちろん実力もそこらの騎士団員や魔法使いに負ける気はしない。
しかし、魔王とは魔族の長であり最強なのだ。
今まで数多の人間が魔王討伐に赴いたが誰一人として帰ってこなかった。
それほどまでに魔王と言う存在は最強なのだ。
「本当だよ」
「そうか......」
二人とも険しい表情をして静かになる。
静寂を切り裂いたのは母だった。
「あなた、もしかしたら......」
「ああ、クノスが選ばれたという事はそういう事なのだろう」
俺が知らない二人だけが知っている情報で会話している。
何か心当たりがあるのだろう。
「クノス、これから話すことはすべて事実だ。それを踏まえたうえで話を聞いてくれ」
父はそんな前置きをし話を始める。
「俺たちは16年前、とある遺跡を調査していた」
18年前、俺がまだ2歳の頃の話か。
「その遺跡がどうかしたの?」
「その遺跡の最奥で私たちはあなたを見つけたのよ」
「え?」
遺跡で俺を見つけた?
つまり俺は二人の子供じゃないってことか?
突然の告白に理解ができない。
「今まで黙っていてすまなかった」
「ごめんなさい」
父が俺に頭を下げると母も頭を下げる。
「二人とも頭を上げて。今の話本当なの?」
確認するまでもなく本当なのだろう。
事前にこれからは事実を話すと言っているのだから。
「本当よ。私たちはあなたを保護し、自分の子として育てることにしたの」
「俺たちはお前を愛しているし血のつながりは無くても実の息子だと思っている。この気持ちは本当だ」
父の言葉に母は何度もうなずく。
両親が俺のことを愛しているのは自分でも分かる。
俺が強くなりたいと言ったら訓練を付けてくれたし、今まで何一つ不自由のない生活を遅らせてきてもらっている。
今の話を聞いたからと言って俺の中で二人が両親じゃなくなったわけじゃない。
「俺の両親は二人だよ。今の話を聞いても変わらない」
俺の言葉に二人は安心したような表情を見せる。
この真実を伝えるのは相当勇気が必要だ。
しかしこの事実がを知った今、疑問が残る。
「俺が二人の実の子じゃなかった事と魔王討伐を命じられたこと、この二つは何の関係があるの?」
そう、この二つの事象の関係性が見えてこないのだ。
「お前を見つけた遺跡。そこは昔、神殿だったんだ」
「誰を祀っていたのかは分からない。その神殿は地盤の変化によってダンジョンとなりはて、魔物がはびこっていた。その奥にお前はいた」
ダンジョン。
洞窟や遺跡を魔物が住処とし、魔素で充満されることで形を変化させたもので一般の人間が入ると生きて帰ることはできない。
つまり、俺は。
「あなたは人の子じゃないかもしれない」
「なるほどね、俺が魔王討伐に選ばれた理由はこれかもしれないって思ってるんだ」
「そうだ。俺達はこのことを黙っていようとしていたが、当時は他の団員もいたからそこから漏れたのかもしれない」
すまない。と言って父はもう一度頭を下げる。
「もう謝らなくていいよ。二人は悪くないんだし」
両親は俺のためにここまでしてくれた。
それを非難する理由がどこにあると言うのだろうか。
「俺、魔王討伐するよ」
俺の言葉に母は苦しい表情をする。
「本当にするのか?」
「うん」
「そうか......サラ、あれを出してくれ」
「分かったわ」
父がそう言うと母は部屋を出ていき、何かを取りに行った。
「お前にはもう一つ言わないといけないことがある」
「まだあるのかよ......」
今日一日の情報量が多すぎる。
少しすると母が見えない何かを手に持って帰ってきて、それを机の上に置いた。
「何を置いたの?」
俺が質問すると母は魔法を唱える。
「姿を隠されしものよ、今その姿を現さん」
唱え終わると机の上のそれが姿を現す。
「これは......槍?」
それは、いつも使っている槍とは穂の部分が長く大きいが、槍の形をしている。
柄の部分は漆黒で、穂は白銀に輝いている。
槍を構成している物質が何一つとして分からない。
「そうだ。お前を発見したとき、この槍を握っていた」
「これを?」
「ええ、強く握っていて離さなかったわ。だから私たちはこれがあなたと大きな繋がりを持っているんじゃないかと思って今まで隠していた」
「じゃあ、俺が剣術を教えてくれって言ったら槍の使い方を教えてくれたのもこれがあったから?」
父は何でも人並み以上に使えるが、特に剣の技術はずば抜けている。
俺はそれを教わりたかったが槍の使い方を教えられた。
おかげで俺は槍の使い方をマスターできた。
「そうだ。これをいつの日かお前が手にする時、扱えるようになるために」
「これを持っていきなさい。今のお前ならこれを扱えるだろう」
俺は机の上にある槍を手に取り、一振りする。
変な感じだ。
槍はずっしりと重いが動きは軽いし、初めて使ったのになぜだかしっくりくる。
「似合っているわ」
「ありがとう」
ぐぅぅ~~~~
腹の虫が大きく鳴ってしまう。
「っ」
恥ずかしくて腹を手で押さえると両親が笑う。
「今日もずっと訓練してたものね、ご飯にしましょうか」
「そうだな、俺もさっきから良い匂いがしてお腹がすいた」
「アペレ」
部屋を覆っていた結界が解除され、さっきまでの真剣な空気もなくなる。
3人で夕飯の準備をする。
「「「いただきます」」」
俺は最後の家族で食べる夕食を楽しんだ。
「ごちそうさま」
食事を終えて自分の部屋に戻り、旅の準備をする。
準備と言っても、装備の手入れをするだけで特に何かを袋に詰めるわけではない。
「この家とも明日でおさらばか......」
装備の手入れを止め、部屋を見渡す。
魔王討伐は長期の任務だ。それに加えて帰ってきたものは誰もいない。
最後に部屋にある思い出を記憶したい。
戦いを教わりたいと言った時に貰った槍や初めて倒した魔物の魔石、騎士団の勲章など今まで軌跡がこの部屋にはある。
その中から、一冊の絵本を手に取る。
タイトルは『あかるいみらい』
俺が小さい頃から好きな絵本で、戦士の道を歩むきっかけでもある。
「懐かしいな」
この本の物語は、1人の戦士が街を困らせている魔物を倒してみんなから英雄として称えられるというもの。
どこにでもある子供のための絵本だ。
俺は、この物語の結末が特に好きだ。誰も死なずに、最初は泣いてた人も最後にはみんな笑顔でハッピーエンド。
俺もこの戦士みたいに、皆を笑顔にしたいと思った。
今、俺はこの戦士と同じだ。
街を困らせている魔物と人類を脅かす魔王とではスケールがかなり違うが。
魔王を倒して皆を笑顔にしたい。
どれだけ無謀なことだと分かっていても、幸せな結末を迎えたい。
「頑張るしかねぇな......」
思い出に浸るのをやめて、武器の手入れを再開する。




