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第五話 メジャーデビューのコツ

「紹介するね。PTAsの高木さんと、浜ミュージック音楽総合プロデューサーの佐々木さんだよ」



「あ、どうも初めまして。Oops TriCKのギター担当、涼風絢音です」



「初めまして。PTAsの高木です」



「浜ミュージックの佐々木です」



 佐々木が差し出した名刺には「浜ミュージック取締役、佐々木瑛二」と書いてあった。歳は見た目五十ぐらいか。


 会合の会話はほぼ佐々木の独壇場であった。


 その内容を簡単に言うと、浜ミュージックがいかに伸び代のある会社であるかを色んな角度から絢音にプレゼンテーションするというものであった。


 雄弁に語る佐々木の横で、高木とミカが相槌を打ち、さらには合いの手を入れ、絢音に佐々木の素晴らしさを吹き込んでいく。



「涼風くん。君にも夢はあるだろう?」



「もちろんです。あたしだって大物になれるならなりたいですよ」



「僕ならそのステージを準備することが出来る。君の才能を引き出すステージをね。浜になってからは今は高木くんのところだけだけど、ポニーにいた時は数々のアーティストを手がけてきたんだよ。聞いたことない? WIPSとかEND BLEATHとか」



「知ってますよ。ヘヴィネス系のバンドですね」



「そう。僕は元々ヘヴィネス系が得意なんだ」



 佐々木は熱っぽく絢音に語りかけた。



「だから君達への期待は大きい」



「ねえ、あーや。また一緒に音楽やろうよ。同じ佐々木さんの下で」



 ミカと同門として音楽をやる。


 絢音にはそれが魅力的に聞こえた。


 音楽性はもう異なるから一緒のバンドという訳にはいかないだろうが、ライバルとして、仲間としてやれるなら……ミカを近くに感じれるなら……それもありかもしれない。


 その時、佐々木のスマホが鳴った。



「あ、ちょっと失礼。仕事の電話だ」



 佐々木は席を立って表に出た。


 絢音とミカ、高木の三人が個室に残された。



「絢音ちゃん。このチャンスは逃さない方がいいと思うよ」



 佐々木がいなくなったタイミングで高木も熱っぽく語り始めた。


 彼の話によると、手持ちのアーティストが少ない今だからこそ佐々木は声をかけてくれているが、これが充実してくるとそういう訳にはいかなくなる。ましてや佐々木ほどの大物に目をかけてもらえるチャンスなどそうそうない、とのことだった。



「佐々木さんにいかに可愛がってもらえるかが鍵だよ」



「そうですね。良いお話だとは思います。一応バンドメンバーとはお世話になろうってことで意見は一致しているんです。だから今回は最終確認みたいなつもりなんです」



「じゃあ善は急げ。すぐにでも契約しないと」



 そうこうしている内に佐々木が戻ってきた。彼は頭をかきながら、すまなそうに言った。



「みんな、すまない。ちょっと会社に戻らないといけなくなった。高木くん、後は少し頼んでいいかな」



「あぁ、大丈夫です」



 佐々木は忙しそうに去っていった。


 残念ながら、どうやら契約は後日になりそうだった。


 佐々木がいなくなった以上、絢音がここにいる理由はもうない。「そろそろ帰ろうかな」と切り出した彼女に高木はもう一杯だけ飲もうと誘った。


 イタリアの白ワインがグラスに注がれる。



「やっぱり佐々木さんって忙しいんですね」



「あそこまで大物になるとね。あ、そうだ絢音ちゃん、連絡先教えてよ。佐々木さんには俺から取り継ぐよ」



「あ、はい。ラインでいいです?」



「うん、それでいいよ。でも一応電話番号も教えといてくれるかな」



「分かりました」



 絢音のプライバシーを登録しながら、高木はにやりと笑った。



「絢音ちゃんは、早くデビューしたい?」



「そりゃしたいです。バンドメンバーみんなそう思ってますよ」



 乃愛はどうかなという疑問は残るが、少なくともメジャーデビューすることを否定的に捉えているメンバーはいなかった。



「じゃあ一番早いデビューのコツを教えよっか」



「あるんですか?」



「三つある。今ミカちゃんはそれを実践中」



「三つ?」



「一つ。曲をたくさん書く。目安は百曲。そしてそれをデモにして、佐々木さんに早く送りつける」



「なるほど」



「二つ。没になってもすぐに書き直す。早ければ早いほどいい。佐々木さんの目に留まる曲も大事だけど、沢山触れてもらうのが一番大事。要は佐々木さんにインパクトを与えることが大事なんだ」



「なるほどです。三つ目は?」



「佐々木さんは他にもアーティストを抱えている。だから人より大きいインパクトを残さないと出し抜けない」



「確かに大事ですね」



「幸い君は女の子だ」



「はあ」



「体の隅々まで覚えてもらった方が、インパクトは残せるよ」



「え?」



「佐々木さんと大人の付き合いすればいいってこと」



 絢音は酔った頭でその言葉をゆっくりと整理した。


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