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日本では陰キャオタクJKな私だけど異世界では充実したお絵描きハッピースローライフを送れています  作者: 明石竜


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第八話 危険な魔物ハントに参加することになっちゃったんだけど……

桜子の異世界生活六日目の朝。

「この国の文字、大体読めるようになったし、もう幼稚園は卒園して、今日からはコリルちゃんの学校で勉強しようかな」

「それもいいね」

 朝食中、コリルとそんな会話を弾ませていると、

 チリンチリンッ♪ と玄関横の鐘が鳴らされた。

「誰だろう?」

 コリルが玄関扉を開けるとそこには、

「おはようコリルちゃん、桜子ちゃんはいるかな?」

 赤髪、獣耳なたくましそうな三〇歳くらいに見えるお姉さんがいた。

「はい、いますよ」

 コリルはすぐに桜子を呼びに行く。


「桜子お姉ちゃん、このお方はこの街一番の魔物ハンター、ソフィチアおば、お姉さんだよ」

「そうでしたか。確かに達人の風格を感じますね。はじめして。私、桜子です」

 桜子はやや緊張気味にご挨拶する。

「新聞見てとっくに知ってるよ。絵にそっくりだねぇ」

 ソフィチアさんはにっこりと微笑む。

「あららら」

 桜子は若干拍子抜けして苦笑い。

「今日は、うちらといっしょに魔物ハントに参加して欲しいんよ」

「魔物ハントですか。私、魔物ハントなんて出来ないですよ」

「大丈夫。同行してくれるだけでいいから。桜子ちゃんが襲われそうになったらうちらが全力で守るから。ぜひお願いします。魔物ハンター衰退の危機を救って欲しいんよ」

ソフィチアさんは桜子の手を強く握り締めてくる。

「どうして私なんかをお誘いに?」

 困惑する桜子をよそに、ソフィチアさんは長々と語り出した。

「うちの子どもの頃は、まだ魔物ハンターは子ども達憧れのお仕事だったんだけど、文明が発展してくると、親に吹き込まれたのか魔物ハンターは勉強の出来ないやんちゃな子がなるもので危険でお給料が安いから絶対ダメって言われて、公務員やお医者さん、研究者、学校の先生なんかを目指す真面目な子ども達ばかりになっちゃって新たななり手がかなり減ってるんよ。特にここのような大都会では。戦後はますますそんな傾向に」 

「日本でも似たような状況だなぁ。熊やイノシシや鹿なんかを獲る猟師さんが同じような問題抱えてますよ」

「異世界から来たとのことだけど、そっちの世界でも共通なのね。そこで、大人気芸術家の桜子ちゃんに魔物をかわいーく描いてもらって、魅力を伝えてもらえれば昔のように子ども達憧れのお仕事に戻ってくれるんじゃないかなと、思ったわけなんよ」

 ソフィチアさんは目をキラキラ輝かせて期待を寄せてくる。

「いやぁ、私がやったところで、現状は変わらないんじゃないかと……」

 桜子は苦々しい表情で伝えるも、

「桜子ちゃんは顕著な子だね」

 ソフィチアさんはふふふっと微笑む。より期待を高めてしまったようだ。

「お願い♪ 報酬もあげるから」

「わっ、分かりました」

「さすが桜子ちゃん」

 ソフィチアさんにぎゅぅっと抱き締められ、桜子は照れくさい心境だった。

「桜子お姉ちゃん、いってらっしゃーい。ソフィチアおば、お姉さんといっしょなら安全だよ」

「桜子ちゃん、頑張ってね」

 コリルとコスヤさんは温かく見送る。


どんな魔物が出るんだろう? 絶対ヤバいの出て来そうだなぁ。

桜子は楽しみ半分不安半分といった心境だ。

同行者は他にも五名いるようだ。

「全員若い女性なんですね。ワイルドな男の人が多そうな職業だから、なんか意外」

 少し年上のお姉さん達だらけでちょっぴり驚く桜子に、

「魔物ハンター全体では四割くらいは女性よ。おばさんお婆さん率高いけど」

 ソフィチアさんが微笑み顔で伝える。

「意外と女性比率高いですね!」

 桜子は驚き顔へ。

「日本だと魔物ハンターって屈強な男の人ばっかりなのね」

「魔物ハンターという職業はないですけど、街中に出たクマさんとかイノシシさんとかを退治してくれる猟師さんは、男の人が圧倒的に多いですよ」

 参加者の中には、エルフ耳な眼鏡の大人しそうで真面目そうなお方も一名いた。

「ウチは、新聞記者です」

「そっか。マスコミさんも同行なんだ」

 こうして合わせて七人と捕獲用の罠や武器、防具などを積んだ袋が大型ドラゴンに乗せられ、山の方へ向かった。

 飛行中、

「魔物ハンターが廃れた理由は、他にも魔物の養殖化も進んで、魔物ハンターがわざわざ危険な思いをして獲りに行かなくても魔物肉を食べれるようになったってのもあるよ」

 魔物ハンターの一人がこんな事実も伝えてくる。

「養殖よりは野生の方が美味いと思うんだけれどなぁ」

 ソフィチアさんは残念そうに伝える。

「私も同感かも」

 桜子が爽やか笑顔で共感を示すと、

「そっか。話が分かるね」

 ソフィチアさんは嬉しそうに微笑んだ。

「芸を仕込む魔物調教師の方は、わりと人気あってなりたいっていう子ども達多いけどね」

 別の魔物ハンターさんがこんなことも伝えた。

「公園でカシタ君といっしょに芸をされてたお姉さんみたいなお方ですね」

「うん、うん。ただね、調教師の方も嚙まれたり引っかかれたり投げ飛ばされたりしてケガする恐れもある危険なお仕事だよ。下手すると魔物ハンター以上に危険だよ。って伝えたらやっぱなるの辞めるっていう子が多いから、講演で呼ばれた時そういうこと最近は言わないようにしてる」

「そういうことはちゃんと言ってあげた方が良いような、悪いような……まあ、小さい子達には言わない方がいいですよね」

 桜子は苦笑い。

 さらに別の魔物ハンターさんからもお仕事事情が。

「魔物ハンターのお仕事は、養殖産業の発展もあって最近じゃ専業で食っていくのは厳しくなってるんだ。キマイラとかヒュドラーとかを狩れるような極々一部の超一流ハンターでもない限り。だから料理屋とかで兼業してる人が多いのよ。ワタシもだけど」

「厳しい世界なんだね、魔物ハンターさんは」

 桜子が呟くと、

「芸術家も結構厳しいと思うわ。競争相手が多かったり、アイディアが浮かばなくて新しい創作物を作れなくなっちゃったり、声が出なくて歌えなくなっちゃったりで。だからロブレンティアが芸術活動を推進してるからといっても、その道を生業にすることを目指すのを反対する親御さんも多いのよ。地方では特に」

 魔物ハンターの一人がこう呟く。

 私のママと同じような考えの人、こっちの世界でもいるんだね。

「ギムナジウムや大学卒業、中には中退を機に親の反対を押し切って、勘当覚悟で地方から上ロブしてくる若い子達もたくさんいるわ。桜子ちゃんなら絵の芸術家として一流だから、上手くやっていけそうね」

「私、日本じゃ芸術家じゃないですよ。ごく普通のイラスト描くのが趣味な女子高生です。私より絵の上手い人が数え切れないほどいますよ」

「そうなんだ! 日本って、絵に関して相当レベルの高い国なのね」

「まあ、高いと思います。アニメや漫画の文化は世界トップレベルなので」

「アニメってどういうものなの?」

「漫画に載ってるような絵を連続的に映し出すことで、動いているように見せる映像技術かな」

「それ聞いてもよく分からないけど、とても高度な科学技術を持ってるみたいね」

「はい」

 いろいろ会話を弾ませているうち、街から外れ、広大な農地を抜け、山の麓へ到着。

「やっぱり怖そうな雰囲気が漂ってるよ。魔界みたい」

 桜子のいた世界では見かけなかった、おどろおどろしい色合いの木々や果実、草花も目に飛び込んでくる。

「この辺りが近隣で一番の野生の魔物狩り場さ」

 魔物ハンターの一人が楽しそうに伝える。

 一行は緩やかな斜面の所で降り立った。

「桜子ちゃん、ここから先は危険だからこれを身に着けてね」

「凄く格好いいデザイン。騎士さんになった気分になれますね。防具屋さんで買ったんですか?」

「ああ。上下セット5000ララシャで」

「私、この国の物価知らないから高いのかどうかよく分からないな」

「一番安い鎧よ」

「安物なんだ! 耐久性大丈夫かなぁ?」

「この山に出る魔物くらいなら、安物の鎧でも問題ないさ」

 一行は鉄製の鎧で装備を整え、山道を歩き進んでいると、どこかからスパッ、スパッと、草が切られるような音が。

「うわぁ! 何この大きなカマキリさん」

 桜子はびっくり仰天。

 体長一メートル以上はあるカマキリっぽい魔物が二匹現れたのだ。

 鋭い刃をこちらの方へ向けて威嚇してくる。

「こいつと目を合わすなよ、桜子。こいつは“イカリナイフ”っていう魔物さ。足と腕を油で揚げると美味いぞ。卵も美味だ」

 魔物ハンターの一人が伝える。

「こいつはその名の通り、ナイフみたいな鋭い刃を目が合った奴目掛けて振りかざして来るんよ。だから背後からこっそり近寄って網を投げて捕まえて、素早く斧で頭を殴ってとどめを刺すの。こういう風に」

 ソフィチアさんは安全な捕獲法を伝え、実践してみせた。

「ソフィチアさん、勇気ありますね」

「こんなのは楽勝さ。うちらにとっては危険な魔物にも入らないよ」

「あっ、今度は蝙蝠さんか。日本の蝙蝠より大きくってお顔も怖いよ」

 桜子はすぐ上空に群れで飛び交っているのに気が付く。

「こいつをフライにすると美味いぞ。傘の原料にもなる」

「鋭い牙で嚙まれるともの凄ぉく痛いけど、特に凶悪ってわけでもないから捕獲しやすいよ」

 魔物ハンターの一人が網を投げ、十匹ほどをあっさり捕獲。

 一行は山道をどんどん歩き進んでいく。

「あのう、私、おトイレしたくなっちゃったんだけど……」

 桜子が気まずそうに伝えると、

「それなら、そこの茂みでするといい」

 ソフィチアさんが指し示す。

「やっぱちゃんとしたおトイレはないかぁ。したあと、紙で拭きたいんだけど、どなたか持ってませんか?」

「そこの葉っぱで拭くと良いよ。紙は土に還らないから野外でする時に使うはマナー違反なの。持ち帰るのならいいんだけど」

「葉っぱで拭いたらお肌荒れそう」

「大丈夫よ。この葉っぱなら」

「わたし達が見張っててあげるから、小でも大でも安心して用を足してね」

「なんか恥ずかしいな」

「魔物の狩り場で用を足す時は、安全のため見張りを付けるのが推奨されてるからね」

「桜子ちゃんのお尻、ぷりぷりして美味しそうだから、魔物さんに背後からカプッてされちゃうよ」

「それは怖いです」

 魔物ハンターのお淑やかそうな感じの猫耳なお姉さんから爽やか笑顔で言われ、桜子は苦笑い。

「する前にスコップで軽く掘って、したあとはちゃんと埋めるのがエチケットよ。はいどうぞ」

 別の魔物ハンターがスコップを手渡してくる。

「ありがとうございます」

 桜子は土を掘って窪みを作り、そこに跨る。

 魔物ハンター達は桜子の周りを囲むようにして守備体制に。

 お外でするの、初体験だからなんか罪悪感。

 そう思いつつ、鎧を脱いでスカートとショーツを脱ぎ下ろして中腰になり、

「ふぅ」

 用を足し終えた。

 思ったより拭き心地いい。

 そして側に茂る葉っぱを千切って拭き拭きする。

 そのあとは窪みを土で埋めておいた。

「大自然の中で用を足すのも、なかなか気持ち良かったでしょ?」

「いやぁ、恥ずかしさの方が大きいです」

「サクラコちゃん、サクラコちゃんのお尻の肉を啄もうとして来た魔物さんがいたから、仕留めといたよ♪」

 魔物ハンターさんの一人が恐ろしい風貌の、カラスのような黒い鳥の首根っこを掴んで楽しそうに見せびらかしてくる。

「あっ、ありがとうございます。お助けいただき」

 桜子は苦笑いでお礼。

「どういたしまして♪」

一行は再び、山道を歩き進んでいく。

道中の沼からグゴォォ、グゴォォ、グゴォォと不気味な鳴き声が。

「かなり恐ろしい魔物さんが潜んでそう」

 桜子は苦笑いで毒々しい色合いの沼を眺める。

「この沼にはマーボーっていう魔物がいっぱい潜んでるんだ。こいつも狩りやすくて美味いぜ」

「マーボーかぁ。日本には魔物とは全然違うけど、麻婆豆腐とか麻婆春雨っていうお料理があるよ」

「美味そうだな」

「めちゃくちゃ美味しいよ」

「食ってみたいな、その麻婆豆腐と麻婆春雨ってやつ。この世界のマーボーは網で掬ったら簡単に取れるぞ。桜子でも簡単だよ。やってみて」

「本当だ。姿はウシガエルさんみたい」

桜子は虫捕り網のようなもので全長三〇センチくらいのそいつを数匹捕獲した。

そんな時、

グウォー、グウォー。

周囲の森の中からこんな鳴き声が。

 ほどなくみんなの目の前に姿を現す。

「クッ、クマさんだ。ヒグマよりも大きいよ。お顔も怖いよ」

 桜子はとっさに魔物ハンターの一人の背後に隠れしがみ付く。

 全長四メートルくらいはあった。

「桜子ちゃん、大丈夫よ。ゴヌゲロングマは危険な魔物ではあるけど、ワタシ達は見慣れて狩り慣れてるから安心して」

 そう微笑みながら言って桜子の

 グゴゴゴガァッ!

 ゴヌゲロングマ、二本足で立ち上がって威嚇。

「そりゃっ!」

 ソフィチアさんは臆することなくそいつに近づき、喉元に剣を突き刺しとどめを刺した。

「ソフィチアさん、凄過ぎます」

 桜子は褒め称える。

「動きは遅いから楽勝よ」

 ソフィチアさんは余裕のにっこり笑顔だ。

「ゴヌゲロングマは普通の人が山道とかで出遭うととても危険なんだけど、イラストやグッズ化される時はかわいくデザインされて、人気な魔物さんになってるのよ」

 別の魔物ハンターさんから伝えられ、

「私のいた世界のクマさんと同じなんですね」

桜子は苦笑い。

さらに山道を進んでいくと、今度はラムカオの群れに遭遇した。

 ウキウキウキキッ!

 ギャアアアッ!

 ガアアアッ!

 ウォォォ! ヴォォォ!

 しきりに耳をつんざくような甲高い雄叫びを上げる。

 一行のいる場所からは三〇メートル以上は離れていたが、それでもかなりの五月蠅さだった。

「噂通り、凶暴なんだね。ショーで見たカシタ君と全然違うよ。まあ、ニホンザルも躾がされて芸も出来るのは大人しくて、野生のは凶暴だもんね」

「ラムカオはこの狩り場では最強の魔物だ。ゴヌゲロングマもラムカオに集団で襲われたら敵わないんだ。遠くから弓矢で仕留めるか、予め罠を仕掛けておくのが安全な捕獲法さ。絶対近づくなよ桜子。野生のラムカオに意思疎通は絶対無理だよ。奴らの縄張りに近づくのはとても危険だ」

 魔物ハンターの一人からこう注意される。

 魔物ハンター達は弓矢を構え、ラムカオの集団に向かって放つ。

 何匹かに見事命中。

ウキ、ウキキキッ!

ウキャァァァ!

仕留め損ねたラムカオ達は恐れをなして一目散に逃げていった。

「なんか、カシタ君と姿はそっくりだから、可哀そうな気もしてくるよ」

 桜子は苦笑い。

「ワタシも気持ちはよく分かるよ。実際、一般的に凶暴だとされてる野生のラムカオにも大人しい個体もいて、そういうのは絶対狩らないようにしてるの。その他の凶暴だとされてる魔物もね。凶暴な個体が圧倒的多数を占める魔物の中では、大人しい個体は野生では長く生きていくのが困難だから魔物調教師や魔物医師、魔物学者さん達が保護して動物園などで安心して暮らせるように育てたりもしてるのよ。カシタ君もそういうタイプよ。魔物ハンターは、獲物を見つけたからってむやみに狩ろうとするんじゃなくて、保護すべき個体を見極める力も必要なの」

「そうでしたか。いろいろ考えられてるんですね」


「桜子ちゃん、この近くには温泉が湧いてるよ。いっしょに入ろう♪」

「擦り傷や捻挫にもよく効くから、ここに狩りに来た人は大体入っていくのよ」

 魔物ハンターの一人とソフィチアさんから伝えられ、

「温泉かぁ。露天のに入るのはこの世界に来てから初めてだよ」

 桜子は乗り気。

 みんなは温泉のある場所へ歩いて向かっていく。

 

平地の街並みが見渡せる、広々とした場所にその場所はあった。

「あの、皆さん、野外で女湯っていう仕切りもないのに、ごく普通に脱いでいますが、どこかからか男の人に覗かれてたりしていないか、心配になりませんか?」

「大丈夫よ桜子ちゃん、今日はこの辺一帯ワタシ達が貸切にして、他の魔物ハンターとかの人を立ち入り禁止にしてるから。もしこっそり立ち入ろうとしてる不届きな輩がいたら、警備で雇ってる女性騎士の方々が成敗してくれるから、桜子ちゃんも安心して脱いでね」

「この世界の騎士さんは、私のいた世界の警察官みたいな感じなんですね」

「騎士の役目は他にも、街中に危険な魔物が現れた時に魔物ハンターがいない場合は代わりに退治してくれたり、海や山などでの遭難者の救助、自然災害が起きてしまった時に速やかに人命救助、復旧活動をして下さるとてもありがたい方々でもあるの」

「私のいた世界でいう自衛隊も兼ねてる感じなんですね」

 桜子は朗らかな表情で呟く。

「リーチェ王国の救世主として子ども達の憧れの職業として親しまれてるよ。昨今の魔物ハンターとは対照的に」

 ソフィチアさんは苦い表情で呟く。

 ともあれ、みんなはすっぽんぽんになって、湯気がもくもくと立ち上る露天風呂へ飛び込んだ。

「うちは覗かれても全然気にならないんだけど、桜子ちゃんは年頃の女の子だからそういうの気になっちゃうかもと思って、警備雇ったんよ」

「ソフィチアさんも若い女性なので、気にされた方が……ここの温泉もすごく気持ちいいですね♪ 足の疲れも取れそう」

 そしてゆったりくつろぐ。

「桜子ちゃん、疲れがより取れるように、マッサージしてあげるね」

「ありがとうございます」

 桜子は湯船から上がり、岩場に敷かれたバスタオルの上にすっぽんぽんのままうつ伏せになると、うさぎ耳と尻尾な魔物ハンターさんにふくらはぎをもみもみしてもらった。

「あっ、ん♪ とっても気持ちいいです♪ ん♪」

「喜んでもらえて嬉しいな♪」

  

       ☆


温泉を十二分に堪能した一行。

このあとは、

今日獲った獲物の一部を使って、魔物ハンターさん達がお料理を作ってくれた。

調理器具も持参していたのだ。

「これ、どうぞ。木の実や野草も添えて美味しいわよ。いっぱい食べてよ」

 魔物ハンターの一人がラムカオを剣で解体し、その肉を焼いたステーキ料理を振舞ってくれた。

「罪悪感があったんですけど、めちゃくちゃ美味しいですね♪」

 桜子もお気に入りになったようだ。

 もう一品のお料理は、

「これはマーボースープよ」

 ソフィチアさんが作ってくれた。

 マーボーの腕や足の肉や顔も入っていて、普通の日本人から見ればグロテスクに感じるところだが、

「フカヒレスープより美味しいかも」

もはや魔物料理を見慣れてしまった桜子にとっては美味しそうな御馳走だ。

さらにもう一品、

「私が今まで食べたカニの中で一番美味しいかも」

 この山の沢に棲息する巨大なサワガニ風の魔物を解体した身も入った、広東風かに玉のようなお料理も振舞ってくれた。

魔物ハンターさん達手作りのお料理も堪能した桜子。今日出遭った魔物達のイラストを、持参していたスケッチブックにリアル寄りではなくかわいくデフォルメして描いた。

「わぁっ、超かわいい♪ グッズ化したい」

「凶悪な風貌の魔物さん達をこんなにかわいく描けちゃうなんて、桜子っち超天才芸術家だね」

「これは予想以上の素晴らしい出来だよ」

 魔物ハンターさん達に大好評のようだ。

「とんでもないです」

 桜子は照れくさそうに微笑む。

「桜子ちゃんのかわいいイラストと、ワタシの文章力が合わされば、魔物ハンターのお仕事がとても魅力的に伝えられると思いますよ」

 新聞記者さんは自信満々言う。

「そうでしょうか? あの、皆さん、今日は私にいろいろと優しくして下さり、ありがとうございます」

「どういたしまして。遠慮せずにいくらでも甘えていいからね」

「……」

 エルフ耳な魔物ハンターのお姉さんに頭をなでなでしてもらい、嬉しさと照れくささで頬がほんのり赤くなったのだった。


一行は調理に使わなかった獲物を載せ、ドラゴンに乗ってこの場所から飛び立つ。

「狩り用の魔物には最強の極級、その下に特級、一から五級までの七段階に分類されてるけど、今日行った狩り場は下から二番目三番目の四級、三級の魔物が棲む魔物狩り初心者向けなんだ。ちなみに五級は幼い子どもでも簡単に捕まえられる、街中の公園や家の庭、池なんかにいる虫や小動物だよ。でも美味しさは極級魔物より上の物もいるんよ。もっと山奥の標高の高い所や砂漠、地底、ジャングル、雪原、遠海に行くと、今日出遭った魔物なんかより遥かに凶悪で獰猛な魔物がうようよしてるわ。そこにもそのうち連れて行ってあげるから楽しみにしててね、桜子ちゃん」

「ソフィチアさぁん、そこはちょっと、さすがに遠慮しときます。今日の狩り場でもけっこう怖かったので」

「ふふふ、そう言うと思ったよ。今日同行してくれたお礼に、街へ帰る前に癒しの観光スポットに連れて行ってあげるね」

 ソフィチアさんが立ち寄ってくれたのは、広大な湖や森が広がり、岩山に多数の洞窟の穴が見受けられる場所。観光客も大勢いた。

 十数頭のドラゴン達が水浴びをしたり、寝そべったり、木の実を頬張っていたりする光景が眺められた。

「ここはロブレンティアを行き交うドラゴン達の住み処なんよ。広いお庭があるおウチだと、そこに住む個体もいるけどね」

「いい光景だね。イラストに残しとこっと♪」

 スケッチブックに楽しそうに描いた桜子。コリル達が普段使っているドラゴンの巣穴にも連れて行ってもらった。

「ちょうど今おねんねしてるね。寝顔かわいい♪ あっ、私がプレゼントしたイラスト飾ってくれてる。大切にしてくれて嬉しいな♪」

 グォ?

「あっ、ごめんね。起こしちゃって」

 キユピッ♪

 ドラゴンは起き上がると、桜子に向かって嬉しそうに腕を振って見送ってくれた。


「ソフィチアちゃん達、やるねぇ。今日は特に大収穫じゃないか」

「桜子ちゃんの可愛さに魔物がいっぱい引き寄せられたおかげなんよ。普段あの狩り場じゃ滅多に現れない魔物にも出遭えたし」

「サクラコちゃんって、魔物さんからしたら凄ぉく美味しそうな御馳走だもんね」

「なんか、私が囮に使われたみたいで嬉しくないよ」

 そのあとは魔物ハンターさんは街の市場や馴染みの飲食店に立ち寄り獲物を届け、桜子をコリル宅まで送ってくれたのだった。


「桜子お姉ちゃん、今日は楽しかった?」

「うん、魔物ハント以外にも露天風呂に入ったり、収穫した魔物のお料理を食べたり、ドラゴンのおウチも見学させてもらったり、流通も学ばせてもらったりして、とっても充実した一日だったよ」


           ☆

 

 翌日の新聞で、【魔物ハンターはこんなに楽しいお仕事】という見出しで桜子の描いたかわいい魔物イラスト入り記事が大きく数ページに渡って載せられた。

「私のイラスト、学級新聞でもこんなに大きく扱われたことないなぁ」

 桜子はご満悦。

 記事の文字もわりと読むことが出来た。


 さて、魔物ハンターに憧れを抱く子ども達が増えたかというと、

「少年少女達よ、魔物ハンターさんのお仕事、魅力的で恰好いいでしょ?」

「僕はなりたくないなぁ。そんな危ないの」

「魔物ハンターさんが魔物ハントしてるとこ見るのは楽しいけど、なりたいとは思わなぁい」

「桜子先生の絵はかわいくて素敵♪ でもね、魔物ハンターには全然憧れないわ。本物の魔物さんはとても危険で恐ろしいってこと知ってるもん」

「子ども騙しな紹介文だよね」

「そっ、そんなぁ。リーチェ王国の将来が……」

 そう上手くはいかなかったようだ。

 ソフィチアさんは、しょんぼりしてしまうのであった。


「すみませんソフィチアお姉様、魅力を上手くお伝え出来なかったみたいで」

「いや、気にしないで。きみの紹介文はとても素晴らしかったよ。今の子ども達は勉強熱心で賢くなり過ぎたんだ」

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