第六話 今日もお外へおでかけしたら、私が勝手にグッズ化されててなんだか恥ずかしいよ
桜子の異世界生活四日目。
桜子は今日も幼稚園でリーチェ王国の文字の勉強をさせてもらうことに。
教室に入ると、
「私のお顔そっくりなアップリケ付きの帽子がいっぱい!」
桜子はびっくり仰天。
「桜子先生、見て見て」
「似合う?」
園児達がみんなその柄の帽子を被っていた。
「この柄、先生も気に入ったわ」
「みんなのお母さん達や、先生方で夜なべして作っちゃいました」
「みんな欲しいって言ってたからね」
先生方も楽しそうに伝える。
「私柄のかわいい帽子、なんだか恥ずかしいけどすごく嬉しいよ」
桜子は幸せ気分で今日もお勉強も楽しみ、
「桜子先生、この狸みたいな丸いのと、お鼻の大きなお髭のおじさんは何っていうキャラ?」
「ド〇えもんっていうキャラなんだ。こっちはマ〇オだよ」
今日は日本の大人気アニメキャラやゲームキャラのイラストも披露してあげたのだった。
午後からは一人で街をお散歩してみることに。
「桜子だぁ~、サインちょうだぁい」
「いいよ、かわいい男の子」
「ありがとう桜子」
「桜子ちゃん、この街はどうだい?」
「今まで見たことない光景ばかりでとっても最高です。空に飛行機じゃなくドラゴンが何匹も飛び交ってるもファンタジー感溢れてますね」
「桜子ちゃん、これ食べな」
「おばあちゃん、ありがとうございます」
時おり老若男女問わず様々な種族の人々から声を掛けられ、桜子は快く応じてあげた。
「ここじゃ学校の宿題もないし、こんなのんびりとしたのもいいな。今日もイラスト描写を披露しようかな? お金貰えるし」
そう企み、市民憩いの公園へ。
園内に入ってほどなく、
♪♪♪ ♪♪♪ ♪♪♪
どこかからきれいな歌声が聞こえてくる。
「あっ、市長さん!」
ポポルワノさんが広場でアカペラを披露されていたのだ。
ポポルワノさんが歌い終えると、
パチパチパチパチパチパチパチッ!
観客から盛大な拍手が。
「皆様、ご清聴ありがとうございました」
ポポルワノさんは観客に向かって深々と一礼。
「こんにちは、ポポルワノさん。さっきの歌、凄く感動しました」
「あら、桜子お嬢様。こんなにすぐに再会出来るとは嬉しい限りでございますわ」
「こちらこそ。あの、トロフィーをいただいたお礼に、似顔絵を差し上げます」
「あらまぁ、わたくしそっくりでとても素晴らしい似顔絵でございますね。家宝に致しますわ」
「ありがとうございます」
パチパチパチパチパチッ!
このやり取りに、観客からまたも拍手が。
「さくらこお姉ちゃん、僕の似顔絵も描いてぇ~」
「あたしのも~」
「ボクも~」
付近にいた子ども達、次々と近寄ってくる。
「順番にね」
桜子は快く似顔絵や元いた世界にいる動物のイラストを描写していき、投げ銭もたくさん貰えて愉快な気分で公園をあとにした。
続いては、この間も訪れた図書館兼本屋さんへ。
写真集は一冊も見かけないなぁ。この世界ではまだ発明されてないっぽいな。ひょっとして、この世界にもあれな本はあったりして。
そんなことが気になってしまった桜子、店内を注意深く歩き回る。
あっ! やっぱりあるみたいだね。
18と、この国の文字で何かが書かれてある注意書きと×印。
そして黒のカーテン。
入っちゃ、ダメだよね。あのコーナーは。この世界でもどうやら十八歳未満はダメってことだよね。写真はまだ無いっぽいから、コミケとかアニ〇イトとかで売られてる十八禁同人誌みたいなのしか売られてなさそうだね。
桜子は少し気にはなってしまったが、入らず引き返す。
魔導書とかないかなぁ。
引き続き楽しい気分で店内を歩いていると、あの本のコーナー内からこんな声が。
「坊や達、ダメだよ」
「気持ちはよく分かるけど早過ぎよ」
「「「「「ごめんなさーい」」」」」
店員のお姉さん達や騎士が、十歳くらいと思われる子ども達を担いで強制退出させていたのだ。
少年達、あんな場所にいちゃダメだぞ。十年早いよ。
桜子は心の中で優しく注意しておくのであった。
この世界がどんな風になってるのか知りたいし、地図を買っておこうっと。アンティーク感溢れててデザインめちゃくちゃ格好いいねぇ。この世界の漫画も気になるぅ。
1000ララシャの世界地図帳と、800ララシャのロブレンティアの観光ガイドブックと500ララシャの漫画雑誌と600ララシャ前後の漫画単行本を購入し、隣接する図書館のテーブル席に腰掛け、漫画雑誌をざっと読んでみて、
この世界のマンガって、失礼だけど絵のレベルが日本のマンガよりも低めだね。この世界だったら、私も漫画家になれちゃうかも。
そんなことも思ってしまう。
……いや、絵は下手だけどストーリーはけっこう面白いね。セリフの文字は完璧に読めないのに、惹き込まれちゃう。日本のマンガ以上かも……やっぱ厳しいかな? この世界でも漫画家は。私ストーリー作るのは苦手だし。
じっくり読んでみて、思い直したのであった。
図書館兼本屋さんから外へ出ると、
「馬車も走ってる。あのお馬さん、ペガサスみたい!」
またしても見たことのない光景を目にし、桜子は大興奮。
さっそく乗車場所へ向かう。この街の公共交通機関になっているらしい。馬の機嫌や体調により運休することもあるとのこと。
「すみません、このお馬さんって、空を飛べるんですか?」
桜子の質問に、
「残念ながら、飛べないよ」
老紳士な感じの馬車運転手さんは微笑み顔で伝える。
他に待っていたお客さんも何人か笑っていた。
どうやら元いた世界でペンギンは空を飛べるんですか? と尋ねること同様常識知らずの恥ずかしい質問だったらしい。
「あらら。ペンギンさんやダチョウさんと同じなんだ。まあいいや。乗りまーす」
桜子は一律運賃100ララシャを支払い、商店街最寄りの駅で下車した。
☆
「お店の看板、けっこう読める!」
商店街にて。お勉強の成果が少しは出て、桜子は嬉しさいっぱい。
「新発売、桜子ちゃんのお顔イラスト入りチーズケーキ、名付けて『桜子お姉ちゃんのチーズケーキ』一個500ララシャで販売中。とっても美味しいよ」
ケーキ屋さんからこんな掛け声も聞こえて来た。
「私、り〇ろーおじさんみたいにチーズケーキにまでなってるんだ!」
桜子は思わず笑ってしまう。
桜子の似顔絵を模った焼き印が押されてあった。
さらに、
「あらっ! ご本人様がいらっしゃいました!」
店員さんや客から拍手が。
「桜子さんご本人様には無料で差し上げますよ」
「それは嬉しいな。いただきまーす」
桜子は渡されたフォークを突き刺し齧り付く。
「ふわふわで最っ高! お土産に買って帰ろっと♪」
そして笑顔がこぼれる。
お土産用には正規料金を払って購入した。
画材を購入しようと思い立ち寄った文房具屋さんでは、
「あっ! 桜子君。いらっしゃい。さっそくグッズ化したよ」
狼風の耳をした男性店員さんが陽気に声をかけてくる。
予感的中だ。
「消しゴムに、ノートまで」
桜子を模ったり表紙に似顔絵イラストが載っていたりしたそれらの商品が多数並べられていた。
「買っちゃいます」
「まいどあり♪」
ちょっぴり恥ずかしながらも嬉しそうに全種一個ずつ購入し店を出た。
そのお隣のおもちゃ屋さんでは、
「このいかにしてタワーを崩さずにパーツを抜き取るかを競うおもちゃ、たまに売れるかなって感じだったけど、外箱に桜子さんの似顔絵イラスト載せたら飛ぶように売れたわ」
エルフ耳な女性店員さんが上機嫌で伝えてくる。
ジェンガのようなおもちゃだった。
「嬉しいような、照れくさいような。私のお人形さんまであるんだね」
全身の立ち姿が、一〇分の一くらいのサイズで精巧に作られていたフィギュアも発見。
「これは展示用よ。販売用には三体用意したけど、すぐに売り切れちゃったのよ。桜子ちゃんグッズ、これからもどんどん量産していくから楽しみにしててね」
店員さんは楽しそうに伝える。
「なんか恥ずかしいな」
桜子はここでもいくつか勝手に作られた自分のグッズを購入。
「リャモロンちゃんのグッズもあるんですね」
「リャモロンちゃんもこの街で絵の芸術家として人気だからね。この子のグッズもよく売れてるわ。一昨日の朝、うちの店に来てくれたけど、桜子ちゃんのことをこの子は凄い。絶対ヤバい子だってうろたえるように言ってたわ」
「そうでしたか。昨日、私とお友達なったんです」
「そうなの。それはいいライバル関係になりそうね」
「はい。リャロモンちゃんグッズ、記念に買っちゃいます♪」
さらにリャモロンの似顔絵イラスト入りノートやフィギュア、ぬいぐるみも購入して店をあとにしたのだった。
この世界、著作権とか肖像権とかっていう概念まだなさそうだね。まあ、それもなんかいいけどね。
おしゃれなカフェを訪れてみると、
「いらっしゃい桜子さーん、いろんな魔物肉のミックスジュース、いかがですか? 美容にいいですよ」
獣耳や尻尾がコスプレではなくリアルに付いたメイド服姿の若い女性店員さんがおどろおどろしい色合いのドリンクをおススメして来た。
「見た目はアレだけど、美味しいんだよね」
桜子はさっそく試飲。
「喉越し爽やかでとっても美味しいよ。ほんと最高!」
飲み干して、こんな感想を述べておいた。
すると、
「ご本人様もお気に入りみたいですね」
桜子さんご本人も大絶賛!
という宣伝文句も店員さんはメニュー表に加えたのだった。
「どうも、ありがとうございます」
桜子は感謝の意を表する。
カフェから外へ出ると、
「雨が降って来ちゃったよ。この世界に来てからは初めてだね」
悪天候になっていたためすぐ近くの傘屋さんで蝙蝠傘を800ララシャで購入。
「本物の蝙蝠とか、出て来たりして。この世界ならあり得そうな気がする」
恐る恐る傘を開いてみる。
よかったぁ♪ 私のいた世界と同じ普通の蝙蝠傘だ……いや、これ、蝙蝠の羽で作られてるよね? 手触り的に。うわっ! 天井部分にお顔が貼り付いてる。この世界の蝙蝠傘、リアルに作られ過ぎだよ。私と同い年くらいの女の子達も同じような傘平然と差してるよ。日本ならハロウィングッズで売ったら大ヒットしそうだね。
不気味に感じながらも、濡れてしまうので差したままコリル宅へ帰っていった。
「桜子ちゃん、すっかり大人気な芸術家さんになってるわね。きっとあのお店でもメニュー化されてると思うわ」
「桜子お姉ちゃんのチーズケーキ、ふわふわしててとっても美味しい♪」
あのチーズケーキは大好評。
☆
今夜の夕食は、異世界に来た初日以来にラムエリオで取ることに。
桜子が訪れると、
「「「「「きゃあああっ! ヤバいヤバいヤバい」」」」」
「マジヤバ♪」
「ヤッバーイ」
「この子が噂の芸術家の桜子かぁ。かわいい♪ 妹に欲しい」
「新聞に載ってた絵そっくりじゃん♪」
「ファンです。握手して下さい」
ぴょんぴょん飛び跳ねたり、尻尾をフリフリさせたり、奇声を上げたりして喜んでいる桜子と同い年くらいの子達も大勢いた。
さらに、ノートと鉛筆・色鉛筆、羽根ペンを取り出す子もたくさん。
「スマホで写真撮られるんじゃなくて、私の似顔絵描かれまくってるって新鮮な気分だな」
桜子は上機嫌だ。
ここでも、
「あっ、桜子さんじゃないですか。いらっしゃぁい」
「桜子さんをモチーフにした新作メニュー、ご用意してありますよ」
桜子の顔を模ったクッキーや砂糖菓子、焼き印の押されたマシュマロ、パンケーキ、カステラ風のデザートが新メニューに加えられていた。
尻尾や動物の耳っぽいのが付いた若い女性店員さんが楽しそうに紹介してくれる。
「共食いになっちゃいますね」
桜子は苦笑いで自虐気味にそう言いながらも、
「どれもとっても美味しかったです♪」
自分をイメージしたメニューは全部食してみたのだった。
「これからも桜子お姉ちゃんのメニュー、どんどん増やして欲しいな♪」
「わたくしも期待してるわ」
コリルとコスヤさんもいっしょに訪れ、桜子ちゃんメニューを堪能したのであった。




