第十三話 この国の国民的エンタメイベント、コスプレ祭りに参加したけど、ライブあり同人誌即売会あり楽しそうなブースもあって最高過ぎるよ
ある日の夕方、コリル宅の夕食団欒中にこんな会話が交わされていた。
「観光ガイドブックで知ったんだけど、この国にも近々コスプレ祭りっていうのがあるみたいだね」
「今度の日曜日にあるよ。凄く楽しい国民的お祭りだよ。世界中からコスプレ好きの人達がこの街に集まって来るんだ。わたしやお友達も毎年参加してるの」
「そうなんだ。私も何かコスプレして出てみたいな」
「絶対出るべきだよ」
「桜子ちゃんのコスプレをされてる方も、今年は新たに出てくると思うわ」
「それは私としても嬉しいな。日本にもコミケとかマチ★アソビとか、コスプレイヤーさんもいっぱい集まってくるイベントがあるよ」
「日本のも楽しそうだね。わたしは今年はケットシーのコスプレするんだ」
「わたくしは、魔女さんよ」
「二人ともとても似合いそうですね。私は何のコスプレしよっかな」
「わたしとお揃いでケットシーがいいかも。コスプレ以外にも魔物さんのショーとか、手品ショーとか、ライブとか体験ブースとかいろんな催しがあるんだ。当日は会場の外でも街中コスプレの人だらけだよ」
「めちゃくちゃ楽しみ♪」
「このお祭りの時期が近づくと、服屋さんやおもちゃ屋さん、武器屋さんでもコスプレ祭り用の衣装がたくさん並び出されるのよ」
「そうなんですか。さっそく買いにいこっと♪」
その日の夕方、桜子は気に入ったコスプレ衣装が包まれた大きな袋を手に持ち、コリル宅に戻ってくる。
「おもちゃ屋さんで素敵なコスプレ衣装、手に入れちゃった。今から着てみますね」
袋から取り出そうとした桜子に、
「待って桜子お姉ちゃん、当日にお披露目がいいよ」
「お祭り当日のお楽しみにしときたいわ」
コリルとコスヤさんは引き留めた。
「それじゃ、そうしますね」
☆
そして開催日当日の朝。
「お二人とも、めちゃくちゃ似合ってますね」
予定通り、コリルはケットシー、コスヤさんは魔女のコスプレ姿をお披露目。
「桜子ちゃんも凄く似合ってるわ」
「えへへ。この色、私の名前に使われてる桜の花びらと同じ色なんですよ」
桜子は黒のコリルと色違い、ピンクのケットシー姿になって、三人揃ってドラゴンに乗せてもらい、お祭り会場の市民憩いの公園へ。
「ロブレンティアコスプレ祭りに初参加の桜子さん、ぜひ大いに楽しんでね。普段着姿もかわいいけどコスプレ姿はもっとかわいいわ」
降りた場所付近でリャモロンとも合流した。
「リャモロンちゃんもケットシーなんだね。ますますかわいいよ」
「ここ四年ほどはケットシーよ。一番のお気に入りだから。色は毎年変えてるけどね」
「それにしても凄い賑わいだね。日本橋ストリートフェスタ以上だよ。何万人いるんだろう?」
桜子は幼い子どものように大興奮。
コリルのお友達ともこの付近で合流した。
「サクラコちゃん、そのコスプレとっても似合ってるね」
「桜子お姉さんとってもかわいい♪」
「アタシの予想当たった! 絶対ネコさんだと思ったよ」
「ウチは妖精さんかと思ってた」
「みんなもとっても似合ってるよ」
可愛らしい魔物の着ぐるみや、騎士やシスターやメイド、謎の果物のコスプレ姿なんかになっていた。
付近の舞台上では、開会式が行われていた。
「地元の方々のみならず、リーチェ王国、さらには世界各国からお越しの皆様、年を追うごとに来場者も増えますます賑わうコスプレ祭りを、大いに楽しんで下さいませ。ワタクシもご参加して下さった皆様と共に全力で楽しませてもらいますわ。今回は悪天候だった前回とは打って変わって、絶好のお祭り日和でございますね」
ご挨拶をされた市長のポポルワノさんは、メイド服コスプレだった。
周囲をざっと見渡すと、来場者の九割以上は何らかのコスプレをしていた。
屋台もたくさん設けられていた。
「桜子さんを飴細工にもしてみたよ」
屋台の獣耳なお兄さんが勧めてくる。
セーラー服姿の桜子を模った飴細工が数十本並べられていた。
「私、飴細工にまでなっちゃってるよ! しかもかなり精密だよ」
桜子は自分を模った飴細工をぺろぺろ舐めてみる。
「恥ずかしいけど、めちゃくちゃ美味い♪ 職人さんの技術力凄過ぎだよ。作り方教えて欲しいくらいだよ」
食してみて照れ笑いだ。
「この子にも桜子ちゃんの飴細工一本ずつ下さい」
「まいどあり」
お客さんで、魔女のコスプレをされていたエルフ耳なお姉さんがご購入。
そのお方は、ラムカオショーの調教師のお姉さんだった。
ウキウキ♪
カシタ君は海賊のコスプレをしていた。
「おはようカシタ君、格好いいコスプレだね。私の形の飴は美味しい?」
桜子が問いかけると、
ウッキー♪
カシタ君は満面の笑みを浮かべた。
「嬉しそうだねぇ。カシタ君、食べるの早過ぎだよ。私のお顔が瞬く間に溶けていくよ」
桜子は楽しそうに眺める。
ウキキキ♪
「カシタ君も今日のコスプレ祭りとっても楽しみにしてたよ。では皆さん、カシタ君は今日はいろいろなショーにゲスト出演するので、ぜひ見に来て下さいね」
調教師のお姉さんはそう告げて、カシタ君と共に出演予定がある舞台の方へと向かって行った。
「桜子お姉ちゃん、わたしはこれからお友達とママといっしょに衣装作り体験コーナーに行くんだけど、桜子お姉ちゃんとリャモロンお姉ちゃんはどうする?」
コリルは桜子の飴細工を舐めながら問いかける。
「私は会場内一通り全部見て回りたいなぁ」
「あたしは桜子さんを案内するわ」
「そっか。じゃあ、最後はあそこの鐘の前で合流しよう」
「了解したわ」
「じゃあみんな、またあとでね」
こうして、桜子とリャモロンはコリル達と一旦別れることに。
☆
「日本でお馴染みのひょっとことかおかめとか、天狗とか、一つ目小僧とか、能面とか、鬼とかのお面被ってる人はさすがにいないかぁ。忍者やお侍さんのコスプレもやっぱいないね。ドラゴンの着ぐるみ着てる子達もいるね。格好いい! 魔女のお面も怖めだよ。私のいた世界じゃ見たことない動物さんや、ゾンビやドラキュラやピエロやミイラや海賊や騎士や、ベネチアンマスクっぽいの被ったコスプレもわりといるねぇ。さすがヨーロッパ風って感じだね。王様のコスプレもいる」
「日本でお馴染みのもの、どんなデザインなのか気になるから、あとで描いて欲しいな」
「分かった。ん? なんか、ものすごぉく身に覚えのあるキャラの着ぐるみも。マ〇オとかピー〇姫とかド〇えもんとか、サ〇エさんとかキ〇ィちゃんとか、ミャ〇ミャクも。そっか。私が幼稚園とかで披露した日本の人気キャラクターのイラストがいつの間にか広まっちゃって、着ぐるみが作られたんだ。この国の人にとっては感覚無いんだろうけど著作権的にまずいよ。この光景がコミカライズやアニメ化されたらモザイクや目線が必須だよ。しかも人気が出たらすぐに商品化しちゃう国民性だし」
「やあ、桜子さん。あなたが描いてくれたこのミャ〇ミャクという日本の大人気キャラクター、この国でも特に大人気なようですぞ」
ミャ〇ミャクっぽい着ぐるみを身に纏ったお方が伝えてくれる。
「それは、どうも。このキャラクターを最初にデザインして下さったお方も、異世界にまで人気が広まっていることを喜ぶかと思います」
桜子は苦笑い。
「この着ぐるみ、どんどん量産してリーチェ王国中に広めていきますぞ」
「そのご利用でしたら問題ないと思いますが、企業の広告にマスコットとして使ったり、グッズ化して商品として販売したりして、お金儲けにご利用されるのは控えた方がいいです、日本では著作権法というのがありまして、ミャ〇ミャクの二次創作に関するガイドラインによると、営利目的のご利用は禁止されてるので。個人で楽しむためにミャ〇ミャクが登場する漫画や絵本を描いたり、衣装やお人形を作ったりするのは大丈夫みたいです」
「了解ですぞ。今後は日本の法律に則って、ミャ〇ミャクの知名度を広めていきますぞ」
ミャ〇ミャクっぽい着ぐるみを身に纏ったお方は、のっしのっしと歩いて会場内を移動していくのだった。
「「「「「ミャ〇ミャク~」」」」」
「「「ミャ〇ミャク様ぁ」」」
「「「ミャ〇ミャクちゃーん、何が好き?」」」
「アイスクリームのバニラ味、よりもあなたの笑顔が大好きですぞ♪」
小さい子ども達や、大人もけっこうな数その周りに群がっていた。
「しゃべり方は日本のと違うね。中の人は別なだけに。ムッ〇っぽいよ」
「日本も、こんな地底や他の星にでもいそうな得体のしれない気味の悪い魔物をモチーフにしたキャラクターが人気があるのね。パッと見気味悪いけどなんか愛嬌があって可愛く見えるキャラクターって、リーチェ王国でも人気が出やすいのよ。あたしも好きだし。日本人の美的感覚はリーチェ王国人と共通してるわね」
桜子とリャモロンは屋台の料理を食べ歩きもしつつ会場内を巡っていく。
「桜子さんの髪型ウィッグを被ってる人も何人か見かけるわね。この国であんな感じのヘアスタイルの人今までほとんど見かけなかったから、珍しいもんね」
リャモロンはふふっと笑う。
「嬉しいけど、ちょっと照れくさいな」
桜子は照れ笑い。
そんな時、
「桜子ちゃん、はじめまして。桜子ちゃんカットは髪質的に無理っぽいから、ウィッグ被っちゃいました」
「ワタシ、さくらこお姉ちゃんのこの髪型、大好き♪」
獣耳と尻尾な母娘親子が近寄って来て、
「気に入ってもらえて嬉しいです」
桜子は朗らかな気分でこの親子の似顔絵イラストも描いてあげた。
「日本のグルメの屋台もあるんだ! 私が紹介した日本料理のイラスト、本物の料理にもしてくれたんだね」
「日本料理って、どんなものなのかしら?」
桜子とリャモロンは『日本料理』とこの国の文字で書かれた屋台を見つけると近寄ってみる。
人だかりも出来ていて、人気があるようだ。
「握り寿司だぁ。日本のとは具材が違うけど、ちゃんと握り寿司の形になってるね」
おどろおどろしい色合いの何かの魚の魔物の身が乗っかっていた。
「やあ、さくらこさん。あなたが伝承してくれた日本料理、飛ぶように売れてますよ。料理人ギルド仲間の間でも日本料理を作るのがブームになってるんです」
その屋台を切り盛りしていたエルフ耳なお兄さんが伝えてくる。
「日本料理が異世界にも伝わってくれて光栄です。ちなみに和食とも言います。天ぷらやたこ焼きや、お味噌汁やおにぎりもあるんだね。形はそっくり♪」
桜子とリャモロンはさっそく購入して食べてみた。
「天ぷらも日本のとは具材が違うけど、味は日本のもの以上かも」
「握り寿司、とっても美味しいわ♪」
「おにぎりに巻かれてあるのは、海苔じゃないね」
「これは蝙蝠の羽だよ。巻かれてあるのは“のり”っていうのか! 紙なんかを貼り付けるものとは違うっぽいけどどんなものなのか想像つかないな」
「海苔は海藻の一種です。川でとれる川海苔っていうのもありますよ」
「そうなのかい。すまないねぇ、この国じゃ聞いたことのない食材なんで、本場のものとは違う感じにアレンジしてしまって。握り寿司にしても天ぷらにしても」
「いえ、手に入る食材が違いますから、外国で作ると本場のものからアレンジされるのは、日本で食べる世界各国のお料理と同じですから」
「たこ焼きは中身は名前の通り蛸さんの足が入ってるけどチョコレートソースがかかってて、お味噌汁はラムカオの脳みそをペーストにしたものが溶かされてるけど、これも本場のものとは違ってそうね」
美味しそうに食したリャモロンは呟く。
「うん、詳しい作り方はよく分からないんだけど、たこ焼きのソースはお野菜や果物をミキサーですり潰してピューレにしたものに、お砂糖や塩や醬油や酢とかいろんなものが混ざってて甘じょっぱくて、お味噌汁のお味噌は脳みそのことじゃなくて、大豆から作られた発酵食品で塩辛いものなんだ。白っぽいのとか、茶色っぽいのとか、黒っぽいのとか、いろんな種類のお味噌があるよ」
「ほう、それはじつに興味深いものだね。醤油とお味噌というのは、どんなものなのか想像つかないけど、なるべく近いものに再現したいものだよ」
屋台のお兄さんは朗らかな笑顔で呟く。
「あたしも気になっちゃった」
「きっと出来ると思います。頑張って下さい」
「応援ありがとな、桜子ちゃん」
日本料理の屋台をあとにして、桜子とリャモロンは会場内をさらに散策していく。
「桜子ちゃんもリャモロンちゃんも、ネコちゃんになってるぅ」
「ヤバいくらいかわいい。ニャンニャンニャン♪」
「超似合ってる!」
「さくらこちゃん、リャモロンちゃん、お手」
「どっ、どうぞ」
「あたしと桜子さんよりも有名で偉大なお方も多数来場されている中、お声がけ下さりありがとうございます」
「きゃぁん、かっわいい♪ 妹に欲しい♪」
「あの、もしよろしければワタシの似顔絵描いていただけませんか?」
「もちろんいいですよ」
「あたしも描かせていただきますね」
「わぁ、嬉しい♪ ありがとうございます」
年の近い女の子達も近寄って来て、頭を撫でられたりイラストに描かれたりお願いされたり。
「あんまりお声がけし過ぎるのも良くないかも。お二人もゆっくりといろいろ周りたいもんね」
こう気遣ってくれる子も。
「いえ、私はお声がけしてもらえると嬉しいので、気兼ねなくお声がけして下さい」
「あたしも、イラストのご依頼があれば快く引き受けますよ」
「良い子過ぎるぅ♪」
「ファンサービス良過ぎだね。有名人の鑑だよ」
「さくらこちゃんにリャモロンちゃん、ロブレンティアのコスプレ祭り、見どころいっぱいだからゆっくり楽しんでってね」
「はい、私はこのイベント初体験なので、めちゃくちゃ楽しめそうです」
「あたしも桜子さんとごいっしょなので、今まで以上に楽しめそうです。皆様の方も、ごゆっくりお楽しみ下さいね」
ファンの子達から高い好感も持たれ、桜子とリャモロンは幸せ気分だ。
☆
「魔物さんのショーもいろいろやってるね。あっちでは手品も。大道芸もいろいろやってる」
「このイベントは芸能人を目指す子達にとっても、楽しめるイベントなの。たくさんのステージが用意されてあって、有名人の出演予定がない時間帯は誰でも自由にステージに上がってパフォーマンスを披露することが出来るのよ。それがきっかけで新たに有名人になれる人もいるの」
「日本とは違ったデビュー方法もあるんだね。吟遊詩人の弾き語りも、その世界ならではって感じだね。披露されてるの、ラムラングル王子だぁ。噂通り多芸多才なお方なんだね」
「ラムラングル王子も、毎回このコスプレイベントにご参加されてるのよ」
「さすが国民的イベントだね」
ラムラングル王子が弾き語りを披露されていた場所近くのステージでは、
「この間おかんがな、俺の誕生日プレゼントに奮発してあんたの大好物なワイバーンの腕のステーキこうて来たでー。言うて緑色のええ香りした腕を見せて来てな」
「それリンドブルムの方やがな。まあオレのおかんも翼があるでかい魔物はみんなワイバーン言うてるけどな。お手紙届けに来たグリフォンにもワイバーンくん、いつもありがとなってお礼言うてはったわ。グリフォンくんめっちゃ不機嫌そうな顔しとったで。おばちゃん、いい加減わいの名前覚えてくれやっ! そんな凶悪で獰猛な魔物と一緒くたにせんといてやぁって感じで」
「そのグリフォンくん、拗ねてこれからもう持って来てくれへんなるな~。担当魔物がヒッポグリフに代わったとしてもきっとワイバーンくん言うとるで」
「せやろなぁ」
アハハハハハハハッ!
エルフ耳と獣耳な男性二人組コンビがコントを繰り広げていた。
「吉〇のお笑い芸人さんみたいな人達もいるんだね。突っ込み役に、相方以外にカシタ君も頭叩くのに加わってる! 日本のお笑いとはまた違うね」
「魔物さんも人といっしょにステージを盛り上げることは、この国ではよくあるのよ」
「そうなんだ! 面白ぉい」
さらに歩き進み、
「同人誌即売会もやってるんだ! ミニコミケって感じだね」
桜子はそんなブースを見つけ、リャモロンといっしょに覗いてみることに。
「桜子ちゃんにリャモロンちゃんだ! 凄いお方が来てくれて嬉しい♪ でも、うちが描いた作品もあるあちらのコーナーは成人向けの十八禁なので残念ながら立ち入り禁止なんだ」
「それはちょっと残念だね」
「まあ、それは仕方ないわ」
成人向け十八禁コーナーの入口前には鉄の鎧を身に纏い、槍を持った屈強な騎士のお方が二名、仁王立ちされていた。
桜子とリャモロンは全年齢版が販売されているコーナーのみを巡っていき、
「表紙にジャンル:ファンタジーって書いてあったけど、人が空を飛んだり手から光線を出したり、魔法が使えたりするのはこの世界でもファンタジーなんだね」
「あたし、絵だけならここに並んでいるのより上手に描けるけど、ストーリーの構成力は到底敵わないわ」
試し読みもしてみる。
「あの、桜子お姉様にリャモロンお姉様、ワタシの描いた漫画、どうでしょうか?」
エルフ耳の、大人しそうな眼鏡をかけた女の子に問われ、
「絵は正直言っちゃうと、良くないけど絶対もっと上手くなれると思うし、漫画をちゃんと完成させられるだけでも凄いことだよ。私にはまだ真似出来ないよ。購入させていただきます」
「あたしもこれだけの水準の漫画を完成までさせられるなんて、到底出来ません。絵だけが取り柄なので。購入させて下さい」
桜子とリャモロンは大絶賛。
「お褒め下さり、ありがとうございます♪ ワタシからすると絵がとてもお上手なお姉様達の方がずっと雲の上の存在です。これからもさらに精進して画力も上げて、面白い漫画を創っていきます」
その子は満面の笑みを浮かべ、喜んでくれたのだった。
「あの子達の作品には学ばされるものがあったよ」
「あの子みたいにあたしや桜子さんよりも年下の子が描いている作品もいくつかあったし、あたしも漫画も上手く描けるようになりたいなぁって思いがさらに高まったわ。漫画やそれを描く漫画家さんって、この国ではまだそんなには地位が高くないのよ。特にご年配の方々にとっては。『子どもが漫画ばっかり読んで勉強しない』とかって理由で。漫画がこの国で文化として芽生えてからまだ三十年程度。原始時代から数千年の歴史がある、一枚絵で魅せる画家の方がこの国では漫画家より格が高いって世間では評されてて、この間いっしょに訪れたような歴史ある美術館では漫画は展示されてないけど、漫画や漫画家さんの地位も今後どんどん上がってくるだろうから」
「日本でも昔、昭和時代は漫画や漫画家さんが大人から悪いイメージを持たれてたみたいだけど、今では世界に誇れる文化になってるから、この国でも絶対そうなるよ」
同人誌即売会ブースを出て、会場内をさらに歩き進んでいると、
「「「「「「「「「「うをぉぉぉぉぉぉぉっ、ふぅっ! うをぉぉぉぉぉぉぉっ、ふぅっ! うをぉぉぉぉぉぉぉっ、ふぅっ! うをぉぉぉぉぉぉぉっ! ふぅっ!」」」」」」」」」」
こんな掛け声を上げながら時折ジャンプしつつ、熱いメッセージやイラストの描かれたタオルやうちわをブンブン激しく振り回したり、拳を上げてくるくる回転したりして、奇妙な踊りもしていた、主に十代後半から五十代くらいに見えるいろんな種族の男性達もいた。
その前方にはステージがあり、いろんな種族の若い女の子達が歌ったり踊ったり。
「この国にも坂道シリーズやと〇宣やラ〇ライブシリーズの声優ユニットみたいなアイドルグループがいるんだね。ファンの人達の反応も、日本と似たようなところもあるね。ペンライトはまだ発明されてないっぽいね。バックダンサーに、リスやウサギさん狸さんみたいな魔物さんが踊ってるんだ! 日本じゃ絶対見られない光景だよ」
「あたしもこの『ときめき☆ペガサス☆ガールズ』っていうアイドル特に好きなの。初期メンバーの頃から応援してるの」
桜子とリャモロンは微笑ましく眺める。
そんな時、
「あーっ、桜子さんだ。リャモロンさんもごいっしょだ。ダブルで嬉しい♪」
「ほんとだぁ! ヤバいヤバいヤバい、猫ちゃんのコスプレしてるぅ。かっわいい♪」
「新聞や雑誌で話題の人、生で初めて見れて嬉しい♪」
「大ファンです! 握手して下さい」
アイドルの女の子達はステージから降りて桜子とリャモロンの側に駆け寄って来て、握手を求めて来たり、なでられたり、ハグして来たりして来た。
「あっ、どっ、どうも」
「応援、ありがとうございます」
嬉し恥ずかし気分な桜子とリャモロン、
「桜子ちゃんに、リャモロンちゃん。もしよかったら、ステージに上がって来て下さい」
アイドルメンバーの一人からきらきらした目つきでお願いされ、
「あっ、はい」
「桜子さんが上がるなら、あたしも」
桜子とリャモロンは緊張気味にステージ上へ。
「「「「「「「おおおおおおおおっ!」」」」」」」
観客から喜びの声が。
「桜子ちゃんにリャモロンちゃん、今日限定のユニット組んで、何か歌を歌ってみませんか? ユニット名はさく☆リャモ。なんて」
登壇をお願いして来た子から爽やかな笑顔で勧められ、
「私、人前で歌を歌うのは、ちょっと無理です」
桜子はそう伝えて俯き加減に。
「あたしも、同じく。メンバーの皆さんの、イラストなら描けます」
「私も、それなら、出来ます」
リャモロンと桜子がそう伝えると、
「「「「「「「おおおおおおおおっ!」」」」」」」
観客から大歓声。
「それは嬉しいです。ぜひお願いします」
「わっ、分かりました」
「描かせていただきます。似ていなかったら申し訳ないです」
桜子とリャモロンはスケッチブックにメンバー全員の似顔絵イラストを描いていく。
「超楽しみだね♪」
「本物のワタシ達よりかわいく描いてくれそう」
メンバーの子達、期待でいっぱいなようだ。
しばらくのち、
「完成、しました」
桜子がそう伝えてから三〇秒ほどのち、
「あたしも、一応、出来ました」
リャモロンもそう伝え、いよいよお披露目。
「予想以上に良い出来です。桜子ちゃんはデフォルメされたかわいい感じ。リャモロンちゃんはリアルな描き方。違ったティストでどちらも魅力がありますね」
メンバーの一人がそう伝えて、観客席へも向けてかざすと、
「「「「「「「おおおおおおおおっ!」」」」」」」
「「「「「欲しいっ!」」」」」
観客からまたも大歓声。
「二人とも噂通り、いや噂以上の超天才画家だね」
「上手過ぎ上手過ぎ。アタシ絵が超得意だけどお二人には全然敵いません」
「お部屋に飾ってずっと眺めてたいなぁ」
メンバーの子達も大喜び。
「どういたし、まして」
「あたしも、あなた達のファンなので、喜んでもらえて、とても、嬉しかったです」
「桜子ちゃん、リャモロンちゃん、突然のお願いに応えてくれて、本当にありがとうございました」
メンバーの子達や観客に拍手で見送られ、桜子とリャモロンは足早にステージから降りていったのだった。
「あ~、すっごく緊張したよ」
「あたしもー。あたしや桜子さんより年下の子も多いグループだけど、ステージ上でしっかりとトークもこなせてるし、アイドルなれる子達って凄いなって思うわ」
ときめき☆ペガサス☆ガールズのステージのあとも女性アイドルグループが何組か登場し、ステージは大盛り上がり。
「近頃のアイドルさんは、数が増え過ぎて覚え切れんし、孫娘以外はみんな同じお顔に見えて区別が付かんのう」
と観客席から呟くお婆さんの姿も。
女性声優さん達だけで結成されたグループも一組出ていた。
「最近は声優さんもアイドル的な活動や歌手活動をしてライブにも出たり、演劇、オペラ、演奏、ダンスなんかもやるようになって来てて、その道一筋でやって来た人達の中には脅威に感じてる人もいるみたいよ。本職顔負けの技能を持つ声優さんもいるので」
「声優さんがマルチな才能持ってるのは、日本の声優さんもだよ。この世界、アニメとかゲームとかラジオとかまだ発明されてないのに日本の声優さんみたいなマルチな活動文化が発展してるのは素晴らしいよ」
「あの素敵な歌の数々、いつでもどこでも聞き返せるようになったらいいなって思うけど、日本にはそういう技術があったりするのかしら?」
「うん、音を記録する録音っていう技術がもうずいぶん昔からあったよ。アイドルの歌とかもCDや配信サイトでいつでも好きな時に聞けるの」
「そうなんだ。羨ましいわ。リーチェ王国でもそんな便利な技術が発明されるように、理工系分野で活躍されてる方達に頑張ってもらいたいな」
「きっとそう遠くない未来に実現されるよ。この国の人達の職人技術は凄いし」
あの場所から少し遠ざかった場所では、
「「「「「「「「「「「きゃあああああっ~ん♪」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「きゅん、きゅん、きゅん♪」」」」」」」」」」」
「「「「「バイアく~ん」」」」」
こんな掛け声を上げながら、熱いメッセージやイラストの描かれたハンカチやうちわを振り回したりして叫び回っていた、主に十代から五十代くらいに見えるいろんな種族の女性達もいた。
その前方にはステージがあり、いろんな種族の若いお兄さん達が歌ったり踊ったり。
「男性アイドルさん達も人気あるみたいだね。カシタ君も、ミャ〇ミャクもバックダンサーで踊ってる! 頑張って」
「男性アイドルはエコール・プリメールの高学年頃から熱狂的に嵌っちゃう女の子が増えてくるんだけど、あたしはそんなに嵌らなかったわ。女の子のアイドルの方が好きだな」
桜子とリャモロンは楽しそうに眺めながら、その場所を通り過ぎていった。
さらにしばらく歩き進んでいくと、
「あそこ、いっぱい人がいるねぇ。エンタメ系専門学校の紹介だって! 面白そう」
そんな巨大ブースを発見し、桜子はぴょこぴょこ近づこうとする。
「このコスプレイベントみたいに、リーチェ王国中からあたしや桜子さんと同い年くらいの子達が大勢集まってくる国民的エンタメイベント会場では、毎度のように芸術家や芸能人、いわゆるエンタメ系のプロを育成すると謳う、無試験でお金さえ払えば誰でも入学出来る専門学校の紹介ブースが設けられて大盛況になってるんだけど、実際にその分野で活躍してる人達からしたら、この手の学校ってあまりいいイメージ持たれてないのよね。あたしも持ってないし」
「……」
「中には教育する気なんてさらさらなく、儲かるからって理由でスクールを運営してる悪い大人もいるって噂も。戦後、エンタメ産業の発展と共にこの手の学校がロブレンティアのみならず、地方の各都市にも急増してるの。あたしや桜子さんはこの手の学校で教わる絵の技術なんてもう余裕で身についてるわ。エンタメ系の学部学科を持つ大学は難しい実技試験があるから受かりそうにない。勉強が苦手で普通の大学も無理そう。でも就職も嫌だからどこか学校に通って学生の身分でいたい。芸術家になりたいんだったら何か作品を作ってみる。声優や歌手、アイドルになりたいんだったら街の公園の広場とかで自分の歌声を披露してみる。演奏家なら演奏を、ダンサーや舞台俳優、マジシャン、コメディアンならそのパフォーマンスを。そういった行動一つも自分から起こさない。でも業界には憧れてる。学校で教わったら凄い技術が身についてその分野で大活躍出来ちゃうんじゃない? なんて甘い考えを持った、特に卒業後の進路を考えなきゃいけない六学年目のギムナジウム生達が格好のターゲットにされちゃうのよ。その道を志す気もなくただ有名人に会えるからって理由で入学してくる子も多いとか。特に声優とアイドル育成謳うとこは」
リャモロンは困惑顔で長々と語った。この状況を憂いているようだ。
「日本だと、アニメ雑誌や漫画雑誌によく広告が載ってて、深夜アニメのテレビCMでも見る専門学校みたいなものだね。うう……なんか凄く身につまされるものが」
美術系の高校入って、高校出たら代●ニかA●GかKA■■■■WAマンガアカデミーに通ったら面白い漫画を描けるようになれて漫画家デビュー出来ちゃう。なーんて思ってた時期もあったことを思い出し、桜子は苦笑い。今でも“漫画、まんが、マンガ”と名の付く学部学科のある大学に入ったら凄い技術が身につくかもって思っているのだった。
ブースの周辺には桜子とリャモロンと同い年か一、二学年上のいろんな種族の子達が大勢集まっていた。保護者同伴と思わしき子達もちらほら。
「おら、絵は苦手だし歌も演奏もダメだけど、小説ならこの学校で習えば簡単に書けそうだべ」
「イラスト学科にしよっかな? 漫画学科にしよっかな? 迷っちゃう」
「おれこの学校でダンスの基礎学んでダンサー目指すわ~」
「スーツアクターさんになって、いつかミャ〇ミャク様の中の人やってみたいなぁ」
「演劇専攻に進むって決めてたけど、吟遊詩人専攻も興味湧いて来ちゃったな」
「アイドルコース進もうと思ったけど、声優コースもありかな。おばさんになってもアイドル的な活動続けられるし、将来性も声優の方がありそう」
「うち、紹介見て漫画コースが一番魅力的かなって思ったけど、ペルラっちはどう思った?」
「ワタシも漫画コースが一番良さそうって思った。お母さんは絵画コースで油絵究めた方がいいよ。漫画描きはバカにされるよって言ってたけど、これからは漫画が高く評価される時代が来ると思うし」
「だよねぇ」
わいわいがやがや楽しそうに賑わう声が外まで聞こえてくる。
参加校は数十あるようで、
「ロブレンティア芸能アカデミー声優学科、来年の春ヌベラム校も開校しまーす。上ロブしなくても声優を目指せるようになりまーす」
「リーチェ王国の平和を維持するためには、人々に笑いを届けるコメディアンの存在が必要不可欠。『笑みを得る日々』から校名が付けられた、未来のコメディアンを育てるエミエルデイ総合芸能学院。九期生募集中です」
「学力偏差値や受験勉強は、ラーニングスキルが校名の由来のラル専門学校には必要ありません。理数系が苦手だけど建築学の勉強についていけるだろうか? 芸術家や芸能人になりたいけど自分には才能がないのではないか……ほとんどの入学希望者が同じような不安を抱えています。ラルは自信を持って答えます。『心配ない!』と。今、自分自身が選んだ道に『興味がある』『将来の目的がある』『学ぼうとする意欲がある』これらの気持ちや情熱があれば十分。それは学力偏差値に勝る素質であり、プロになるために一番必要なもの。ラルはその素質を才能に変え、即戦力へと育て、芸術家、芸能人としての成功を実現させる学校なのです」
「ふつうの大学生になって将来どうするの? みんな大学行くから流されてなんとなく行こうって思ってる子も多いよね? これからの時代、大卒なんて珍しく無くなるし、ただ大学行っただけじゃ何にも身につかないよ。ワタシ自身がそうだったから。大学に行かないと皆からバカにされる? 確かに世間では専門学校のことをどこの大学にも受からないバカや受験勉強から逃げた卑怯者が行くとこだとか見下されてるけど、大学っていっても入試は形だけでエコール・プリメールで習う内容すらちゃんと理解出来てなくても合格させてる実質無試験のFランって呼ばれてる大学もあるよ。専門学校よりはFランの方がまだマシって意見もあるけど、そういう大学へ学ぶ意欲もなく進む子達よりも、芸術家や芸能人になりたいってしっかりとした目標を持ってエンタメ系の専門学校に進む子達の方がずっと賢いし、社会的評価も高いんだよ。自分だけの特別なスキルを“得る”から名付けられたエル芸術芸能アカデミーなら、そこらの大学生以上に就職、デビューに役立つスキルが身につきますよ」
「ギムナジウム四学年以上なら中退しても入学出来ます。ギム卒資格も取れまーす」
「今年度は卒業生の業界デビュー率137%でした。百パーセントを超えてるのは一人で複数の芸能プロダクションなどに合格された方もいらっしゃるからです」
「漫画にするかイラストにするか小説にするか吟遊詩人にするか、声優もいいなぁ。なーんて迷った学生さん、違う専攻の授業も一つは無料で受講出来ますよ。留学生もたくさんいて国際感覚も養えます。我が校では学ぶ意欲のある学生さんをどこよりも熱く応援します!」
「入学金と授業料支払ったあとに大学合格などで入学辞退される場合もご安心を。全額返金制度もあります」
「ロブレンティア服飾専門学校はモルランドル通りにほど近く、学校帰りに気軽に立ち寄って学外でもファッション業界の最先端を学べる最高の立地環境が整ってるよ。コスプレ衣装専科も来年の春新設されます。地方から上ロブしてくる子達に安心の、ファッション業界に精通している寮母さん付き格安寄宿舎もご用意してますよ」
「夏休み前までに進路を決めちゃいたい! そう思った子達、入学金と授業料の早期支払いで割引特典がありますよ。卒業間際になって大学どこにも受からなぁい。就職しようと思ったけど所属ギルドも決まらなぁい。そうだ! 焦ってここに入学しようってなった子達よりもお得に安ぅく学べちゃうんです」
「親御さんも安心。うちの学校では芸術や芸能を学びつつ、市の職員や騎士など公務員を目指す勉強とも両立出来る対策講座も設けてます」
陽気な声で魅力を紹介するスタッフさん達の姿も。
「特に田舎育ちの子達って、こういった胡散臭い謳い文句にも何の疑いもなく信じて惹き付けられちゃう純粋な子が多いのよ。農村漁村山村だと、時間に追われず好きな時に好きなだけ魔物を狩って農作物や木の実や野草や海藻を採ったりして、都会の暮らしに比べたらお金もかからず学歴もいらずでのんびりスローライフで悠々自適な生活が送りやすい環境で、その分娯楽が少なくて若い子達だと退屈して都会の暮らしに憧れを抱きやすくて、いろいろな誘惑への耐性が無かったりするので」
「ネットやテレビもない世界だから、よりそうなっちゃうのかな?」
「あと、同年代の学力下位層が多く集まる、大学進学率の低いギムナジウムの子達がこの手の学校に多く進学しちゃう傾向があるの。あたしの通ってるギムナジウムは、幼稚園とコリルちゃん達が通ってるエコール・プリメール、大学も含めて学園全体が同年代の学力上位層の賢い子達が集まってくるエリート校なんだけど、それでもこの手の学校に進学したいっていう子が落ちこぼれて成績下位層になっちゃった子達を中心に、中上位層の子達の中にも受験勉強に嫌気がさしたとかで毎年いて、進路指導の先生達は頭を抱える問題になってるのよ」
「なんかそれも、身につまされるなぁ」
桜子は苦笑い。
「俺んちだったら、こういう学校行きたいなんて言ったら、ロブ大卒の親父に絶対ぶん殴られるわ~」
「ハハハッ、そりゃそうだ。オレんちも絶対勘当されるやろなぁ」
ブースの近くでは友人とこんな談笑をする男子ギムナジウム生の姿も見受けられた。
「あの、桜子さんに、リャロモンさんですよね! 生で出会えてめっちゃ嬉しいです♪ コスプレ姿もかっわいい♪ あの、アタシ、来年の春ギムナジウム卒業したら上ロブしてぇ、業界実績ナンバー1のロブレンティア芸術芸能総合学院のイラスト学科に入学してぇ、絵のことを本格的に学んでぇ、上手く描ける技術を身に付けてぇ、お二人みたいなぁ、絵の芸術家を目指します。アタシ、まだ絵をあまり描いたことはないんですがぁ、この学校で学んだら初心者からでもみんな絵がプロレベルに上手くなれるとスタッフさんも言ってたのでぇ、夢を実現出来るように頑張ります。よろしくお願いします」
ブースから出て来た、猫のような耳と尻尾の付いた可愛らしい女の子にきらきらした目つきで言われ、
「頑張って下さい。応援してます!」
桜子は爽やかな笑顔で握手にも応じ、
「頑張って、下さいね」
「ありがとうございます! きゃぁん、お話出来ちゃったぁ♪ では、またいつかどこかで」
いや、卒業後じゃなくて今すぐいろんな絵をどんどん描いて行動で示そうよ。絵の芸術家として活躍したいんだったら。絵の初心者でもプロみたいに上手くなれるってそりゃぁ言うよ。ビジネスだからね。
心の中でそう思うも、リャモロンはこの子を傷つけたくないと思ってしまい、握手にも応じてあげたのち温かく見送るのであった。
「なんかすごい罪悪感。この手の学校出て、その分野で大成功して活躍出来る子もいるにはいることは事実だし、ギムナジウムではお友達が全然出来なかった子が、同じ趣味の子達と出会えて楽しい学校生活が送れるようになったケースもあるみたいだから、この手の学校が必ずしも悪いとは言えないので、絶対通っちゃダメとは言い切れないことがもどかしいわ」
「私は、夢を応援してあげたいな」
深く共感出来る桜子は、朗らかな表情で言う。
ブースから少し離れた場所では、
「あかんったらあかん!」
「なんでよママ。教育内容によっては考えたる言うたやん」
「だからこの紹介見てこんな変な詐欺師が運営しとるような学校絶対行かせへん! って思いがより一層強まったんや。それより何よりギムナジウム卒業してからアイドル目指すやなんて遅過ぎや。大学受験に専念するので引退します言う子も多い世界やねんで。今日のライブに出てた子ぉ達見てみぃ。あんたより何歳も年下の子ぉらばっかりやったやろ」
「二十歳過ぎとる子ぉもおるわっ!」
「そういう子ぉも十二、三歳くらいかもっとはよからデビューして活動始めてるやろ。あんたどうしてもアイドルなりたい言うんやったらその辺の広場か空いとるステージで、人がいーっぱいおる前でなんか歌歌ってみぃ」
「それは学校で上手く歌う方法とか、観客を惹き付ける方法とか、可愛く魅せられるメイクの仕方とかポーズの取り方とか習ってからや。そういう講義もちゃんとあるねん。うちが通いたい専門には」
「学校で習ってとか、そういう考えの子がアイドルなんかなれるわけないわ」
「絶対なれるって!」
「なれへんわっ! アホなこと言うとらんと、バカロレアまでまだ半年以上あるんやから、夏休みはちゃんと受験勉強して、ちゃんとした大学入らなあかんっ!」
「ママの分からず屋」
進路のことについてもめて、獣耳と尻尾の付いた親子で口喧嘩を繰り広げている光景も。
「アイドルとして成功するのは無理だなってあの子の言動でよく分かったので、お母様のお気持ちはよく分かります」
リャロモンは母親の方に共感が持て苦笑いで眺め、
「あの子、なんか可哀そう。夢が叶うように応援してあげたいよ」
桜子は娘さんの方に共感が持て、憐憫の眼差しで眺めたのだった。
付近では他にも何組か、進路についてもめて親子喧嘩している光景が見受けられた。
「なあ、ビビカ。頼むから卒業後そんなえてぇもしれねぇ学校さ行がねえで、地元さ残って魔物ハンター継いでけろ」
「嫌よ、そんな時代遅れな危ないお仕事。アタシはロブレンティア一のファッションデザイナーになるんだから! それよりお母さん、ここでは標準語で話してよ。田舎者に見られて恥ずかしいじゃない」
「田舎者に見られて何が恥ずかしいんだべか。むしろ誇りだべ。ロブレンティアみてぇな大都会は、悪い人もいっぺぇいて危険だべ」
「恐ろしくて気味の悪い魔物がそこら中にうようよいる地元の村の方がよっぽど危険よ。昨日いろいろ観光してみて、ロブレンティアは治安が良くてとても素敵な街だってことよく分かったでしょ」
「いんや。旅行で二、三日だけ滞在すんのと実際住むのとでは大違いだ。それにロブレンティアはよぉ、ほんの十年くれえめぇまで激しい戦してたんだで。またいつ戦になるか分がんねぇべ。リーチェ王国が戦になったら真っ先に狙われるのが一番人がいっぺぇ住んでるロブレンティアなんだ。過去千数百年、幾度となく戦禍に見舞われたリーチェ王国の歴史が証明してっぺ」
「だから、ロブレンティアがまた戦地にならないように、アタシらの世代がエンタメ産業をさらに発展させて平和な状態を維持させる必要があるの。アタシらの世代は期待の世代なの。アタシが通いたい専門の先生も言ってたよ」
「そんなのはもっと才能のある子らに任せればええべ」
「アタシだって才能あるわ」
「んだどもビビカ、何か服デザインして作ったことあっぺか?」
「……ないけど、だから作り方を学びに行くの」
「そん程度の志じゃぜってぇーなれっこねぇべ。ファッションデゼーネーには」
「……なれるわ」
☆
「なあ母ちゃん、頼むからロブレンティア音楽スクール行かせてくれよ」
「絶対ダメばい。ギターやりたんならそのへーんな専門学校に支払う用のお金でプロが使うとかいう高級ギター買って、自分で練習すればよかね。その方がよっぽど安上がりたい」
「独学じゃ一流の技術は身に付かんばい」
「ギタリストとして成功してる人達はみんな独学ばい。そんな学校通ってた人なんて誰一人としておらせんばい」
☆
「吟遊詩人になりたいから専門で学びたい? アホかおみゃぁ、そんなんやりたきゃぁ大学の文学部か音楽学部にでも行けやぁ。うちの家系から大学以外の進学は一家の恥さらしだがや。専門学校行きたいんなら騎士養成学校しか認めんがや」
「父さん、そこをなんとか……」
☆
「父ちゃん、わし、エミエルデイに行ってお笑いやりたいんじゃ。ここじゃったら真面目に勉強して頑張れるけぇ」
「バカたれぇ、全く信用出来ん。ギムナジウムの勉強も真面目に出来ん奴がお笑いなんかで食えるかぁっ! お笑いやりたきゃ今は受験勉強に励んで大学のサークルにでも入ってやれぇ」
「わしは本気なんじゃ」
「本気なんじゃったら、今ここでなんか笑えるネタ出してみぃ」
「分かった。渾身のネタ見せちゃる。わし、アーケロン、長旅に疲れてもう歩けんろん」
「つまらん。不合格じゃ。幼稚園児でも思いつくレベルのあまりにも低いネタじゃ」
「つまらんからこそ学校で教わらないかんじゃろう」
「そのみょうちくりんな学校が面白いお笑いネタなんか教えてくれるわけないじゃろ。そういうんは高い教養を日々積み重ねて来た者だけが産み出せるんじゃ。最近のコメディアンはロブ大とか一流の大学出ちょる者も増えちょるじゃろが」
「……」
☆
「各地の方言が飛び交う進路についての親子喧嘩も、あの手の学校の紹介ブースが出される国民的エンタメイベントで毎度お馴染みの光景になってるの。外国人観光客は物珍しそうに眺めてるわ」
「日本語の方言と、よく似てる。親に反対されてる子達は、特に応援してあげたいよ」
「まあ、今のギムナジウムに通ってる子達の親世代が、自身がそうだった頃はあの手の学校なんて無かったし、そもそも芸術家や芸能人になるために専門の学校へ通うだなんて考えられなかったことだから、得体のしれない学校に思えるだろうし、我が子をそんな学校へ通わせたくないって親心はよく分かるの」
ともあれ、桜子とリャモロンはそのブース付近からは遠ざかっていった。
☆
「グルメのイベントの時は調理系、スポーツのイベントの時はスポーツ系の専門学校のブースがメインで出展されてるけど、芸術・芸能系よりは進学に寛容な親御さんが多いみたいよ。専門学校としての歴史も長くて親もそこを卒業されてるお方も多くて、芸術・芸能系に比べてその道のプロになれなかったとしても関連のお仕事に就きやすいことに加えて、性格も明るくてやる気のある子が多いみたいなので」
「その点は、日本の高校生の進路事情と同じかな。芸術・芸能系とは対照的に、閑散とした専門学校ブースもあるね。あっ、ソフィチアさん。こんにちは。コカトリスの着ぐるみコスプレ、かわいいですね」
「ああ、こんにちは桜子ちゃんに、リャモロンちゃん」
「ソフィチアさん、魔物ハンターさん育成の専門学校の先生もされてるんですね。偉いです」
「いや、桜子ちゃん。まだ計画段階なんだ。来年の春、開学しようとしてるんだけど、たまーに一人か二人冷やかしも含めて覗きに来てくれる程度で、こんな集客じゃ国や王様から設置許可が下りそうにないんだ。義務教育が終わるギムナジウム三学年目修了以降から無試験で誰でも入学出来るようにしたいんだけど」
「それは残念ですね」
「かなり不機嫌そうにされているところ、あたしも、冷やかしに来たみたいになってしまって申し訳ないです」
「いや、あなた達は絵の芸術家として活動されてるから、べつにいいんよ。さっき来てくれた赤いドラゴンのコスプレ衣装で眼鏡をかけた賢そうな太った男の子がね、『おばさん、これからの時代、大学院で畜産学や水産学、魔物生態学などの修士・博士課程を修めたエリート研究者達が魔物養殖業の技術をさらに発展させて、養殖出来る魔物の種類が今より大幅に増えて野生の魔物よりも高品質で美味しい養殖魔物を大量生産出来るようになるんっすよ。低学歴のバカがなりがちな魔物ハンターは今後ますます廃れちゃいますよ。騎士の下位互換だし、今更こんな学校作るのは無駄っすよ。ギム退でも入学出来るなんてFラン未満やないか。アーハッハッハッ』って魔物ハンターを見下すようなこと言って来てね、このクソガキ、てめぇの未来予想は当たっちまうだろうから良い意見だし、魔物ハンターに低学歴のバカが多いのは否定出来ない事実だけど、もっと失礼のない言い方ってもんがあるだろ。それにそのエリート研究者とやらがフィールドワークを安全に行えるのは誰のおかげだと思ってんだって、その子の首根っこ掴んでブース裏に引きずり込んで厳しく説教してやろうかと思ったんだけど、そこはうちも大人。ぐっと堪えたよ。戦後の学校教育を受けた今どきの子達って大切に育てられてる、悪く言えば甘やかされ過ぎてるから繊細で打たれ弱いってこともあるし、今の時代、そういう指導するとその子達の親御さんからあとでクレームが来かねないからね。うちら世代の幼少期からギムナジウム時代は、うちも含めて素行の悪い子達は親はもちろん、学校の先生や地域の大人達から棍棒や鞭、杖なんかで叩かれ殴られ厳しく躾けられて来たものだよ。そしてうちのおバカな娘、息子を叱って下さってありがとうございます。なんて親から感謝もされたもんだ」
「魔物ハンターさんのお仕事は、間近でその仕事ぶりを拝見させていただいた私からすると、とても立派だと思います」
「あたしもそう思います。リーチェ王国の食産業やエリート研究者達の身の安全を支える素晴らしい方達ですよ」
「そう言ってもらえて嬉しいよ。戦後からの学校教育方針の影響もあって、うちら世代の頃と比べて言動が幼くて子どもっぽいギムナジウム生がここ数年でかなり増えたなって感じてるよ。そういう子達がそのまま大学生・専門学校生、社会人となって……リーチェ王国の未来が心配だ。お二人は、十五歳という年齢のわりに顔つきこそ幼く見えるものの精神的にはしっかりとした大人だね。うちが十五歳の頃と比べても」
「いやいや私、まだまだ子どもっぽいですよ」
「あたしもですよ。あの、魔物ハンターの専門学校ブースは、芸術・芸能系エンタメのイベントとは相性がかなり悪いと思います。なりたい子の性格はこのイベントに来る子達と正反対でしょうから」
「やっぱそうだよねぇ。調教師の方の専門学校ブースはこのイベントでもわりと人気あるみたいなんだけどなぁ」
桜子とリャモロンは、ソフィチアさんが出展されていたブースからも離れ、休憩広場へ。
「リャモロンちゃんが描いて欲しいって言ってた日本ならではのもの、描いていくね。この国にももっと日本文化を広げたいし」
桜子はベンチに腰掛け、著作権の問題がない、日本に大昔から伝わるひょっとこやおかめ、天狗、一つ目小僧、能面、鬼、忍者、お侍さんなどのイラストをスケッチブックに描いていった。
「この今までにない感じのキャラクターの絵、この国でもきっと人気が出ると思うわ」
リャモロンは楽しそうに眺める。
「桜子ちゃんが描いたこの絵の数々、とても気に入ったよ。特に忍者」
「これが日本の伝統的なキャラクター達か。素晴らしい」
周りのお客さん達にも大絶賛された。
「きっと最初にお考えになられた人達も天国で喜ばれていると思います」
桜子は照れ笑い。
「このイラスト、運営スタッフさんの所に持っていったら、わりと早くリーチェ王国中に広めてくれると思うわ」
「それじゃ、そうしよっと」
リャモロンからのアドバイスで、桜子は付近にいた運営スタッフさんの所へ持っていった。
「この日本の伝統的なキャラクター達の絵、この国の人達にも絶対人気が出ますよ」
エルフ耳、獣尻尾なお姉さんはそうおっしゃってくれた。
桜子とリャモロンはそのあとは、打ち合わせた鐘の前でコリル達と合流した。
「桜子お姉さん、ミャ〇ミャク様の衣装作ったよ」
「凄いね。そっくりだよ」
「スタッフさんも手伝ってくれたからね」
「アタシはド〇えもん」
「うちは穴〇さん作ったよ。この日本のキャラクター、お顔が面白いね」
「こっちもかなりそっくりだよ。でも、商品化はしない方がいいよ」
「分かってまーす。日本には著作権法があるもんね」
コスプレ祭りを大いに楽しんだ皆は、コスプレ姿のままで家路についたのだった。
そして今夜もコリル宅で夕飯の団欒が始まる。
「マンモス肉をパイで包んでみました」
「これもまためちゃくちゃ美味しそうですね」
コスヤさんとコリルちゃんの手料理もめちゃくちゃ美味しいし、この街もめちゃくちゃ住みやすいしイベントもすごく楽しいし、もうしばらくは、この街にいてもいいかな。
なんて思い直す桜子であった。
後日、桜子が広めてしまった日本の漫画やアニメやゲームなどに登場する著作権的にヤバい人気キャラクター達の商用利用は禁止し、イラストやグッズ製作は個人で楽しむものに限るという旨の法律が、リーチェ王国の国会議員さん達によって新たに作られたのだった。




