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日本では陰キャオタクJKな私だけど異世界では充実したお絵描きハッピースローライフを送れています  作者: 明石竜


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11/11

第十一話 この国の王子様も、噂通りユニークな人で出会えて感激だよ

「桜子さん、今日はあたし達と同い年くらいの子達が多く集まる有名な通りに連れて行ってあげるね。リーチェ王国の流行の最先端の発信地で、エンタメを学ぶのにも最適な場所よ」

「それはすごく楽しみ♪ 原宿の竹下通りみたいな感じなのかな?」

次の休日、桜子はリャモロンといっしょにロブレンティアの中心街をぶらぶらすることにした。

「なんか、私がこの街に来た時に着てた制服姿の人も何人かいるね」

若者に人気のお店が多く集まるという、モルランドル通りと呼ばれる賑やかな通りを東口から入って歩き進んでいると、

「あっ! リャモロンちゃんだけじゃなくって、桜子ちゃんもいるじゃん」

「ぃやぁ~ん、マジじゃん。ロブレンティアの超有名芸術家少女コンビじゃん」

「きゃあああああっん、ヤバいヤバいヤバぁい」

「二人とも超かっわいい♪ サイン下さい」

「ご迷惑でなければ、ウチの似顔絵イラストよろ♪」

 いろんな種族のおしゃれなファッションな、食べ歩き用のドリンクやお菓子なんかも持っていた十代に見える若い女の子達が二人の周りに群がってくる。似顔絵も描かれてたり、お願いされたりしてしまった。

「私達、ここでも凄い人気あるみたいだね」

「あたしはもう慣れっこよ♪」

 リャモロンはその子達に耳や尻尾をなでなでしてもらい、ご満悦。

「やっほー桜子っち、今ねぇ、桜子っちのおかげでロブレンティアではセーラー服が超流行ってるんだよ」

「ウチら向けやもっと年下向けのファッション誌にも特集されてたよ。サクラコちゃんがコリルちゃんといっしょにセーラー服がどうとか会話しながら歩いてたのを見た人がイラスト付きで記事にまとめてくれたんだ。それでファッションデザイナーの方々が急ピッチで量産進めてくれてるの」

「デザインが超かわいくって、動きやすくて普段着にも農作業用にもどっちにも快適だから超最高♪ ママもお祖母ちゃんも欲しがってた」

 桜子がこの世界に来た時に着ていたのとほぼ同じデザインのセーラー服姿の女の子達も近寄って来て、そんな感想も述べてくる。

「あのデザインのセーラー服、そんなに喜ばれてるんだね」

 私は他の高校の制服と比べても古くさくてダサいなって思ってるけど、この世界じゃ斬新なデザインみたいだね。

「日本でもセーラー服流行ってんの?」

「いや、流行ってるってわけではなくて、学校の制服になってて、セーラー服は昔ながらのデザインなので、最近はブレザー型の制服を採用している学校の方が主流になっています」

「へぇ。そうなんだ。ブレザーの制服ってどんな感じなの?」

「えっと、一例ですが、ちょっと描いてみますね」

 桜子は、自分が一番通いたかった高校の制服イラストをスケッチブックに描写する。

 カラーペンで色付けもした。

「こっちも超かわいいじゃん♪」

「ウチはセーラー服の方がいいかな。まあ、人それぞれだよね」

「桜子っち、このイラスト貰っちゃってもいい?」

「はい、もちろん」

「サーンキュ。ファッションデザイナーさんのとこ持ってて、このデザインのも作ってもらおっと」

「私も楽しみにしています」

「あっ、さくらこちゃんだ。生で出会えてラッキー♪」

「本当だ。うちらさっきね、美容室で桜子ちゃんと同じヘアスタイルにして来たよ。桜子ちゃんカット、ファッション誌に大きく取り扱われてたから、これからきっとブームになるよ」

 また新たに現れた年の近い女の子達に声を掛けられる。二人揃っておかっぱ頭にして可愛らしいリボンを身に着けていた。

「日本ではよくあるヘアスタイルだから、その呼び方はちょっと恥ずかしいけど嬉しいな。あの、日本で流行ってたタピオカドリンクみたいな感じの黒い粒々が入ったドリンクが、けっこう人気みたいだね」

「この黒い粒々はね、マーボーの卵なんだ。マーボースイートティー、甘くて超美味しいよ。あそこのお店で売ってる」

「桜子っち飲んだことないんだね」

「はい。この通りに来たのも初めてですし」

「飲んだら絶対虜になっちゃうよ」

「そうなんだ、飲んでみたいな」

「ぜひ飲んでみて。そのお隣のお店の蝙蝠の干物入りチョコドーナッツやパンケーキやクレープなんかも最高だよ♪」

「ラムカオの目玉入りマカロンもおススメだよ。噛みごたえ最高♪」

 あのグロテスクなカエルさんの卵に、蝙蝠の干物に、ラムカオの目玉とか。日本の女子高生と同い年くらいの子達が平然と飲んで食べてるって、食文化が違い過ぎるよ。でもきっと美味しいんだろうな。

 桜子とリャモロン、この子達に別れを告げると、

「あたしはどっちのデザインも好きだな」

「私のいた世界ではセーラー服もブレザーも数え切れないほどの種類のデザインがあって、この街でも派生していろんな新しいデザインのが生み出されそうだね」

「きっとそうなるわ。ここはそういう場所だから」

マーボースイートティーのお店に向かっていく。

「けっこう並んでるねぇ」

 桜子が呟くと、

「さくらこさんと、リャモロンさんですよね。お先にどうぞ」

 一つ前に並んでいたお客さんからこう言われる。

「いえいえ、ちゃんと順番に並びますから」

「あたし、特別待遇されると、困ってしまいます」

 桜子とリャモロン、焦り気味にそう言うと、

「お二人とも、噂通り人柄もとても良いんですね」

声を掛けたお客さんや、

「有名人になっても驕らず謙虚だし、そりゃぁ人気出るはずだよ」

「この通り、有名人もけっこう来るんだけど、『ワタシ有名人なのよ』『俺、有名人なんっすけど』的な態度で大人気グルメ店に列無視してズカズカ入って行っちゃう人わりと多いよ。そんな風に有名人になると傲慢になっちゃう人も多いんだけど、お二人は違うね。将来超一流の絵描きさんになれるよ」

「立派なお嬢さん達ね」

周囲の人々から褒められ、

「あっ、ありがとうございます。あたし、そんな立派ではないです」

「私もです」

 照れてしまうのだった。

「サクラコちゃんにリャモロンちゃん、ファンです」

「ワタシ達お二人のグッズも持ってるよ」

 後ろに並んだ二人組の同い年くらいの女の子は、桜子とリャモロンを模ったミニ人形付きキーホルダーをかざしてくる。

「私とリャモロンちゃん、とってもかわいく出来てますね」

「ご購入下さって、ありがたいです」

「これからも芸術活動頑張って下さい」

「超応援してるよ♪」

「はっ、はい。頑張ります」

「あたしとリャモロンさんで、共に芸術活動に、励みます」

 ちやほやされても謙虚な桜子とリャモロンは、列に並んでいる間に握手に応じたり、要求されたイラストを描いてあげたりしたのだった。

三〇分ほど並んで順番が回って来て、マーボースイートティーをご購入。

そのお隣のお店で一番人気だという、蝙蝠干物クレープも購入して食べ歩き。

「日本では原宿の竹下通りで食べ歩きしながら散策することに憧れてる女子小中高生達っていっぱいいて、私は原宿から遠く離れた神戸に住んでることもあってそんな体験ないんだけど、それより遥かに貴重な青春の思い出が出来て、幸せだよ」

「モルランドル通りを食べ歩きしながら散策するのも、地方に住む十代の女の子達の憧れになってて、特にギムナジウム卒業前だと一人ではもちろん、お友達同士でもなかなか行ける場所じゃないから行ったことがあるっていうと羨ましがられるみたいよ。あんな出来事はあったけど、モルランドル通り巡りが気軽に楽しめる、ロブレンティアに生まれ育って良かったなって思ってるわ。ロブレンティアという街自体が地方に住む子達にとって娯楽がいっぱいの憧れの場所なの。ギムナジウムを卒業して、進学や就職なんかで上ロブしてくると、はじけちゃう子が多いのはよく分かるわ」

「日本でも首都の東京に憧れてる私と同い年くらいの子、いっぱいいるよ」

ロブレンティアの観光ガイドブックによると、この通りは休日ともなると地元のみならずリーチェ王国中、それどころか世界中からも多くの若者達や家族連れ、観光客が集まって来るという。

「時々グリフォンさんがお店の横に下りて来て、食材や荷物を運んでくる光景も私のいた世界じゃあり得ないから面白いよ。かき氷とかアイスも売られてるね。すみません、店員のお姉さん、この氷はどこから入手してるんですか?」

「高山の洞窟に、年中溶けない場所があるから、そこからグリフォンやドラゴンにここまで運んでもらって、この店の地下にある氷室で貯蔵してるの。桜子さんの出身地は、冬以外の氷って珍しいんですか?」

「いやぁ、私のいた世界には冷蔵庫っていうより便利なものがあるんですよ。電気で動く機械なんですけど、冷凍室に水を入れておくだけで年中いつでも氷が出来ます」

「へぇ。どんなものか想像出来ないけど、超便利なものがあるんだね」

 リスのような耳と尻尾の付いたお姉さんは興味深そうにしていた。

 桜子とリャモロンは店員さんおススメのフルーツアイスを購入。

「すっごく美味い♪ アイスの美味しさは日本より上だよ」

「あたしもこのお店のアイス、特に好き♪」

 ご満悦でさらに通りを歩き進んでいく。

「水着も売られてるね」

「これから夏に向かっていく時期だからね。夏といえば海水浴やプールよ」

「この世界にもその習慣があるんだね。スク水っぽいのやワンピース型やパレオも、大胆なビキニまで種類豊富だね。尻尾穴が開いてるのもあるのが斬新だよ」

「桜子さん、せっかくだし試着してみよっか」

「いいねぇ」

 というわけで、アパレルショップへ。

「ケットシー柄、凄くかわいいね」

「あたしもケットシー柄が一番好き。このデザインのは初めて見たわ。水着の型はワンピース型が一番好き。あたしと同い年くらいになると大胆な水着着る子も増えてくるけど」

「私もこのタイプが一番だな。露出高過ぎるのはちょっと。このイルカさん柄も素敵だね」

 形状は異なるが柄がお揃いのケットシー柄と、ラニュエントルイルカ柄のワンピース型パレオ付き水着を購入した桜子とリャモロン、引き続き通りを歩いていると、

するとほどなく、

「きゃあああああっ~」

「おう、すっげえ!」

 広場の方から人々の歓声の声が。

 広場で軽快なダンスを踊っている、ひょうきんな感じの男性がいた。

「王子様だ」

「王子様がいるぞ。この街に来たの、久し振りだね」

「やるねえ、王子」

 ざわつく観客。

「あのお方が王子様かぁ。凄いキレのある動きだね。私が通ってた学校のダンスの上手い子並みだよ」

 桜子は楽しそうに眺める。

「ラムラングル王子はダンスだけじゃなく、絵も歌もお笑い芸も曲芸も上手い多才なお方なのよ。人々を楽しませるのが大好きな、尊敬出来るお方なの」

 リャモロンは楽しげに伝える。

「コスヤさんが言ってた評判通りなんだね」

「ラムラングル王子もグッズがたくさん作られてるけど、あまりに人気あり過ぎてお店に並べられる前に買い求める人が殺到して店頭では全然見かけない、幻のものって言われてるのよ。あたしもクラスの子が持ってたのを見たことがあるくらい」

「発売してからしばらくの、Sw〇tch2みたいな状況なんだね」

 桜子はほっこりとした笑顔を浮かべる。

 そんな時、

「これはこれは。あなたが謎の国、日本からやって来たと噂の芸術家少女、桜子お嬢様ですね。はじめまして。お会い出来て光栄です。桜子お嬢様のこと、父から聞いておりますよ」

「あっ、どっ、どうも。はじめ、まして。桜子です」

 ラムラングル王子が近寄って来て声を掛けられ、緊張気味に反応した。

「先日は王宮を訪れて下さり、誠にありがとうございます」

「いえ、こちらこそ。招待して下さって、とっても嬉しかったです。招待なしでも自由に入れたみたいでしたが。あの、王宮を訪れた時、王族の方々にも何人かお会いしましたが、皆楽しい方達でしたね。厳格な感じでもなく、親しみやすく感じました」

「そう言ってもらえて、大変ありがたいです。リーチェ王国民の皆様は、今は平穏に暮らせておりますが、昔は戦争、自然災害とそれに伴う飢饉、疫病と暗い時代もありました。そんな時代でも、人々に楽しく笑って希望を持って過ごしてもらえるよう、王族の方々も巷の芸術家の方々に尊敬の念を抱き、様々な芸術活動を嗜むようになったわけです」

「とても素晴らしいことですね」

「お褒め下さり、かたじけないです。桜子お嬢様も、これからも芸術活動を楽しんで下さいね」

「はい、頑張ります」

 桜子は深々とお辞儀し、感謝の気持ちを込めて王子様を見送った。

「桜子さん、王子様に恋しちゃったかな?」

 リャモロンは桜子の頬っぺたをぷにっと押して、にやけ顔で問いかける。

「そういうのじゃなくて、人として尊敬出来るなって感じたよ。お父さんみたいな」

 桜子は微笑み顔で伝えた。

「そっか。まあ、年齢差二十いくつかあるもんね」

 リャモロンはにこやかに微笑む。

「あっ、王子様だ! お久し振りだね」

「きゃあああああっ~ん♪ 王子様ぁ」

「ラムラングル王子ぃーっ♪」

「王子様マジ王子様なんだけど。ヤバいヤバいヤバぁい」

「「「ラムちゃ~ん♪」」」

「次はいつこの街に来られるんですか?」

 ラムラングル王子は行き交う人々に声を掛けられると、手を振ったり、握手したり、質問に答えたりと快く応じてあげたのだった。

            ☆

 同じ頃、コリルはお友達のおウチで、大勢で日本語の文字勉強会を行っていた。

「日本語の文字、本当、難し過ぎる」

「わたしはひらがなカタカナはだいたい読めるようになったよ。でも漢字はまだまだ。同じ字なのにいろんな読み方があったり、二つ以上の漢字をひとまとめにして、その文字一つだけでは読まない特別な読み方になったりする語もあるとか、頭がこんがらがりそう。昨日桜子お姉ちゃんから聞いたんだけど、日本ではわたし達と同い年くらいで、こんな難しい漢字も習うんだって。何って読むかは忘れちゃったよ。地名の一部や画数の多い漢字なんだって」

 コリルはノートに記された、桜子に書いてもらった漢字をお友達に見せびらかす。

 栃、阜、縄、潟、媛、議、競。の七文字が記されていた。

「緻密で複雑過ぎで、芸術作品にも見えちゃうね。こんな難しい字の読み書きを自在にこなせるなんて、日本は凄い文明が発達してる国だってことが頷けるよ」

「日本の人天才過ぎ」

「桜子お姉様がおっしゃられていた、日本には指で触れるだけでお掃除もお洗濯もお料理も、お買い物も遠くの人とお話することも出来ちゃう、誰もが魔法使いになれる便利な道具があるってお話、作り話じゃなくて本当のお話なんだろうな」

「絶対本当だよ。うち、最初疑ってたけど日本語の文字のあまりの難しさに気付かされて思い直した」

「アタシいつか日本へ行って、この目で確かめたいな。そのためにはめげずに一生懸命日本語の文字を勉強しないと」

 和気あいあいと楽しく過ごす彼女達なのであった。

           ☆

桜子とリャモロンはお昼ご飯にギム女生や女子大生に大人気だという、サラマンダーホットドッグとコカトリスのたまごサンドを食べ歩きし、食べ終えたあとの包装紙はごみ箱に捨てて雑貨店や本屋さんなども巡っていく。

「素敵なデザインの建物が多いけど、一部のマナーの悪い子達のせいで不衛生な感じになっちゃってるのは勿体ないなぁ」

「まあ、人が多く集まってくる場所では、中にはそういう人も出て来ちゃうし、ごみをごみ箱に捨てる習慣がない国から訪れてくる人も多くいるのよ。ここだけじゃなく他の観光地とかでも騎士さん達が注意を促したりはしてるけど、言葉が通じず上手くいかない場合もあったり。そもそもリーチェ王国みたいに公衆衛生が整ってる国って、世界全体で見ればまだ少数なの。文化や習慣の異なる外国の人々とどう上手く付き合っていくかが、国際都市としての課題なのよね」

「そういった課題があるのは私のいた世界と共通だね。道端に捨てられた食べかけの食べ物、巨大なネズミさんが漁ってるよ。日本でも渋谷とかでポイ捨てされたゴミをネズミさんが漁りに来るって聞いたけど、ここのは日本のネズミさんより遥かに大きいし顔が凶悪だよ。噛まれたら大怪我しそうだよ」

 桜子が体長五〇センチ以上はあるそいつを興味深そうに少し離れた所から眺めていると、

 驚くべき出来事が。

「やったぁ。良い魔物発見♪」

「ちょっと、ワタシが先に見つけたのよ」

 なんと、十代半ばくらいに見えるおしゃれな服装の可愛らしい女の子二人がそいつをほぼ同時に掴み取ったのだ。

犬っぽい耳と尻尾の付いた子と、猫っぽい耳と尻尾の付いた子だった。

「アタシが先よ。晩御飯のシチューの具に使うつもりなんだけど」

 猫っぽい子が後ろ足を持ち、

「ワタシも一流シェフのパパに丸焼きにしてもらうつもりなのっ!」

 犬っぽい子が頭の方を持っていた。

 チュッ、チュッ、チュー。

 巨大ネズミは苦しそうに鳴き声を上げる。

 UFOキャッチャーのぬいぐるみ感覚で掴んでるよ。あれ食べるつもりなんだね。まあ、あんな必死になって獲り合ってるってことは凄く美味しいんだろうな。

 この世界での生活も長くなって来た桜子、もはや食文化の違いにはあまり驚かない。

「ヤるつもりなの?」

 猫っぽい子、

「うん、殴り合いで決めましょう」

 犬っぽい子。

 睨み合い、目には見えない火花を散らす二人。

「まあまあまあ、二人とも、ケンカはダメだよ。掴んだのはほぼ同時だったし、ここは公平に、平和に、じゃんけんで決めようよ」

「こういうくだらない小競り合いの繰り返しが、戦争の引き金になったりするのよ。だから絶対やめてね」

 桜子とリャモロンは仲裁に入る。

「あっ、桜子さんと、リャモロンさんだぁ~!」

 猫っぽい子も、

「ロブレンティアで超有名な芸術家のお嬢さん達じゃん、お揃いで出会えるなんて超最高♪」

 犬っぽい子も。

 二人とも尻尾をふりふりさせて嬉しがっていた。

「じゃんけんでいっか?」

 猫っぽい子と、

「うん、桜子さんがそう言ってるからそれで決めましょう。桜子さんが伝承してくれた新しい遊び、たまにやるけどけっこう便利よね」

 犬っぽい子。

 一見仲直りをしてくれたかのように思えた。

「この子が逃げ出さないように、絞めておくね」

 犬っぽい子は巨大ネズミの頭を慣れた手つきで捻り、首の骨をコキッと折って昇天させた。

 平然とやってるよ。この世界の女子高生世代の子達、サバイバル能力もかなり高そうだよ。

 桜子は苦笑い。

「「じゃんけんぽん」」

 犬っぽい耳と尻尾の付いた子はパー、猫っぽい耳と尻尾の付いた子はチョキを出して勝った。

「やったぁ♪」

 猫っぽい子は尻尾ふりふり。

「あ~ん、残念」 

 犬っぽい子は悔しそうな表情。

「あっ、ネズッちもう一匹いたよ」

 猫っぽい子が見つけて伝えると、

「ほんまや♪」

 犬っぽい子は、その巨大ネズミをすばやく捕獲。そして慣れた手つきで即絞めた。

「べつに奪い合うことなかったね」

 猫っぽい子、

「そうだね」

 犬っぽい子、てへっと笑い合って仲直り。

「これで一件落着だね」

「二人とも、仲良くね」

 桜子とリャモロンはそう忠告しておき、それぞれが描いたこの二人の似顔絵をプレゼントして、別れを告げた。

「あんなに必死に獲り合うなんて、あのネズミさん、けっこう美味しいってことだよね?」

「うん、そこまで頻繁に現れるものじゃないから、見つけたら獲り合いになることは珍しくないのよ」

         ☆

「あれが公衆浴場かぁ。お風呂上がりの女子高生や女子大生らしき子達が建物の前にいっぱいいるよ」

引き続き通りを歩いていた桜子、事前に観光ガイドブックで確認していた巨大な石造りの建造物を楽しそうに眺めていると、

「あっ、桜子ちゃんだ。リャモロンちゃんもごいっしょなんだね」

「絵の上手い芸術家少女コンビさんだよね。雑誌や新聞のかわいいイラストそっくり♪」

「生で会えた。超嬉しいーっ♪」

「何かイラスト描いて下さぁい」

 またしても一〇代後半くらいのいろんな種族の女の子達に囲まれて似顔絵を描かれたりお願いされたりしてしまう。みんなお風呂上がりのようだった。

「この国の若い子達って、みんなでお風呂に入るの本当に流行ってるんだね」

「めっちゃ流行ってるっていうか、普通だよね」

「学校帰りとか、遊びに行った帰りとか、スポーツした帰りとか、みんなでお風呂に入ってくつろぐのがこの国の若者だけじゃなく全国民の嗜みだよ。そして夜もまた入るの」

「リーチェ王国民は日本人以上のお風呂好き国民なんだね」

「お風呂上りにドリンクとかスイーツとかアイスとか食べ歩きするのはうちら世代の子達が多いかな。ご年配の方はお行儀が悪いって考えの人もいるみたいで。老害ウザいよね」

「日本の女子高生と似たような感じだね」

「桜子さん、せっかくだしいっしょに入りましょ」

「いいねぇ。この世界の公衆浴場、初体験だからどんな感じなのか楽しみ♪」

 桜子とリャモロンは上機嫌でこの子達に別れを告げて、このお風呂に入ったのだった。

「あの、周りに他のお客さんもいっぱいいるし、前みたいに耳や尻尾触らないでね。あたしも桜子さんのおっぱい触るのやめるから」

「分かった。公の場所だとまずいよね」

脱衣所ですっぽんぽんになって、レンタルしたハンドタオルを手に持って浴室へ。湯船の広さはコリル宅やリャモロン宅の数倍あった。

「エルフ耳だけじゃなく、背中に翼の生えた妖精さんみたいなタイプの人もいるんだね」

「翼も生えてる妖精族は、この国だと数千人に一人くらいの珍しいタイプよ。深い森の中の村だとわりと多く見かけるけどね。服着てたら分からないから桜子さんも今までにもすれ違ってるかも。ちなみに空は飛べないわよ」

「私のいた世界だとファンタジーなことがたくさん、こっちだとごく普通に現実に巡り合えてほんと最高だよ♪」

 浴室で見かけたそのお方に、

「あなた達は、リャモロンちゃんに、桜子さんね。はじめまして。ワタシ、お二人の描いた絵を一目見てすごく気に入っちゃったわ。これからも頑張ってね」

「あっ、はい、頑張ります♪」

「あたしも、桜子さんと共に、ロブレンティアの芸術文化をさらに発展させていきますので、えっと、頑張ります」

 優しく声をかけてもらい、桜子とリャモロンは照れくさがって今にものぼせそうになってしまうのだった。


 お風呂から上がったあとは施設内の売店で、一番人気だというアウズンブラのミルクを使ったカフェラテを購入し、長椅子に隣り合って座りゆったりくつろぐ。

「このカフェラテも、甘くていい香りだしすっごく美味しい♪ この施設、エステサロンも入ってるんだね」

「お風呂上りにすると最高に気持ちいいからね。あたしは何度か体験したことあるわ。このお店では三回あるわ」

「私も、初体験させてもらおっかな」

 そんな会話を弾ませていると、

「あらまぁ、桜子ちゃんにリャモロンちゃん、二人ともお久し振り」

 そのお店の出入口から一人の女性が現れた。

「お久し振りですディポラさん♪ 桜子さんともお知り合いだったんですね」

 リャモロンは嬉しそうにご挨拶し、尻尾を振り振り。

「ソフィチアさんと共に同行して下さった魔物ハンターのうさ耳のお姉さん、ディポラっていうお名前だったんだね。あの、ディポラさん、先日は、ふくらはぎを気持ち良くマッサージして下さり、誠にありがとうございました。おかけさまで、あのあとも筋肉痛にならずに済みました」

「どういたしまして。ワタシ、ハンターのお仕事の依頼が無い日はこのお店でエステティシャンとして勤めてるの。ソフィチアちゃんみたいに毎日のように依頼が来るほどの腕前じゃないからね。むしろこっちのお仕事の方がメインだな。お二人とも、十二歳以上から体験出来る全身エステはいかが? 今の時間帯ならワタシがやってあげられるよ」

「では、お願いします」

「あたしもせっかくなので、お願いします」

 桜子とリャモロンは店内のエステルームにいっしょに入ると、お風呂に入る時と同じようにすっぽんぽんになったのち、用意されたバスタオルを一枚巻いた。

「桜子さんからお先にどうぞ。あたしはディポラさんの全身エステ、一度体験してるので」

「じゃあ、お先にやらせてもらうね」

「では桜子ちゃん、仰向けになってリラックスしてね」

「はい」

 桜子はベッド上にタオルを巻いた状態で仰向けに寝ると、

「では、お顔からやっていくね」

 美容にいいというオイルをお顔に塗ってもらい、揉み揉みしてもらう。

「あ~、とっても気持ちいいです♪」

 両腕も同じようにしてもらった。

「次は上半身ね」

 ディポラさんは、桜子の体を覆っていたバスタオルを捲る。桜子のちょっぴり膨らんだ胸から足にかけてが露に。

「デリケートな部分は隠しておくね」

「お気遣い、ありがとうございます」

すぐに、おへその下から太ももの上の方にかけてハンドタオルで覆って見えないようにしてくれた。

「デリケートな部分のお毛々の処理も追加料金なしで出来るけど、どうする?」

「そこは、やってもらうのは恥ずかしいので遠慮しときます」

 桜子は照れくさそうにてへっと笑う。

「あたしも、同じく」

 リャモロンは苦笑い。

「うふふ。予想通りの反応でかわいい♪ もうすぐ夏だし水着を着る機会もあるだろうからおススメなんだけど、桜子ちゃんやリャモロンちゃんと同い年くらいの子は恥ずかしがって断る子が多いのよ」

 ディポラさんは楽しそうに微笑む。桜子は胸と太ももも同じようにオイルを塗ってもらい、揉み揉みしてもらった。

「んっ、ん♪ ん♪ とっても、気持ちいいです♪ ふくらはぎだけの時以上に」

「全身にやるとより快感を得られるからね。次はうつ伏せになってね」

「はい♪」

 恍惚の表情を浮かべる桜子、くるりと体の向きを変え、うつ伏せになるとうなじから背中ののち、お尻からふくらはぎにかけてもオイルを塗ってもらい揉み揉みしてもらった。

             ☆

「ディポラさんの全身エステ、本当、最高でした♪ ありがとうございます」

「どういたしまして。桜子ちゃんの喜ぶお顔が見られてワタシも幸せよ♪」

「あたしも桜子さんがとても気持ち良さそうにしているのを見て、日向ぼっこをしてくつろいでいる時のネコさんみたいに見えて和みました。イラストにも残しちゃった」

「リャモロンちゃんも、とても気持ち良くしてあげるね。仰向けに寝てリラックスしてね」

「楽しみです。お願いしまーす♪」

             ☆

「あっ、んんっ♪ 前にしていただいた時よりも気持ちいいです。ディポラさん、また腕を上げましたね」

「うふふ。褒めてくれてありがとう」

 リャモロンもディポラさんにデリケートな部分は隠してもらって、オイルを全身に塗ってもらい、ご満悦だ。

「んんっ、ひゃぁんっ♪ とろけちゃいそう」

尻尾も念入りにマッサージしてもらった。

「リャモロンちゃんも、日向ぼっこしてる時のネコさんみたいで可愛過ぎるよ」

 桜子も、気持ち良さそうにしているリャモロンの姿をイラストに残したのだった。

             ☆

「桜子ちゃんもリャモロンちゃんも、素のままでもきらきらしてるけど、ますますきらきらして見えるわ」

「そうでしょうか? 照れくさいですディポラさん」

「あたしも近いうちにまたご利用しますね。ディポラさんのお店の全身エステ、一回たったの二千ララシャ、学生さんにも優しいお値段でやって下さって、本当にありがたいです」

「お客さんがたくさん訪れて来るので、このお値段でもじゅうぶん儲かるからね。もっと値下げしてもいいくらいよ」

「いえいえ。今でも安過ぎると思います。かわいい柄のハンカチや、日焼け止めクリームやお顔用のオイルや香水までプレゼントして下さって、この安さでこのサービス精神は任〇堂以上かと」

「あたしも、倍以上高くてもいいと思ってます」

「ふふふ。そう言って貰えて嬉しいわ♪」


 ディポラさんから和むような笑顔で見送られ、公共浴場をあとにした桜子とリャモロンは、

「あのエステサロン、人気店なこともあって従業員さんみんな腕前がいいんだけど、ディポラさんは頭一つ抜けた腕前って評されてるの。二回続けてディポラさんからやってもらえて運が良かったわ」

「ちょうどいいタイミングだったんだね」

幸せ気分でモルランドル通り西口の方へ向かって歩き進んでいく。

そんな時、

「すみませーん、桜子様に、リャモロン様」

 背後から若い女性に声を掛けられた。

「あなたは、この間魔物ハントに同行して下さった新聞記者さん、お久し振りです」

「ペピュリさん、お久し振りですね♪ 一年ほど前、このお方が書いて下さった新聞記事のお方で、あたしは芸術家少女として有名人になれたの」

「そうだったんだ! 優秀な記者さんみたいだね」

「いえいえ、ワタシなんて」

「ひょっとして、私が有名になったきっかけのあの新聞記事も、ペピュリさんが書いてくれたとか?」

「いえ、あれは別のお方です。ワタシにはあんな魅力的な記事は書けませんよ。あの、お二人とも先ほどエステ体験されてましたね。ワタシもさっき利用していました。月一くらいであのエステサロン、利用してるんです」

「あたしよりも頻繁ですね」

「明日の新聞の記事にしたいのでご感想をいただけないでしょうか?」

「ディポラさんの全身エステは、私は初体験だったんですけど、すごく気持ち良くて、幸せな気分になれて、リャモロンちゃんも、こんな感じで幸せ気分になってました」

「桜子さんも、こんな風に眺めてるだけで和んじゃう感じになってましたよ」

 桜子とリャモロンは、あの時描いたイラストをペピュリさんに見せる。

「これはとても素晴らしいイラストですね。あの、複写したいので、少々お借りしてもよろしいでしょうか?」

 ペリュリさん、うつ伏せでくつろいでいる姿のイラストに魅了されたようだ。

「はい、どうぞ」

 桜子も、

「ペピュリさんも欲しくなったんですね。分かります」

 リャモロンも快く承諾。

「ありがとうございます。あそこで複写依頼をして来ます。すぐに出来ると思います」

 ペピュリさんは、すぐ近くにある複写屋さんへと持ち込んだ。

「複写屋さんっていうのもあるんだね」

「広告デザイナーさんはもちろん、ファッションデザイナーさんにもけっこう需要あるのよ。原画を複写して他の地域に送って、その地域のファッションデザイナーさん達に同じデザインの服を作ってもらって、モルランドル通りから生まれたデザインの服が他の地域でもより早く大量に流通するようにするのに便利だからね」

「なるほど」

 待つこと約十分。

「お待たせしました。お返ししまーす」

原画を返してもらい、ペリュリさんと別れた。


「今日は同じ年の子達とたくさん触れ合えて、王子様にも出会えて、グルメも楽しめて、妖精族のお方にも出会えて、エステまで体験出来て、この世界に来てから最高の一日だったよ♪」

「あたしも桜子さんとモルランドル通り巡りが出来て、とってもいい一日だったわ」

桜子とリャモロンは、朗らかな気分でそれぞれのおウチに帰っていく。

 そして夜ももう一度、お風呂に入ったのだった。


           ☆


……あのオイルも日焼け止めクリームも、香水も、魔物さんのエキスが入ってたんだね。この世界らしいというか。

夜寝る前、モルランドル通りの本屋さんで買った、今日出会った女の子達も愛読しているというファッション誌に載っていた、あのエステサロンの紹介記事で知らされ、苦笑いを浮かべるも、

まあ、お肌に良いのは事実だし、塗り心地も良いし、これからも愛用しよっと。

こんな風に思う桜子なのであった。プレゼントに貰った就寝前に塗るとより一層の美容効果が得られるというオイルをお顔に塗って、お布団に潜り込む。

森や洞窟に棲むゴブリンのような風貌の三級魔物など数種類の魔物エキスがミックスされているらしく、ディポラさんがプライベートで狩って来て解体し、内臓や骨をすり潰して抽出しているとのこと。

 ディポラさんお手製化粧品は、ラムラングル王子もご愛用されているそうだ。


            ☆


 後日、桜子が描いたあのブレザー制服がファッションデザイナーさん達の手によってほぼイラスト通りに作られ、店頭に並べられた。

「あの行きたかった高校の制服とほぼ同じデザインだし、着られて嬉しいな♪ 違う形だけど夢が叶ったよ」

 桜子はその日のうちに買いに行き、即着用したのだった。


 さらにはあの桜子とリャモロンがうつ伏せで気持ち良さそうにしているイラストを元にしたお人形さんやキーホルダーも、おもちゃ屋さんなどで販売されるようになったのだった。

「なんだかちょっと恥ずかしいなぁ。バスタオルは体に巻かれてる状態で作られてるけど」

「和み系お人形って評されてるみたいね。学校とか職場とかで使われるのは、ちょっと恥ずかしいからやめて欲しいな」

 桜子とリャモロン、恥ずかしいと思う気持ちがありながらも、嬉しく思うのであった。

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