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ぬこ様と魔王様と 〜もしも魔王が、猫を飼ったら〜  作者: ひろしたよだか


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【その8:ねっちゅうまおう】


 我は今。聖書を読んでいる。


 部屋の中では、先ほどまでぬこが遊び回っていたが、疲れて寝てしまった。


 この静かなひととき、ぬこの寝顔も半永久的にみていられるが、今はこれだ。


『ねこのお迎え本』


 聖女より、“にゃーる”なる猫用のお菓子や玩具と共に、『これも買っておいた方がいいですよ』と勧められた本である。ねこを初めて飼うのにちょうど良い内容であるらしい。


「……トイレは最初から問題なかったであるな」


 最初はトイレの躾が大切とあるが、ぬこは教えずともできていた。天才かもしれない。


 我の部屋に「猫砂」なるものはなかったが、代わりに灰があった。この灰は人間どもが持ち込んだ聖なる特性がついた武器の残骸だ。


 魔王城まで到達するほどのパーティーの武器だ。付与効果も高いため、通常の魔族では処分するのも一苦労である。なので我がまとめて預かり、魔力で灰にしているのだ。


 残った灰は聖灰であるので、雑に捨てると魔族には害となる。そのため処分するのにも気を遣う。適当な箱に溜めておき、ある程度貯まったら近くにある火山に投げ込んでいた。


 ぬこが用を足す場所に定めたのは、この灰の上であった。


 聖なる力の効果か、見た目以上に質量のある灰なので、舞い散る心配もない。ぬこの糞尿も自然と分解されて都合が良いので、そのままトイレにしている。


「爪とぎ……これは欲しい」


 なるほど、ねこというのは定期的に爪を研ぐ生き物であったか。どおりで闇の衣がボロボロになっているはずだ。


 この衣は世界に二つとない伝説級の防具の一つであるが、ぬこが爪とぎの対象とみなしたのであれば仕方なかろう。


 しかし、ちゃんとした爪とぎで、爪を研いでいる場面を見てみたい。


「ブラッシング用のくしも必要であるな」


 ねこはブラッシングが好きとある。それはつまり、ぬこが我が膝の上で、我にされるがままに撫でられるということであろう。素晴らしいの一言に尽きる。


 それ以外にも、ねこと付き合う上での注意点や、仕草による感情の読み取りかたなど、我の知りたいことがこの一冊に詰まっていた。


 これを書いた者を、魔王軍第一将に取り立ててやっても良い。


 仕草による感情の読み解きはこれからの愉悦だ。徐々にぬこの動きと見比べるのが楽しみで仕方がない。


「キャットタワー……これも、欲しい」


 人間界では、呆れるほどにねこ用の道具が溢れているらしい。我欲望が止まらぬ。


 しかし、あの転移用魔法陣を頻繁に使うのも考えものだ。


 最悪、勇者パーティーと鉢合わせる。別にそこで殲滅するのはなんの問題もないが、配下どもが何事かと騒ぐのは面倒であるな。


 ……仕方がない。あの手しかないか。


 まだすやすやと眠るぬこを一度愛でてから、我は窓から飛び出した。


◇◇◇ 


「うむ。できた」


 部屋の一角に、転移魔法陣が完成した。


 我が知る限り、人間が作った術式のなかでも、非常に高度な代物であった。が、この我の手にかかればこの通りよ。


 しかも一定の重量がなければ、発動しない工夫も凝らした。


 無論これは、誤ってぬこが使用してしまわないための保険である。ついでに、向こうから勝手に来られないようにもした。


 いずれは人間の街の方にも、専用のゲートを設置せぬとならぬな。


 ふむ。森の中の魔法陣は破壊しておこう。そうすればしばらくは、勇者どもに煩わされる時間も減ろうて。


「ぬこよ、出かけてくるが、念の為この魔法陣には乗らぬようにな」


 「くあ」と欠伸するぬこにそのように申し伝えると、我は再び窓から飛びだしたのである。


◇◇◇ 


 その日、私の教会に朝からやってきたのは、魔法管理局の長官さんだ。


「こんな朝早くから、どうされたのですか?」


「聖女ルラ様。申し訳ないのだが、すぐにでも一緒に来て欲しいのだ」


 要件は言わずとも、表情からは深刻さが漂っている。私はすぐに決断した。


「分かりました。参りましょう」


「ありがとうございます」


 小走りの長官についてゆけば、たどり着いたのは転移魔法の魔法陣。すでにたくさんの人々が魔法陣を囲んで難しい顔をしている。


「もしかして、到着地点の魔法陣が露見したのですか?」


 私の質問に長官はただ首を傾げる。


「それが、わからないのです。アクセス自体はまだ繋がっているようなのですが、転移先から拒絶されているような……。どこかで魔法が不具合を起こしているのかと」


「それは不可解ですね」


「我々で考えうる対処は試したのですが、どうにもならず。或いは聖女様の力であれば、と」


「なるほど」


 転移魔法の起動においては、聖魔法に寄与する部分も小さくない。そこで聖女である私が呼ばれたのか。


「では、私が起動してみましょう」


「申し訳ありません。お気をつけて。今、誰か護衛を……」


「いえ。起動させるだけなら大丈夫です。転移まではしませんから」


 そのように伝え、魔法陣の中心で聖なる力を注ぎ始める。


 確かにこれは、何か障壁のような変な気配がある。しかも結構強力だ。


 一瞬手を止めようかと迷ったけれど、あの魔法陣は人類の希望。容易く魔王の城まで行けるなら、討伐の可能性は飛躍的に上がるのだから。


 しかも私は一度、おめおめと逃げ帰った身。多少の危険を冒してでも、なんとかしてあげたい。


 衝撃を聖なる力で破れないかと、ただ、集中する。



 集中しすぎたのだろう。


 私は気づいていなかった。


 知らないうちに、転移魔法が発動していたことに。


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