【その7:まおうさまリターン】
「ぬこよ! 我が戻ったぞ!」
勢いよく部屋に飛び込めば、我の動きにに驚いたのか、ぬこは毛を逆立てて「フシャー!」と鳴く。
うむ。あの聖女、ルラの言葉通りやはり病は気のせいであったかもしれん。
「ぬこよ、まあそう怒るでない。良きものを買ってきたのである」
ルラに連れて行かれたのは小動物の飼育に特化した道具屋であった。そこで、お勧めされたものをいくつか買ってきたのだ。
まずはこれがよかろう。ルラの言葉を思い起こす。
『これは“にゃーる”です』
『にゃーる? なんであるのだ?』
『猫ちゃんのお菓子ですね。これを嫌いな猫ちゃんはいません』
『なんだと!? 魔術か何かが、これに?』
『……どうしてそうなるのですか? 猫ちゃんが好きな魚などをペーストにしたものです』
『では、ここにあるだけくれ』
『ダメです。あげすぎると太ってしまいます。それに猫ちゃんは塩分を分解できないので、健康を害しかねません』
『うちのぬこに毒を与えようとしたのか!?』
『私の説明、聞いてました!? あげすぎてはダメと言っているのです!』
『む。そうか』
『どんな猫ちゃんも好きとは言いましたが、好みもあるかもしれません。ここは、お試し5本入りを2つ買って、試してみてはいかがですか? 気に入ったらまた買いに来ればいいのです』
『……そうだな』
転移魔法陣はあるのだから、それでも問題ないか……。
「一日一本に止めよ、ということであったな」
我は慎重に“にゃーる”を開封する。万が一にも毒であってはならぬ。匂いを嗅ぐと、生臭さが鼻をついた。確かに魚が主成分であるのは偽りではないようだ。
「どれ」
僅かに指に取り、ペロリと舐めてみる。
うむ。非常に薄味だが食べられぬことはない。それに毒はなさそうだ。魔王に毒は効かぬが、毒があるかどうかは判別できる。
よし、ではぬこにあげてみるか。
いや、待てよ。万が一ということもある。試しにベリアルにも食わせて、反応を試してみるのも良い。
我がそのように迷っていると、驚くべきことにぬこが自ら近づいてくる。
「ぬこよ、まさか、これが食べたいのであるか?」
我がにゃーるを差し出せば、ぬこは鼻先をすんすんさせる。
それからすぐにペロリと舐めた。
そこからはあっという間である。信じられぬ速さでにゃーるを舐め取るぬこ。
「おお。それほどまでに美味いか。ぬこよ」
我のことなど完全無視でにゃーるに夢中だ。うむ。あの聖女、嘘はついていなかったようだな。殊勝な心がけである。今度我が城に来ても、あやつだけは見逃してやっても良い。
と、あっという間ににゃーるは後わずか。
「む。ぬこよ。もった食べたいか? 任せろ、まだまだ……」
そこまで言いかけたところで、聖女の言葉を思い出す。
『あげすぎると太ってしまいます。それに猫ちゃんは塩分を分解できないので、健康を害しかねません』
ぐぬぬ。なんと心の狭い聖女か。やはり次に我が城へ来たら真っ先に塵芥にすべきか?
我の深い悩みをよそに、食べ終えたぬこは、ぺろぺろと毛繕いを始める。
その愛らしさに、聖女のことなどどうでもよくなったのである。




