【その53:ぬこ様と魔王様と(4)】
「雷轟」
我の詠唱に応じて、天から万の雷がワーグノートに降り注ぐ。
この3日間色々試したが、此奴には雷が一番効果的なようだ。
喰らうたびにのたうち、それでもなお、こちらに噛みつかんとその首を振り回す。
我はそれを避けながら、5発目の雷轟。
ワーグノートの鱗が逆立ち弾け飛んだ。と、ようやく緩やかに動きを止め、首をもたげつつ、しかし未だ目だけは我かを睨み続ける。
「……まだ喰らい足りんか?」
我がもう一発準備を始めたところで、ワーグノートは初めて「ごおお!!!!」と吠えた。
そうしてついに、ゆっくりとその場に体を丸め始めた。
ワーグノートの佇む場所は、度重なる落雷の衝撃により地面が大きくえぐれ、この古の竜の身体がすっぽり収まるほどになっている。此奴の新たな寝床としてはちょうどよかろう。
完全に目を閉じ、活動を休止した様を確認した我は、ようやくやれやれと首を回す。
ほぼ休みなく、大穴が開くほどの出力の魔法を浴びせ続けたのだ。さすがの我も疲労を感じ申を得ない。これほどの魔力消費は記憶になかった。
空中から睨むようにワーグノートを見下ろしている我の元へ、遠巻きに状況見つめていた配下が近づいてくる。
「魔王様! 流石でございます! 古の魔獣を討ち果たすとは!」
興奮気味の配下、されど我は鼻白む。
「……残念ながら討伐したわけではない。流石は神話の時代から生きると言う怪物ぞ。あやつ、おそらく回復するために丸くなったに過ぎん」
全く呆れるばかり。一体何でできておるのだ。
「……では、回復したら再び活動を?」
恐怖に目を向く配下。だが、そうはなるまい。
「これほどのダメージを与えて、そう簡単に回復するとは思えぬ。また1000年の眠りについたのではないか? 欲をかいて留めを刺そうと此奴を起こせば、何が起こるか分からん。このまま眠らせておけ。……また、この地に新たな山ができるまでな」
我の予測を裏打ちするように、目を閉じたワーグノートから地鳴りのような寝息が聞こえた。
「……魔王の名において、ここは禁足地とする。見張を配備し、何者も近づけぬようにせよ。警告を聞かぬものは殺してもかまわん」
「はっ!」
「警備の人数などは任せる。ベリアルらと相談せよ。万が一、また動き出すようならば再び我が出よう」
「かしこまりました!」
一通り必要な指示を終えると、軽くため息を吐いた。この疲労、ぬこに癒してもらうとしよう。
「我は一旦戻って休むぞ。良いな」
「無論でございます! 此度の戦いは伝説として語り継がれるでしょう! 我ら一同、改めて魔王様への忠誠を!」
「そう言いうのは良い。それよりも速やかに手配を頼んだぞ」
敬意を表する部下たちを適当にあしらって、我はぬこの待つ私室へと全速力で飛ぶのであった。
◇◇◇
城に戻ると、我の私室の前にはベリアルと警備兵たちが集まっていた。何やら深刻そうに話し合っている。
「一体、なんだ?」
「魔王様! いつお戻りに!?」
「たった今である。それよりも、我の部屋には警備不要、近づくなと伝えておいたはずであるが?」
ルラが出入りするようになってからは、ことさらそのように伝えてあった。にも関わらずこの場に集まっているとは何事か。
代表して答えたのはベリアル。
「実は、場内警備の担当がたまたまお部屋の前を通った際に、何やら大きなものが倒れるような物音や、ドタバタとした気配を感じたと」
「大きなものが倒れた、だと?」
「はっ、それでもしかして、お部屋に盗人が忍び込んだのではと私に相談に来たのでございます。しかし、魔王様のお部屋には入らぬように申しつかっておりましたため、どうすべ的かと判断に迷っていた次第でございます」
すぐに思い当たるのはキャトウォークだ。まさか、作りかけのアレにぬこが飛び乗りでもしたのだろうか? そうして倒れた。であれば大変である。ぬこに怪我がないかすぐにでも確認しなくては。
「あいわかった。部屋のことは我にまかせよ」
「ですが、未だ暴漢が潜んでいるかも知れず……」
「ベリアルよ、今しがたワーグノートを押さえつけてきた我が、暴漢如きに遅れをとるとでも?」
「なんと!? ワーグノートを! それで、ワーグノートは!?」
「ひとまず脅威は去った。詳しくは後からやってくる者どもに聞け。我は少々疲れたのでな、休む。……ほれ、散らんか」
「は、ははあっ」
ベリアルが衛兵を連れてさってゆくのを確認してから、我は慌ただしく扉を開く。
「ぬこよ! 無事であるか!?」
みればやはり、キャットタワーが倒れておる。しかしぬこの気配がどこにもない。
「ぬこ? どこにいるのであるか? 我が帰ってきたのである」
部屋をキョロキョロと見渡せば、テーブルに見慣れぬ手紙が。
「む?」
我がそれを開けば、
―――貴様の大切な物は預かった。返して欲しくば、今すぐにエンドラ山まで来い―――
と書いてあったのである。




