【その50:ぬこ様と魔王様と(1)】
「―――というわけで、魔王様にご採決をいただきたく」
「む? うむ。構わぬ、それで進めよ」
今日も飽きずに軍議である。ベリアルからいつくかの判断を求められたが、正直言って、我にとってはどうでも良い内容ばかりであった。
我はそろそろ切り上げて、キャットウォークの続きを手がけたいのだ。
勇んで制作に取り掛かったものの、これが存外難しい。しかしルラに大口を叩いた手前もあるし、何とかしてぬこの満足するような代物を仕上げたい。
「最後に一つ、ご報告が」
議題など上の空の我に、軍団の一つを任せている重臣、ラステリアスが口を開いた。
「何である?」
「魔王様に従わぬ魔族達についてでございます。実はここのところ、やや気になる動きが……」
「ほお」
それは流石に看過できぬ。我に従わぬ者達とは、我と魔王の座を争い負けた者どもの残党。
多くは潔く負けを認めて傘下に入ったが、未だに『自分の方が魔王にふさわしい』と考えて、我を狙ってくる輩もいる。
我よりは弱いが、一応魔王の座に名乗りを上げる程度には腕に覚えがある。そやつらの悪巧みで一般魔族が被害を被るのは、魔王として放置できない。
諦めの悪い奴らはあの手この手を使ってくる。正々堂々、正面から立ち向かえばよいのにのう。ま、来たところで再び地面を舐めさせて終わりなのだが。
「達、ということは、今回は徒党を組んだのか」
面倒事を起こすつもりなら、我が先手を打って叩きのめす。
「いえ。それが……。監視を命じられていた対象魔族が、立て続けに行方不明になっているとの報告が」
「申し合わせた行動ということであるか?」
「それは何とも……。ですがあまりにタイミングが良すぎます。無関係ということはないかと」
「まあ、確かにな。しかし、どこに行ったのかの手がかりすら掴めぬのかの?」
「申し訳ございません。……ここまで見つからぬとなると、或いは誰かに殺されたのではないか。という可能性も視野に入れております」
「なるほど。たが、何のために?」
「魔王様に挑むための小手調べでは?」
「ふーむ。まだそのような実力者が野に潜んでいたのか? ……いや、なくはない話か」
玉座に興味を示さぬ者の中にも、我の脅威となりうる者もいるのは事実。
例えば古の魔獣などがそうだ。我よりも長く生きる動く災害。尤も、今代まで生き残っている魔獣は俗世とは隔絶して静かに暮らしておる。
我の知らぬ実力者か。本当に存在するかは不明だが、少々興味を惹かれる話ではあるな。
「……ともかく、引き続き調査を進めよ」
「畏まりましてございます」
「うむ。では他にはないな? よし、では本日の会議はここまでとする」
我がそのように締めようとしたその時、
「魔王様!」
慌てて玉座の間に飛び込んできた配下が。
「何だ。騒々しい」
「緊急でご報告申し上げます! 古竜。ワーグノートが目覚めました!! 俄に南へ移動中とのこと!」
その一言で議場は大騒ぎ。
「ワーグノート!? ありえん!? 千年は眠っていたはず!?」
「なぜいま突然……!」
「山ひとつ分の大きさの竜だ! 歩くだけですべてが破壊される!! 至急、避難指示を!」
動揺し、パニックになる配下たちに、我は少々ため息を吐いた。
確かに古の魔獣の一柱は脅威だ。しかし、まだ何が起きているかもはっきりしていないというのにこの動じ様。全くもって情けない。
我はすっと息を吸うと、
「おたおたと騒ぐでない!!」
と一喝。その場が即座に鎮まる。
「で、ですが……魔王様、ワーグノートが目覚めとすれば大変な事態でございますぞ!」
「ベリアル、落ち着けと言ったはずだ。まずは状況を確認する。ワーグノートのいる場所は?」
「北西、海岸沿いのアリステルト地方あたりです!」
「遠いな。だが、あのあたりは比較的何もない。しばらくは大きな被害は出ぬだろう。よし、すぐに出るぞ」
「……まさか、魔王様おん自ら!?」
「当然であろう。真にワーグノートが暴れているのであれば、我以外、誰が止められるといのだ?」
「さすがは魔王様でございます!」
「賞賛は不要である。飛行ができる者は我についてまいれ。現地を確認したら方針を知らせる。他の者どもは、即座に動ける体制を整えておくが良い!」
「「「「「はっ!!」」」」」
臣下が首を垂れる中で、我は急ぎ、城から飛び立ったのであった。




