【その4:くしゃみとヒール】
本日も2話更新です!
読み飛ばしにご注意ください
「ほお、新たな勇者は聖職者か。いわゆる聖女であるな」
今日も性懲りも無く我に挑む勇者一行の姿を見て、我は少々辟易していた。いくらなんでも、我が元まで到着する勇者が多すぎやしないだろうか?
我が配下たちは何をしているのだ?
各地にそれなりの戦力を配しているはずだが?
悩む我に向かい、聖女は詠唱を始める。
この魔法に近いものは以前見たことがある。これはいわゆる聖魔法、光魔法などとも呼ばれる類の代物。一般的に、魔族に最も効果的とされている。
無論、我にも全く影響がない訳ではない。相手が聖魔法の専門家である聖女ならばなおさら。一般魔族なら、直撃でもすれば跡形も残らぬだろうな。
「随分と余裕なようですが、これがあなたの最期です! 魔王!」
聖女の周囲が眩いばかりの光に包まれ、足元に魔法陣が浮かび上がる。直後、我の頭上にも同じ魔法陣が浮かび上がった。
「むう」
我が魔法陣に向かって手をかざせば、
「喰らいなさい! ホーリーライト・スターダスト!!」
聖女の叫びと共に、我の体を光が包み込んだ。
◇◇◇
手応えはあった。
私の最強魔法は間違いなく直撃した。
「やったのか!?」
駆け寄ろうとする仲間を、
「まだです! 確認するまで気を抜いてはいけません!」
と、手で制する。相手はあの魔王だ。まだかろうじて息があるかもしれない。
徐々に薄くなってゆく光、そして。
驚愕の光景が、そこにはあった。
◇◇◇
「ふむ。確かにこれはなかなか特筆すべき魔法であるな。この我が手に火傷をするとは」
基本的に我の肉体に効く魔法はほとんどない。攻撃魔法に限らず、だ。並の聖魔法ならせいぜい不快感を感じる程度であったので、多少なりともダメージを受けるのは珍しい。
「そんな、教会の秘術が!?」
驚愕の顔で我を見る聖女。どうやらこれ以上の切り札はないようだな。では、終わりにしよう。
「そこの女、我を傷つけたこと、誇って良いぞ。褒美に苦しまぬように殺してやろう」
我が指先に力を込め、圧縮した魔力を打ち出せば、聖女の仲間の戦士が身を挺して守る。
「我々が時間を稼ぎます! ルラ様は今のうちに退避を!」
「何を!? あなたたちを置いて逃げるなど!」
「あなたは人々の希望です! 失礼!」
いうなり戦士が首にかけていた何かを掴み、聖女の元へと投げつける。直後、体が消えゆく聖女。
あれは仕込み転移魔法か。最近多いな。面倒なものだ。
まあいい。何度来ても同じ。次に来た時に滅ぼすのみだ。
「魔王! せめて貴様に一矢報いてやる!」
もう聞き飽きたセリフを吐いた戦士たちに、我は無慈悲な魔力を呉れてやったのである。
◇◇◇
「ぬこ! お利口にしておったであるか!?」
我が部屋に戻れば、ぬこは一瞬こちらを見て、何事もなかったようにまるくなる。
ぬう。可愛い。
こんな時に写真機があれば……。ふぃるむなる代物が手に入らぬ以上、どうしようもない。
いっそ人類を滅ぼし、ふぃるむを手に入れれば……。いや、それでは先がないか。
我が頭を悩ませていると、ぬこがふいに起き上がった。そのしなやかな身体をゆっくりと伸ばし、くあ、とあくびをする。
ぬう。可愛い。
だがその直後である。
「クシュっ!」
「ぬこ!? 今のはなんであるか? まさかくしゃみか? 何かの病気!?」
慌てる我の前で、もう一度
「クシュっ」とくしゃみをするぬこ。
もはや間違いない。何かの病気である!
しかし我は回復魔法が使えぬ。必要がないためだ。ぐうう! 回復魔法を使える魔族を呼び寄せるか? しかしそんな魔族は少ない。回復魔法は聖属性であるゆえ、適正のあるものは珍しい。
なんということだ!?
ぬこのクシャミに絶望的な無力感を感じながら、我は天を仰いだ。




