【その35:ぬこウォッシュ(2)】
本年もよろしくお願い申し上げます。
全ての読者様にとって、素敵な一年になりますように!
「……流石に買いすぎましたかね?」
ぬこを洗うための道具を買い揃えてきた我らは、それらを抱えて我が部屋まで戻ってきていた。
「そうか? 様々な不測の事態を想定すれば、いずれも必要な物である」
「確かに、不測の事態に備えるのは良いことだと思いますよ? バスタオルを5枚も買ったのはまあいいとして、猫ちぐらはいらなくないですか? お風呂に関係ないでしょう?」
「何を言う。ぬこが嫌な思いをした後、ご褒美の新しい安息地を用意してやったのである。絶対必要である」
我の主張に軽くため息をついて、「まあいいです」と言うルラ。最近うすうす思っていたが、こやつ、我の扱いが軽くなっておる気がする。
「それじゃあ早速お湯を張りましょうか」
「うむ」
と言っても大した作業ではない。購入してきた小さなバスタブに、ルラの部屋で沸かしたお湯を満たすだけの作業だ。
とぽとぽとお湯を注いで、ルラが湯加減を確認する。
「うん。このくらいなら良いかもしれません。一応マオさんも確認してくれますか?」
「うむ」
手を入れてみれば、かなりぬるい。
「こんなにぬるくて良いのか? 風呂上がりにぬこが風邪をひかぬか?」
「出したらすぐに乾かすって説明しましたよね? それにあまり熱いと猫には良くないんですよ」
「そうか。しかし、お主、詳しいの」
「まあ、たまにですが、地域猫をお風呂に入れる時がありますから」
「そういえば疑問であったのだが、お主はなぜそこまで猫の面倒を見ておるのだ? 教会の方針か何かであるのか?」
猫を手厚く保護するのが教会の義務であるならば、今後多少は教会の人間には手心を加えてやっても良い。
「あー……。そう言うわけではないんですよね。私、他にやることがなかったというか……」
「む? 聖女のくせに暇であるのか?」
「否定はできないですね。私は偶々、聖なる力が人並み以上にあったので、聖女認定されたんです。なのでこう、別にエリートだったわけでも、後ろ盾があったわけでもなくて。……生臭い言い方をすれば、主流派の聖職者ではないというか……」
「ふむ。まあ、いかなる立場にあっても、権力争いは必ずある。我とて、魔王の座を狙うものは少なからずおるからの」
「そうなんですか? ともかく、私は魔王……マオさんと戦って生きて帰ってきた。これは結構な偉業なわけです。外部の反応を思えば、教会としては疎かにはできないけれど、余計な権力は与えたくない」
「そう言われたのであるか?」
「言われてはいませんが、流石にわかります。こう、空気感とか、断片的な情報で。で、手頃な落とし所が、聖女専用の教会を建てて、私にあてがったんですよね」
「ふむ。なるほど」
それが我と戦い、生き残った聖女に対する報酬として適切かはわからぬが、ルラがそれで良いのならば我が口を挟むようなことではない。
「でもこの聖女の教会は、他の教会のように特定の地域を請け負うような立場にはないんです。あくまで、聖女である私に祈りを捧げるためだけにあるというか。担当する信徒がいないので、私にはさしたる仕事がありません。で、どうしようかなと」
「それで猫か?」
「ちょうど私の教会の周囲には野良猫が多くて、でも、あんまり良い環境ではなかったんです。元々猫、好きでしたし。ただの野良猫から地域猫として親しまれる存在にしてあげれば、人にも猫にも良いことかなと思って、保護活動を始めたんですよ」
「ほお」
「そんなわけで、割と俗物的な理由なんです」
と頬を掻いたルラであるが、我にとっては人間よりも猫の方が何倍も価値があるので、その活動は評価できる。
「重要なのは理由ではなく行動である。その点でルラの行いは誰に恥いるものでもなかろう」
「そうですかね?」
「うむ。我が保証してやろう」
「魔王に保証されるのは聖職者としてはどうなんでしょうか……。さ、これで準備は整いました。ぬこさん抱いてあげてください」
促されてぬこをゆっくりと抱き上げる。ぬこは何が起きるかわかっておらぬ。もしも悲鳴など上げようものなら、即座に救い出して在らん限りのタオルで拭いてやろう。
そうして我は震える手を押さえながら、ゆっくりとぬこをバスタブに下ろしていったのである。




