【その32:はぐれぷりーすと(3)】
私が知りたい疑問。
魔族と人の争いが、誰かが演出したものであるのか否か。
それらを素直にオレックにぶつけた。
最初は何事かと疑いの表情であったオレックは、私の知りたいことを理解すると、みるみる嫌そうな表情に変わってゆく。
「私には話せることは何もない。……迷惑だ。帰ってくれ」
「ですが! オレックさんは“何か”を知ってしまったから、こうして教会から追われてしまったのではないのですか?」
「それを貴方に言う必要はない」
とりつく島もないオレックに、しばらく大人しく話を聞いていた魔王が口を挟む。
「我も少々興味のある話だが、それでも話せぬと言うのか」
「魔王様……確かに、私は、勇者パーティーとして魔族領に足を踏み入れた時に、さまざまな違和感を覚えました。故に勇者たちを説得して、適当なところで帰還したのです。……元々実力も足りていないような有様でしたので……」
「では、何を隠して!?」
詰め寄る私を冷めた目で見つめてから、魔王に対してオレックは首を振る。
「私が教会内で現状に対して疑念を呈し、調べていたのも事実です。しかし、魔王様であっても、話せるのはここまでなのです。どうか、どうかお許しください」
「……我がお主をここで煉獄の炎で焼いてもか?」
「もとより、一度は諦めた命。それがお望みであるのなら」
頑として譲らぬオレックに、魔王もやれやれと肩をすくめる。
「これでは本当に話さぬのであろう。どうするのだ? 力ずくにでも聞き出すのか? 我は手伝わぬが……」
私も痛めつけてまで真実を聞き出そうとは思わない。
「……今日は帰ります。ですが、真実を話すつもりになったら、その時は……」
「残念だが、そのような日は訪れない。諦めてくれ。それと魔王様……」
「なんだ?」
「……いえ、なんでもありません」
何を言いかけたのか、そのまま下を向いて黙るオレックを見て、私はいよいよ諦めた。これは本当に無理そうだ。仕方がない。別の方法を考えよう。
「マオさん、帰りましょう」
「良いのか。では、背に掴まれ」
「あ、その前に一つだけ」
「何であるか?」
「今度こそ、少し速度を緩めて飛んでください。でないと背中で吐きます」
「……吐かれるのは困る。我のマントは高いのだぞ?」
「なのでゆっくり飛んでください」
「……留意しよう」
私の意見が通り、口を尖らせる魔王そんな私たちの様子を見て、オレックがおかしな呻き声をあげた。
「どうされたのですか?」
「あ、貴方は、一体魔王様とどのような……」
「あー、えっと、ちょっとした知り合い? ですかね」
そう答えてから、自分でも何だそれは、と思った。魔王とちょっとした知り合いなどという人間はいない。オレックからしたらさぞ気味の悪い相手に見えたことだろう。
「知り合い? 魔王様と知り合い……?」
地面を見つめ、ぶつぶつと何事かつぶやくオレックに、
「あの、では行きますね。お夕飯までに戻りたいので……」
と私が口にした瞬間、その顔をガバリと上げた。
「ひゃっ!」
オレックの勢いに、思わずあとずさる私に、オレックは何か意を決したように口を隠すようにして、言葉を吐き出す。
「教会に……」
「……何でしょう?」
「教会には、悪意なき悪意を持つ者がいる。誰も信用するな」
悪意なき、悪意? どう言う意味だろうか?
「それは……」
私の言葉を遮って、再び口を開くオレック。
「魔王様、魔王様のお命を狙う者がおります。くれぐれもお気をつけを」
「我、いつも命を狙われておるので、今更である」
魔王の反応に、泣き笑いのような顔をしながら、オレックは私に向かって力なくつぶやく。
「私に言えるのはこれだけだ。もう、来ないでくれ」
早々に背をむけ去ってゆくオレックに小さくため息を吐いた私は。今度こそ魔王の背中にしがみついた。
◇◇◇
約束通り、行きよりはややゆっくりな速度で、魔王の部屋まで帰還した私たち。
色々あってへとへとである。
ぬこさんがチリリと鈴を鳴らしながらこちらに顔をあげるも、遊ぶ気分ではなかったのか、すぐに専用のふかふかの毛布に埋まる。
「そういえば、キャットタワー、普通に使ってくれているんですね」
「うむ。最初は警戒していたが、今ではお気に入りの場所である」
満足げな魔王。
「そうだ、今度来るとき、シャンプーを買いましょう。せっかくの毛並みが少しゴワゴワです」
「ぬ? それはぬこが喜ぶのか?」
「ブラシは好む子が多いですが、シャンプーは嫌がるかもしれません。猫、水が苦手な子が多いので」
「嫌がるならば、却下だ」
「でもツヤツヤの毛並みになりますし、ぬこさんの健康にもつながりますから」
「……何という意地の悪い提案をするのだ。だが、ぬこに嫌われたらどうするのだ?」
「ご機嫌取りのために、ぬこさんのお菓子を買っておきましょうか」
「ぐぬぬ……少し検討させよ」
悩みその場で固まる魔王。放っておいてそろそろ帰ろう。疲れたし。
「じゃあ、私は今日は帰りますので。ぬこさん、またね」
「なー」
ぬこさんの鳴き声に送られて、私は転移魔法陣に飛び乗ったのであった。




