【その3:かなしみシャッター】
本日短めのお話を2話更新です。
こちらは2話目となります
写真機が手に入った。
「ほほう。これが……。して、どうやって使うのであるか?」
「は。どうやらそこのボタンを押すと、何やら作動するようにございます」
利き腕を包帯でつったベリアルが、残った腕でボタンを指し示す。
「ここだな」
ボタンを押せば、カシャリと音がする。
「これで絵になると?」
「はあ、どうやらそのようにございますな」
「それで、その絵はどうやって確認するのだ?」
「……誠に申し訳ございません。そこは今、調査中にございます。なにぶん、人間界でもまだほとんど出回っていないアイテム。実物を奪い取るだけで、凄腕の魔術師との激戦にございました……。しかしご安心を! 今も手のものが情報を収集しておりますれば、早晩にも全てを明らかにできるかと」
「そうか。期待しておこう。……では我は神との対話に入る。いつものように邪魔はするな」
「もちろんにございます。……写真機も持って行かれるのですか?」
「ああ。我一人でこのアイテムの真価を確認しておきたい」
「左様でございましたか。差しで口でございました」
我は少しだけ足取り軽く、ぬこの部屋に急いだ。
◇◇◇
「ぬこよ!」
部屋に入ってぬこの居場所を探れば、そこには奇跡の瞬間が待っていた。
ぬこが我の用意した鍋の中で丸くなって寝ていたのである。
鍋は、ぬこが遊びそうなものを適当に用意した中の一つだ。
まるでぬこのために用意された寝床のように、完全にフィットする鍋とぬこ。なんと愛らしい光景であろうか?
はっ。
いかん。見惚れている場合ではない。今がまさに、写真機の出番であろう。
我は焦りで震える手で写真機を構える。おそらく、この覗き穴で絵にするべき対象を定めるのであろう。
焦るな、我。
慌ててぬこが起きてしまっては台無しである。
我は全身に魔力を纏い、体を硬質化することで震えを止める。
よし、ここだ。
カシャリ。
カシャリカシャリカシャリカシャリカシャリカシャリカシャリカシャリカシャリカシャリカシャリカシャリカシャリカシャリカシャリカシャリカシャリカシャリカシャリ。
はっ。今、我は一体何を?
無意識のうちに、ひたすらにボタンを押し続けていた。どうにか我に帰ることができたが、あるいはこのまま永遠にボタンを押し続けていたかもしれない。
写真機、何と恐ろしいアイテムか。
ふと、ベリアルの声が耳に届く。
おそらくは城内の何処かて会話しているのだろう。我は、聞こうと思うえば城内の声くらいは拾えることができる。
普段は煩わしいので逆に音を遮断しているが、写真機の件があったので、ベリアルの声には多少気を配っていたのだ。
『なるほど、それが映写機の使い方か』
ベリアルは確かにそう言っていた。
「ぬこよ、しばし出てくる」
まだぐっすり眠るぬこを残し、我は部屋を後にした。
◇◇◇
「ベリアルよ」
「おお、魔王様! ちょうど今し方……」
「分かっている。写真機の使い方だな?」
「左様にございます。しかしなぜそのことを……」
「それで、どう使うのだ?」
「は。写真機はそれだけでは絵にはなりませぬ。絵にするためには“ふぃるむ”なる用紙が必要だと」
「何? それはこの写真機に入っておるのか?」
「それは一度開けてみないことには……」
「開けるだと?」
「おい! 開けて差し上げるのだ!」
ベリアルに呼ばれ、配下が駆け寄ってくる。
「失礼します。魔王様。こちらの、この部分を押せば開くかと……」
簡単に開いた写真機の中には、何も入ってはいない。
「……つまりどういうことだ?」
「はい。これでは絵にはならぬということです」
「ボタンを押してもか?」
「ボタンを押しても、です」
「……少し席をはずす」
「魔王様、どちらへ?」
「追ってくるでないぞ!」
ぬこを起こさぬように、独り魔王城のはるか上空まで飛んできた我は、そこでただ、慟哭した。




