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ぬこ様と魔王様と 〜もしも魔王が、猫を飼ったら〜  作者: ひろしたよだか


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【その21:まおうソフトタッチ(6)】


 魔王の身体を包む白い光。全くと言っていいほど通じていない攻撃。


 間違いない。これは聖魔法の最高防御魔法、白装(びゃくそう)だ。


 白装ならば、そのへんの魔法や斬撃など無為に等しい。まして実力の伴わない人の攻撃では、ただ自分の攻撃の衝撃で、己の体力を削るだけ。


 やみくもに無意味な攻撃を行った結果が、地面に座り込んで荒い息をしている彼らというわけだ。


 でも、私の知っている白装とはひとつ根本的に違う部分がある。本来、白装は短時間限定の特別な魔法のはず。


 敵の大技を防ぐための、最後の切り札的な存在である。


 魔王のように常時纏うような使い方はできない。なぜなら、単純に力の消費が大きすぎるから。


 けれどこの状況を見る限り、魔王はずっと白装を纏ったまま、相手に攻撃させ続けたとしか思えない。信じられない魔力量だ。


 それに魔王なのに、どうして聖なる力を使うことができるのか。それとも、白装によく似た全く別の魔法なのだろうか?


「……どういうことか説明してくださいよ」


 私の言葉に対して、なんのことか分からないというふうに首を傾げる魔王。まあいい、その件は後回しだ。


 私は通りの向こうで、私たちから徐々に距離を取りつつあるジャバナンスに視線を定めた。


 逃がすものかと軽く睨めば、びくりと肩を振るわせたジャバナンス。


 私が真っ直ぐに近づくと、頬を引くつかせながら、それでもなんとか虚勢を張ろうとする。


「……聖女様、なんのご用ですかな? あなたには関係のない話だと思いますが、どうして私の正当な権利の邪魔を? それにあの男、なんなのですか? 貴方様の連れでしょう? 私たちの話し合いに顔を突っ込んできてこの有様、なんとかしていただきたい。必要であれば聖騎士団を呼んで連行させて貰うことも考えねばなりません」


 私相手に喋っているうちにだんだんと落ち着いてきたのか、ジャバナンスの口が饒舌に回り始める。その抗議を無視して、私は彼の持つ書類を指差した。


「何か?」


「今回の問題となっている、エリナさんの借金、いくらですか?」


「……聞いたところで個人では到底払える金額ではありませんが……?」


「私は幾らですかと質問しているのです」


 譲らぬ私に小さく息を吐いたジャバナンスは、一転、私に見せつけるように書類を開く。


「320万ミリングです。仮に貴方様の教会を担保にしても、到底足りはしない」


 ジャバナンスが高らかに宣言すると、元の所有者であったソーイットが非難の声を上げた。


「320万ミリング!? 馬鹿な! エリナに貸していたのは150万ミリングだったはず!」


 しかしジャバナンスは鼻で笑い、ソーイットを見下すような視線を向ける。


「正当な価値を洗い直しただけです。結果その金額は建物のみの価値と判じました。なので、土地に関しては我々があたらめて所有権を取得し、不足分を追加したのですよ。あなたの主張との差額は、その分の金額ですな」


「勝手に土地の権利を取得した? そんなふざけたな話があるものか! 完全に捏造ではないか!」


「五月蝿いですね。こちらには土地に関する正式な書面もあるのですから。貴方にとやかく言われる筋合いはありません」


 私はあまり土地の決まりごとには詳しくはないけれど、ジャバナンスが言っていることがメチャクチャなのは、私にも理解できる。


 このような無法が許されるのだろうか? それとも、それが許されるだけの理由が何かあるとか? やっぱり本当に、地区教長が何か絡んでいる?


 だとしたら由々しき事態だ。教会の権力をこんな横暴に使うなんて。


 でも、教会絡みならむしろ丁度いいかもしれない。これから使うのは、どうせ教会から引き出したお金だ。


 書類がある、権利があると勝ち誇るジャバナンスに、私はにっこり笑って、金貨の入った革袋を差し出す。


「320万ミリングですね。じゃあこれ。大金貨5枚と、中金貨で50枚が入っています。必要な分だけ数えてください。もちろん、誤魔化さないようにお願いします」


 突然のことに、差し出された皮袋と私を、なん度も見比べるジャバナンス。


「……女子が片手で持つには少し重いので、早く受け取ってもらえますか?」


「まさか、こんな金額をどうやって……」


「教会から出してもらいました」


「教会がなぜ!?」


「それこそ貴方には関係のない話でしょう? それよりも、早く数えてください。今お伝えしましたが、これば教会が出したお金になります。誤魔化したりしたら……分かりますね」


 私の脅しに少し顔色を悪くしたジャバナンスは一瞬迷ってから、


「おい! お前ら、金貨を数えろ! 間違えるなよ!」


 と、道端でへたっていた配下に命令。部下たちは地面にへばりつくようにして、金貨を数え終える。


「……確かに320万ミリングあります……」


「ではこの店の権利は私が預かります」


 私はまだ何か言いたそうなジャバナンスから、素早く書類をむしりとると、


「それじゃあこれで話はおしまいですね。さ、マオさん、エリナさん。あとはお店の中で」


 と促した。


 歩き出しながらちらりとジャバナンスを見れば、なにやら口をパクパクさせているも言葉にならない様子。


 天下の往来で、これだけ沢山の衆目を集めた出来事。ジャバナンスもこれ以上の無茶はできないだろう。まだ何かあれば、立場が悪くなるのはジャバナンスの方だ。


「む。なんだ。これで終いか」


 拍子抜けした声を上げる魔王。


 そうだった。魔王が白装を使えた理由もあとで問い詰めなくては。


 コサード地区教長のこともある。


 それに人と魔族の戦いについてや、行方不明になったオレックなる人物のことも。


 考えることが多すぎて、魔王の顔を見ながら無意識に大きなため息を吐くと、魔王が不本意そうな顔をした。



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