【その19:まおうソフトタッチ(4)】
先ほどの者共の再訪を、我が腰を据えて待つ気でいると、ルラがまた我の袖を引っ張った。
「マオさん、ちょっといいですか」
「む? なんであるか?」
「いいからちょっと来てください。エリナさん、少し二人で相談させていただきたいのですが……」
「は、はあ……でしたら2階へ。今日は従業員も帰しましたので、上なら誰も」
「ありがとうございます。ほら、マオさん!」
「むう。面倒であるな」
半ば引きずられるようにして、2階へやってきた我とルラ。ルラは口を尖らせながら我を問い詰めてくる。
「まさかとは思いますが、ジャバナンス達を殺すつもりではないでしょうね?」
「そうだが? 安心せよ。我の炎を持ってすれば、対象だけを消し炭にするのは容易い」
「容易い、ではありません。そんな事をしたら大騒ぎです!」
「ならば炭すら残さなければ良い。それで証拠は残らん」
「人の命をなんだと思っているのですか!」
「我を殺すために、数多の勇者を送り込んできた種族がそれを聞くのか?」
「……それは、まあ。そうなのですが……。ですが、仮に跡形も残さずに消し去ったとしても、今回の騒動は衆目の知るところです。真っ先に疑われるのはエリナさんとなります。最悪、聖騎士団に連行されてしまうかも」
「なるほど。ならばその聖騎士団も滅しよう」
「そういうことではありません! そんなことになったら王都は大混乱です。ぬこさんの玩具やおやつどころではありませんよ!?」
「そうであった。ぬこが快適に生活するために、エリナには我の部下として働いてもらわねばならぬ」
「エリナさんを勝手に部下にしないでください! それよりも、とにかく、誰も殺さぬ方法で解決しなければなりません」
「では何か、ルラに良い案でもあるのか?」
「私がコサード地区教長に掛け合ってみます。本当にコサード様が関係しているようであればお諫し、そうでなければコサード様の名前を騙ったとして、聖騎士団にジャバナンスを捕縛してもらうのです」
「遅い。話にならぬ。奴らはすぐにでも報復に来るぞ。そもそも、そのコサードなるものが一枚噛んであるのならば、のらりくらりと時間を稼ぎ、その間にこの店を潰す算段をするであろうな」
「ですが!」
「分かった、分かった。ぬこのためだ。仕方がない。ならば殺さぬ方向で話をつけよう」
「できるのですか?」
「つまりエリナが困っておるのは、あやつらに金を借りている状態になっているからなのでろう? ならば我が、この店をあやつらから買い取ってやれば良い」
「買い取るって……。この辺りは王都でも人通りの多い区域です。簡単に買える金額ではありませんよ? もしかして、マオさんはそれほど溜め込んでいるのですか? ……その、歴代勇者パーティーから巻き上げたお金を」
「それもそこそこあるが、それよりも、我の部屋には勇者達が残していった、付与付きの貴重な武器や防具が転がっておる。聖魔法を付与したものはほとんど灰にしたが。残っている物も高く売れるのではないか? ルラが仲介してそれらを売り払えば、すぐに大金になろうぞ」
「……すごく良い提案に聞こえますが、それはダメです」
「何がであるか?」
「勇者パーティーが装備していたのならば、有名なものも多いはず。万が一、該当の勇者を特定されるような品だった場合、出所を巡って大問題となります。特に高値のつく魔法付与の武器や防具ならばなおさ…………」
「むう。そんなことまで考えねばならぬのか。ならばやはり滅する方が楽ではないか? む? ルラよ、どうした?」
口を開いたまま固まったルラは、ゆっくりと拳を唇に当てながら、難しい顔で考え込み始める。
「どうしたのだ?」
「……聖灰……」
「は?」
「マオさん、今なんて言いました?」
「だから滅するほうが……」
「そこじゃないです。聖魔法を付与した武器を灰にした?」
「うむ。灰にして箱に収めておる」
「……今のその灰はお部屋に?」
「うむ。ぬこのトイレ用に使用しておる。エリナの店だと、猫砂というのか?」
「え? は? ……聖灰を猫砂代わりに?」
「あれはなかなか良い。ぬこの排泄物を浄化して消してくれるので非常に便利である」
「知りたくなかったです。聖灰のその能力」
「欲しいなら分けてやるが?」
「……とにかく、今回の件を解決する方法が見つかりました。マオさん、すぐにその灰、小瓶に詰めて持ってきてください!」
「あんなものを集めたところで……」
「いいから! 急いでください!」
こうして我は何が何やらわからぬままに、ルラに追い立てられたのである。




