【その16:まおうソフトタッチ(1)】
「あっ! また来た!」
魔王城から転移してすぐに、ルラが挑発的な言葉で出迎える。
「ぬう? また来たとはご挨拶であるな」
「それはそうですよ。確かに私はぬこさんの道具のため、という条件で、人間界への通行を許しましたが、こんなに頻繁にやってくるとは思っていません。……暇なんですか?」
「失礼な。我を誰だと思っているのだ。これでも我は忙しい」
「こんな頻繁にふらついていて、忙しいようには全く見えませんけど?」
「くく、我は優秀であるからな。素晴らしいであろう?」
「むしろ、無能であったほうが人々のためです」
「む。……いや、このような無駄なやり取りはどうでもいい。それよりもルラよ、ぬこの寝具を求めたあの店に行くぞ」
「エリナさんのお店ですね。今日は何が欲しいのですか?」
「欲しいものは無数にあるが、色々考えた結果、やはりまずはキャットタワーだな」
我は見たのだ。キャットタワーなる遊具の中間地点に、ぬこが収まるような袋がついていたのを。あの袋でぬこがくつろぐ様を見てみたい。
「ああ。確かにそれは見てみたいで……じゃなくて。本当に抜け目がない」
「無論。我は魔王であるからな」
「魔王関係ないですね」
「本当は私、今日は色々調べ物がしたかったのですけど……」
などと不満げなルラを引きずって、我はエリナの店に向かう。この店は広くて品揃えが良いので我の評価は高い。
「あ、いらっしゃいませ。ルラ様、それにマオさん。今日も仲良しですね!」
「誰が仲良しですか!」
慌てて否定するルラを横目に、我はまっすぐ2階のフロアへ。その片隅にキャットタワーがいくつか展示されておるのだ。
目当ての品はすぐに見つかった。これだ、これ。3段目の足場に袋があるやつ。
「くくく……待っておれよ、ぬこよ……。この袋、これをお見舞いしてやろうではないか。おい、店主、これを求めたいのがが……」
てっきり後ろに店主とルラがついて来ているとばかり思っていたが、振り向けば後ろには誰もいなかった。
代わりに1階から悲鳴と何かが破壊される音。
「む? なんの騒ぎだ」
我が階段を降りてゆけば、騒ぎはなおも大きくなる。
「おやめなさい! あなた方になんの権利があってこのようなことを!」
「お前こそ、なんの権利があって、俺たちの邪魔をするんだぁ?」
ニヤニヤと笑いながら、ルラに対峙する男。その背後で暴れている3人の輩ども。
ルラが両手を広げて、店主のエリナや従業員を守るように相手を遮っているが、その効果はあまりないように見える。
他の客は隅の方で怯えるばかりか。
「……ルラよ、なんの騒ぎであるか?」
「まおう……マオさんは手を出さないでください! どうやらこの方達は地上げ屋のようです」
「人聞きの悪いことを。俺たちは正当な債権を回収しにきただけですねぇ」
余裕を崩さぬ男に、エリナが叫ぶ。
「私はあなた達になんかお金を借りてません!」
「まあ、そうでしょうが。貴方がお金を借りた相手が、債権を売ったのですから。貴方の借金を回収するのは私の権利なのですよ」
「まさか、そんな……」
「ほら、ここに債券の書類がありますからねぇ」
言いながら何やら書類を見せつける男。
「そんなの偽造かもしれないではなりませんか! そもそも、突然このような横暴に出るのは許しません!」
「おお、恐ろしい聖女様だ。しかしこのジャバナンス、すぐにお金を返してくれれば、これ以上の暴挙に出る必要はありません」
そう言いながらエリナに視線を移せば、エリナは困惑。
「でも、もともと一括返済の必要はないって話に……」
「それは私が約束したわけじゃあないからねぇ」
「そんな!」
ふむ。大体の状況は理解した。ともかくこやつらは、金が回収したいのだな? ならば我が払ってやれば解決である。金が足りなければ、勇者が残したレアものの武器や防具を売れば良かろう。
「おい、お前……」
我が間に入ろうとすると、我と男の間に手下が割り込む。
「なんだぁ! てめーは!?」
こちらの話も聞こうとせずに、我の胸ぐらを掴もうとする愚か者。
「いや、ちょっと我の話を……」
言いながら軽く手を払ってやれば、
手下とジャバナンスは店の壁を突き抜け、通りまで吹き飛んでいった。




