【その14:おかいものリターン】
まさか、翌日にはやってくるとは……。
私が呆れる中、王都の街中を私と並んで歩いているのは魔王だ。
「む? 何か言ったか?」
「……何も。それよりくれぐれも揉め事は起こさないでくださいよ?」
「無論。ぬこのための道具が手に入ら無くなったら困るかなら」
そう。魔王の目的は猫グッズの購入。昨日、私が魔王の監視を宣言したところ、その代わりとして提案されたのがこれ。
『我がぬこの道具を買いに行くのを手伝え。それならば我もぬことのひとときを許してやろう』と。
私は別にぬこさんと過ごすために、魔王城へ赴いているわけではなけれど。
『それなら欲しいものがあれば、私が買ってきます』
『それはダメだ。実際に見て、我が選びたい』
まあ、言っていることは理解できる。それにすでに一度、魔王はぬこさんのために街に来ている。それらを鑑みて私はその条件を飲んだ。
もちろんおかしな動きを見せた時の対策も考えた。一度きりの簡易転移魔法を使って、魔王を王都から飛ばすつもり。
とはいえ、その準備はまだなのだけど……。まさか、昨日の今日で出かけるとは想定していなかったのだ。
「ところでマオさん、その……“お仕事”は良いのですか?」
「案ずるな。我も配下も、四日働けば休みと定めておる」
案じてはいないけれど、魔王城の勤務、意外にちゃんとしている。でもこれで魔王の動きがわかった。次に来るのは最短で五日後。
魔王の言うことが事実ならだけど。
「でも、勇者が来た時は……」
「その場合は仕事である。後で代休を取る」
「そうですか……」
有益なのかどうか判断付きかねる情報が手に入った。ともかく、今日はさっさと買い物を済ませて帰ってもらおう。
「それで、何を買うつもりなのですか?」
「うむ。欲しいのはぬこの寝床である。本で読んだ。人間界にはさまざまな種類の寝具があるらしいな」
「そうですね。でも、ぬこさんが気にいるとは限りませんよ? なんならまとめていくつか買って行きますか?」
「聖女よ、お前は何もわかっておらんな」
やれやれと首を振る魔王。若干腹立たしい。
「何をわかっていないと言うのですか?」
「こう言うのは、少しづつ試しながら揃えてゆくのが楽しいのだ。人間は違うのか?」
「ぐ」
魔王のくせに、庶民的な楽しみ方を……。
それにしても良くもまあ、街に自然と溶け込んでいるものだ。魔王の認識に影響を与える魔法、敵対した時はかなり厄介な気がする。
「マオさんの魔法、確か、完全に気配を消すこともできるんですよね? 特定の人物にだけ見えるなんてことも?」
「できなくはないが、それなりに手順が必要である。試してみるか? その場合周囲からは、お主がひたすら独り言を口にしているように見えるようになるが?」
「……結構です。あ、あのお店ですね」
「む? 前回の店とは違うのだな」
「寝具などの場所を取るものは、このお店の方が品揃えが良いのです」
「ほほう。では早速!」
急に小走りになる魔王。
「マオさん! ちょっと落ち着いて!」
私の静止も聞かず、店に飛び込む魔王。
すぐに店内の人々の視線が集まった。魔王は人としてはかなり身長が高い。自ずと目立つのだ。それに一応私も有名ではあるし。
私に気づいた店員さんが、笑顔で声をかけてくる。
「これはルラ様。いつもありがとうございます。本日は何をお探しですか?」
「私ではなく、こちらの知人が猫を飼い始めまして。今日は寝具が欲しいと」
「ああ、左様でございますか。寝具なら二階に取り揃えております。さ、こちらへ」
「うむ。良きものを勧めてくれ」
足取り軽くついて行った魔王。それからたっぷり2時間ほど、ああでもないこうでもないと言いながら、一つの寝具を選び出す。
全体的にもこもこして、白とピンクのカラーリングのお城のようなデザインだ。
「うむ。やはり我のぬこには城が似合うであろう」
魔王が持ち歩くには違和感があるほど、かなり可愛らしい代物である。まあ、本人が満足げなので口を挟むのはやめておく。
「ではこれをくれ」
「はい。ありがとうございます。では今、梱包いたしますのでお待ちください」
支払いの良さに満面の笑顔で準備を始める店員さん。
そのお金、おそらく勇者から魔王に渡ったお金な気がするので、私としては少々複雑な気持ちになる。
「それでは、またのお越しをお待ちしております」
店員さんに見送られ、魔王はホクホク顔で箱を抱え、足取りも軽い。
「……気に入ったものがあって良かったですね」
「うむ。我は満足である。それにしても人間の手先の器用さは目を見張るものがある」
「ええ。そうかもしれません」
「品物もそうだが、この箱もしっかりとした作りだ」
「変なところに感心するのですね」
「そうか?」
きょとんとする魔王を見ながら、本当に魔王なのだろうかと少し疑問に思いながら、私は魔王を城へ送り返したのである。
◇◇◇
「ぬこよ! 今日は素晴らしいものを買ってきたぞ!」
我がいそいそと寝具を出すと、ぬこはやや警戒しながら近づいてくる。
「これがお主の新たな寝床である。試してみるが良い」
我の言葉を聞きながら、寝具の匂いを隅々まで嗅ぎ、それから一歩だけ中に踏み入れて、すぐに足を戻す。
「どうであるか? ふかふかであるぞ。最高の寝心地に違いない」
我が薦めるも、ぬこは寝具から少し距離をとって、様子を伺う。
直後、その視点を一点に定めた。
「おお。ついに入ってみる気になったか?」
我が期待する中、ぬこは一直線に寝具……を素通りすると、寝具がおさまっていた箱へ。
こちらは警戒することもなくピョンと飛び込むと、そのまま箱の中で丸くなるのであった。




