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ぬこ様と魔王様と 〜もしも魔王が、猫を飼ったら〜  作者: ひろしたよだか


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【その11:ぎわくサーベイ】


「ルラ様が戻られた!」


「聖女様! 大丈夫ですか!?」


 そんな声とともに囲まれた私は、深く息を吐いてから立ち上がる。なんというか、わずかな時間で色々な事がありすぎて、気持ちの整理がつかない。


「聖女様? お怪我は?」


「あ、いえ。大丈夫です。少し力を使いすぎただけですから」


「左様ですか……そうだ、転移先はどのように!?」


「あー……えっと、そうですね。やはり魔王軍に見つかっておりました。……その、私は魔法陣に応急処置をして、どうにかこちらへ戻ってきましたが、あの魔法陣はもう使えないと考えた方が良いでしょう」


「なんと……。苦労してあの場所に設置したというのに……」


 落胆する術者たち。その気持ちもわかる。勇者パーティーに守られながらとはいえ、魔族領の最奥まで同行し、魔法陣を設置したのは彼らだ。


 それほどまでに危険を冒して得た切り札を封じられては、落胆も大きい。


 落ち込む術者たちに、魔法管理局の長官が慰めの言葉をかける。


「確かに残念だが、短い期間で多数の勇者パーティーを送り込めたという実績は残る。今度はより見つかりにくく、簡単に設置できる方法を考えようではないか」


 転移魔法は日進月歩だ。携帯できる使い切り版も完成したし。もう何年も経てば、持って歩けるような転移魔法陣も生み出されるかもしれない。


 いや、今は感慨に浸っている場合ではなかった。すぐにでも確認したいことがたくさんある。早々に立ち去ろうとする私の背中に、長官が声をかけてくる。


「ルラ様、どちらへ?」


「少々急ぎの用ができましたので、大司教様のところへ」


「左様ですか。いずれにせよ助かりました」


「あ、そうだ。念の為伝えておきますが、その魔法陣で間違っても試しに移転しようとは思わないでください。次は戻って来れる保証はありません」


 というか、魔王に見つかって殺されてしまう可能性が高い。


「了解しました。周知しておきます」


 長官が頷くのを確認した私は、急ぎ、大司教様のいる教会の総本山、大聖堂に向かった。



◇◇◇ 



「大司教様ですか? 多分今頃は朝のお祈りの時間かと思いますが……」


「すぐにでも面会したいのです。繋いでいただけますか?」


「そりゃあ、聖女様でしたらお繋ぎいたしますが……。お祈りの後ではまずいのですか?」


「なるべく早く話を伺いたいと」


「……分かりました。こちらでお待ちください」


 腑におちぬ顔の神官が去ってゆくのを見送りながら、私はどのように話を切り出すか考えていた。


『魔王に会ってこんな話を聞いた』


 などと言えば、一笑に付されて終わればマシな方、正気を疑われかねない。


 ちゃんと耳を傾けてもらえるように、もっともな理由を考えなければ。


 もしも、もしも魔王の言っていたことが事実なら、私たちは誰かに騙されていることになる。誰が、そして一体なんのために?



「お待たせしました。大司教様のご準備が整いました」


「ありがとうございます。では、すぐに」


 神官に誘われて部屋に入れば、豊かな白い髭を蓄えた大司教様が笑顔で出迎える。


「おはようございます。聖女ルラよ。何やら火急の用件と伺いましたが……」


「おはようございます。大司教ギュンター様。お祈りの時間を邪魔してしまい、誠に申し訳ございません」


「構いませんよ。今、お茶を用意させております。まずはそちらが届いてから話を伺いましょう」


「ありがとうございます。ですが、今すぐ質問させていただいてもよろしいですか?」


「おやおや、よほどの事なのですかね」


「はい。我々と、魔族の前線について。魔族は今、どのあたりに攻め込み、何を狙っているのですか?」


「……急な質問ですね。そのようなことを知って、なんとするのですか?」


 大司教様の視線がわずかに細くなる。


「魔王城近くに設置した転移魔法陣が露呈したのです。あの魔法陣はもう使用できません。新たな魔法陣を設置する必要があります。そのために、正確な情勢を知りたいと思いました」


「……ああ。そういうことですか。確かに転移魔法陣が使えなくなったのは痛手ですね。……もしかすると、貴方は、魔王討伐に失敗したことを後ろめたく思っておられるのですか?」


「はい。ですのでせめて、新しい魔法陣の設置をお手伝いできないかと」


 私の言葉を受けて、大司教様は首を振った。


「そこまで思い詰めさせてしまった点については、謝罪いたしましょう。貴方の聖魔法は非常に強力でしたから、魔王にぶつけてみようと思ったのは事実です。が、本来、貴方は戦いには向いておられないでしょう。聖魔法が魔王に通じなかった以上、貴方がそのような責任を負う必要なないのです、聖女よ」


「それでも、せめて、前線で戦う人々に祈りを捧げるためにも、私は状況を正しく知りたいのです」


 そう食い下がってみたけれど、大司教様の返事はつれないもの。


「聖女ルラの心の清らかさには感銘を受けますが、余計な心労を背負う必要はありません。さ、ご自身の教会へ戻り、お勤めを」


 言葉は柔らかいけれど、端々に明確な拒絶の色が滲んでいる。これ以上は何を問うても無駄だろう。


「……分かり、ました。失礼致します」


 そうして部屋を出て、足取り重く歩いていた私に背後から声をかけてきた人物が。ハーロットだ。


「ルラ様! 聞きましたよ! 前線に出たいなどと無茶を仰られたと!」


 耳が早いものだ。大司教様が伝え、私が勝手なことをしないように監視役を申し付けたのかもしれない。


「ハーロットには関係ないことです」


「いいえ。街の人々のためにも、聖女様がそのような真似をされては困ります! ……前線に興味を持つなど……オレックのように行方知れずになってしまったらと思うと、このハーロット、生きた心地が致しません!」


 私は足を止め、ハーロットを見た。


 前線に興味を持ち、行方不明になった神官?


「その、オレックというかたの話、詳しく聞かせていただけませんか?」


 私はできるだけ笑顔で、ハーロットにそのように伝えたのである。



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