【その1:シャイニングなんとか】
ゆるい感じの新作です。
まったりお楽しみいただければ嬉しいです〜
我は魔王である。現在、勇者との決戦中だ。
勇者の仲間たちはすでに倒れ、残すは勇者一人だけ。
「お前たちの旅路はここまでだ。そろそろ終わりにしてやろう」
手のひらに魔力を集中させる我。なおも剣を構え、気迫を込めながらこちらを睨む勇者。
「俺たちは負けはしない! これが本当に最後の切り札だ! 俺の命を全て燃やしお前にぶつける! くらえ! シャイニングエンブリオエクスペリメンスファイナル!!」
勇者の剣が眩い光を放ち、その生命力と引き換えに、回避不能な斬撃が我に襲いかかった!
激しい爆発。膝をつく勇者。
されど、
「くくく……これが最後の切り札か。名前負けよの」
「まさか、傷ひとつ付けられないなんて……。ごめん、みんな。僕はここまでだ……。けれど魔王! これだけは忘れるな! 僕が倒れても次の勇者が、お前を、必ずっ!」
その言葉を最後に事切れる勇者。
「その捨て台詞を吐いたのは、これで何十人目か」
今回の勇者の名も覚えることなく、我はつまらなそうに手のひらの魔力を霧散させた。
◇◇◇
いつもの圧勝劇に、魔王様第一の腹心を自負するベリアルは感嘆の声をあげる。
「さすがは魔王様。相変わらず圧倒的な強さにございます!」
今回のパーティーは、魔王軍でも手を焼く強さだった。にもかかわらず、魔王様は苦戦すらせず鮮やかな撃退をなされた。
「ベリアルよ。追従は不要だ。すぐに勇者パーティーの骸を片付けよ」
「はっ。直ちに。しかし、また新たな勇者が魔王様の元へと辿り着くとは……。人間どもも徐々に狡猾になってきておりますな」
「ふん。貴様らも遅れを取らぬように鍛錬を怠るでないわ」
「はっ! ごもっともにございます! 恐縮の至り!」
「まあ良い。あとは任せた」
「ははっ。魔王様はどちらへ?」
「神との対話の時間だ。邪魔をすれば……わかっているな?」
「もちろんにございます。ごゆるりとお過ごしくださいませ」
魔王が立ち去ると、ベリアルの部下がおずおずと口を開いた。
「魔王様のおっしゃる、神とは?」
「貴様は新人衛兵だな? ……私にもわからぬが、無敵の魔王様が信奉する邪神様ぞ。さぞ、恐るべき存在であろう。そうだ、魔王様のお部屋の前を警備しておけ。二名体制で誰も入らぬようにお守りするのだ。たとえ、魔王軍の幹部であっても通すことはまかりならん。すぐに行け!」
「は、はい!」
尤も、魔王様と邪神の対話を邪魔するのが禁忌であることは周知の事実。このひとときを中断する者は、己の死を覚悟する必要があった。
◇◇◇
「ぬこ! 待たせたのである! ひとりで寂しかったであるか?」
我の前には一匹の小動物。
長毛で灰色の美しい毛並み。名前はぬこ。名付け親はこの我、魔王。
我が魔王城の近くを彷徨いていたのを我が偶然発見し、連れ帰ったのである。この辺りでは見ない獣だ。なんとも愛らしく、そして美しい。
見ているだけでなんとなく癒される。
日々、飽きもせずにやってくる勇者との戦いや、魔族の王たる面倒な決済に雑務。そんな生活にうんざりしていた我に舞い降りた、まさに、天使。いや、神。それがぬこなのだ。
「にゃあ」
「そうかそうか」
我が顔を綻ばし、撫でようと手を伸ばすも、ぬこはするりとその手を抜けてゆく。
「つれないではないか」
だが、それがいい。ぬこが我に撫でることを許す日など、十日に一日もありはしない。
しかし今日は勇者と戦い、我は頑張った。
ならば、少しくらい無理を通しても良いのではなかろうか?
何より我は魔王である。ぬことて、本当は我に撫でられたいはずだ。
「ぬこよ。今日は我の腕の中で眠るが良い」
再び手を伸ばした我に、ぬこは「ふー」と低い声をあげる。
何、今日はその程度では怯まぬよ。
構わずぬこに触れようとしたその時。
「っしゃあっ!」
ぬこの爪が我の腕を切り裂く!
「ぐあああああああ!」
完全に防御魔法を解いていた我は、思わず大声を上げたのである。
◇◇◇
「ぐあああああああ!」
突然の魔王の叫び声に、扉の番をしていた衛兵は顔を見合わせる。
「今のは一体?」
「魔王様の身に何か?」
二人は扉を見つめる。そうして一人が喉を鳴らしてから扉を指差した。
「あ、開けるか?」
しかしもう一方がすぐに止める。
「駄目だ! 知らんのか? 許可なく扉を開けたやつの末路を。煉獄の炎に焼かれたまま、今も城の中庭で燃え続けているのだぞ!」
「しかし、そうは言っても……」
迷う兵士の前で、扉が動く。出てきたのは魔王その人。
「魔王様!? 今のお声は一体!?」
「ん? ああ。なんでもない。気にするな。それより、ここの警護などいらんぞ。ほかに行け」
「ですが……。あ! その腕はどうされたのですか!?」
数多の勇者と対峙してなお、傷つくことがほとんどない魔王の腕から、わずかに血が滴っている。
「なんでもないと言っておる」
「……まさか、本日の勇者の、シャイ……シャイニング? ……シャイニングなんとかによる傷でございますか!?」
「ん? ああ。まあそんなところだ。その……シャイニング? なんとかの」
「なんと!? 魔王様に傷をつけるほどの技とは……恐るべし、シャイニングなんとか」
この日以降、魔王軍の中で「シャイニングなんとか」は全魔族が警戒すべき必殺技として、広く認知されることになった。




