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5.デート

 白石さんとの喧嘩も無事にひと段落させることが出来てからしばらく、俺達の学校は例年通り、四月末からGWに突入した。

 去年までのGWは、友人との交遊関係が明るくなかった俺にとっては、家の手伝いをさせられる嫌な時間だったが、今年は事情が違う。


「これでしばらく憎き特別指導ともおさらばだーっ!」


 白石さんと両者の気持ちをぶつけあった以降、俺は結局、ほぼ毎日オレンジ色の違反切符を白石さんに発行され続けた。

 そして俺は……白石さんにハグされたり。ブレザーをカツアゲされ匂いを嗅がれたり。一緒に勉強をしたり……この世の地獄と呼んで差支えがないような、恐怖の特別指導の数々を受けさせられ続けてきたのだ。


 いやはや本当、開放感が半端ない。

 どれくらい開放感が半端ないかと言えば、逆立ちして廊下を移動して、オレンジ色の違反切符をまた発行されそうなくらい半端ない。


 ……まあ、冗談はともかく、白石さんと学校でイチャイチャ出来ないことは少し寂しいものの、学校の生徒からしばらく蔑みの目を向けられないことは有難かった。

 喧嘩以降、白石さんはなるべく人目につかないように俺にオレンジ色の違反切符を発行するように心がけていた面もあるが、彼女の感情が高ぶったり、不可抗力だったりで、俺がまだ継続してオレンジ色の違反切符を受け取っていることは学校の生徒にはバレているようだった。


『おはようございます、槇原君』


 そんな感じで早朝から一人で物憂げに耽っていた俺に、いつも通り白石さんからのモーニングコールがかかってきた。

 身だしなみチェックもないから、このモーニングコールもしばらくはないと思っていたが、どうやらこれは続行らしい。


「おはよう。今日も早いね」

『槇原君こそ。GWなのに健康的な生活で偉いです』

「そうだろうそうだろう。僕は偉いんだ。あははっ!」


 昨夜、連休の浮かれで夜更かししたことは話せそうもないな。


『それで、槇原君。槇原君は、このGW中に予定ってあるんですか?』

「家の手伝いが少しあるけど、それ以外の時間なら大丈夫だよ」


 学校で浮いている俺に、連休中に遊ぶ友達がいるはずもなかった。


『本当ですか? 実はあたしも、GW前半は予定がなくて』

「そうなの? それじゃあ……もしよかったら、今日にでもデートしない? 白石さん」

『はい。是非!』


 ……白石さんの声が少し明るくなった気がする。

 もしかして、今日のモーニングコールは、デートに誘うための口実だったのかもしれない。


「集合場所は駅前でいいかな?」

『はい。大丈夫です』

「後は……どこで何をしようか」


 俺達のデート決めは、いつもどこで何をするか決めるのにやたら時間をかける。

 白石さんの家庭の事情で俺達の交際が周囲にバレるわけにはいかず、人目を避けなければならないからだ。


「……うーん。中々、難しいね」

『毎回、本当にすみません』

「いいよ。気にしないで」


 白石さんは、人目を避けてのデートに後ろめたさを感じているのか、こういう話題の時にはいつも声が暗くなる。

 二人で話し合って決めたことなのだから、そこまで気にしなくてもいいのに。


「まあ、迷っていても仕方がないし、とりあえず駅で合流しようか」

『はい……あの、今日は楽しみましょうね』


 勿論、駅で合流することも誰かに見られるリスクがあるが、まだ言い訳の効く範疇だと思っていた。

 

 家から駅までは徒歩二十分。

 四月末なのに夏日。額に汗をかきながら到着。


『今着いたよ。すごい暑いから、気をつけてきてね』


 俺は白石さんにメッセージを送った。


『わかりました』

『白石さんは歩き?』

『いえ、送迎を頼みました』


 ……送迎、か。

 白石さんから返ってきたメッセージを見て、少し身構えた。


 まあ、こんなに暑い日だし親に車での送迎も頼みたくなるだろう。


 ……しかし、彼女の親と俺は、まだ顔を合わせたことがない。

 一体、どんな顔をして初顔合わせを済ませればいいのだろう。


 ……いきなり、こんな青二才との交際を認めない、とか言い出さないよな?


 そんなことを考えて緊張していると、駅ロータリーに黒光りのセダンが一台滑り込んできた。

 黒光りのセダンは、全面スモークガラスで、乗車している人の人相はおろか、人数さえも判別出来なかった。


 いや、これ絶対裏社会の人が乗るやつじゃん。

 ま、さすがに白石さんがあんな車で送迎されるわけ……。


「槇原君! 遅くなってすみません」


 ……あるんかい。

 黒光りのセダンから白石さんが降りてきて、俺は微妙な笑顔で手を挙げた。


「全然待ってないよ。大丈夫」

「ありがとうございます。それじゃあ行きましょうか」

「……その前に、俺、親御さんに挨拶とかしなくても大丈夫?」

「え?」

「いやだって、送迎を頼んだんでしょう?」


 白石さんはしばらく目を丸くして、クスクスと笑った。


「大丈夫ですよ。あの車の運転手はウチで雇用している専属ドライバーなので」

「……専属ドライバー」

「はい。だから気にしないで」


 ……そういえば彼女、大企業の社長の娘だったな。

 ただデートするだけだったのに、まさかこんな形で格式の差を思い知らされるだなんて。


「そっか。それなら……はい。大丈夫です」


 突然敬語になった俺を見て、白石さんは小首を傾げた。

久しぶりになんとか日間表紙に入りたいと思っています!

皆様、評価、ブクマ、感想を頂けると嬉しいです!

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