29.告白
白石さんの懸念する俺のモテ期。
適当に一週間くらい続くと言ったが、その間、もし別の女の子に目移りしたら赤色違反切符を切られることになってしまった。
「面倒くさいことになったなぁ、まったく」
白石さんと別れて、俺は一人帰路につきながら小言を呟いた。
たかだか球技大会で活躍した程度で、白石さんが懸念する程のモテ期がやってくるだなんて……昨日の時点では思ってもみなかった。
ただまあ、中学時代には散々、不当な理由で不当な評価を下された身としては……大したことではないとはいえ、誰かに正当な評価をしてもらえるのは嬉しいことかもしれない。
しかし、他の女の子に目移りしたら赤色違反切符か。
……相変わらず白石さんの嫉妬深さには舌を巻くし、何より一つ思うことがある。
その他の女の子に目移りしたらの基準は明確にしておくべきだった……っ!
狡猾な白石さんのことだ。
この一週間の間、彼女は色々なことが起こる度、事あるごとに俺が他の女の子に目移りした判定を下してくるだろう。
そして、赤色違反切符をちらつかせてくるだろう……!
……心を強く持たないとな。
何があっても、他の女の子に目移りしない強い心を。
そして、白石さんにどんな難癖をつけられても、折れない心を……。
「他の女の子に目移りすることより、白石さんにどんな難癖をつけられるかの方にばかり警戒しているな、俺」
まあ、白石さんのことだし、十中八九難癖はつけてくるだろうし、警戒することに越したことはないだろう。
「……まあ、一番は誰からも声をかけられないことを祈るばかりだ」
「あの……槇原先輩っ!」
そんなことを思っていた矢先のことだった。
背後から名前を呼ばれて、俺はそちらを振り返った。
振り返った先には……頬を染める少女。そして、その少女の取り巻きだろうか、他に三人の女子が、どこか楽しそうに頬を染めた少女の背中を押していた。
「何?」
俺は少女に尋ねた。
尋ねたものの……白石さんの先程の発言。そして、中々俺に目を合わせない少女の態度を見ていたら、なんとなく察するものがある。
ただ、まあ面倒だな。
何が面倒って……取り巻きの少女達がいることが面倒だ。
「あの……先輩」
「何?」
この雰囲気。
この流れ。
少女が俺にしようとしていることは、さすがの俺でも察しがつく。
「あの……あたしと付き合ってもらえませんか?」
告白してきた少女に対して、俺は返事を渋った。
どう返事をするか迷ったわけではない。
白石さんとの約束もあるし、答えは既に決まっている。
俺の頭の中で考えていることは、どうやって穏便に彼女の告白を断るか、ということだった。
「あの……どうですか?」
恥じらう少女に対して、頭の中で色々考えるものの、穏便な返事は浮かんでこない。
……どうしたものか。
相変わらず、穏便な返事は浮かんでこない。
ただ、答えを渋り続けるのは、さすがに可哀想だとも思い始めた。
「ごめん……」
俺は謝罪の言葉を口にした。
これで良かったのだろうか……?
疑問は浮かぶが、声に出してしまったものは仕方がない。
少女は一体、どんな反応を示すだろうか。
「……ありがとうございます」
涙を見せた少女を見て、チクリと胸に痛むものがあった。
先程まで楽しそうに少女の背中を押していた取り巻きは、途端、俺に敵視の視線を向けだした。
……失敗だったな。
とはいえ、他の回答も浮かんではこなかったし……。
これでまた俺の評判が落ちるとしたら、少しだけ堪えるものがあるな。
「じゃあ、またね」
……でも、弁明の言葉をかけることも彼女に失礼だと思った俺は、足早にその場を去ることにした。