28.よくわからない流れになった
「どうしましょう……」
しばらく怒った後、白石さんはシュンとした様子で俯いていた。
とりあえず俺の質問には答えてくれなかったが……彼女の様子を見て、どうしてこんなに怒っていたかは理解した。
つまり白石さんは、俺が他の女子にいきなりモテだしたから怒ったというわけだ。
所謂ジェラシー。
はは、いじらしい女の子だな、本当に。
「まさか、こんなにもいきなり槇原君の人気が爆発するだなんて。あたし、これからどうしたらいいんでしょう?」
白石さんの言葉を聞いて、中々にしょうもない悩みだな、と思った。
「別に、今まで通りでいいでしょ」
「え?」
「だって、俺がこれからどれだけモテようが、何かが変わるわけではないしさ」
大前提に、俺にモテ気がやってきた、ということが事実であると想定しても……だ。
そもそも俺は、白石さんが好きなんだ。
これから、別の女の子に色目を使われたって、靡くことはありはしない。
つまり、白石さんの悩みは特に意味がない。
白石さんの悩みの根底には、俺が彼女の元から離れるかもしれない、という不安があった上で成り立っているからだ。
「……信用出来ません」
しかし、白石さんは首を横に振った。
当の本人から問題ないと言われているのに、信用出来ないとは……?
「だってあたし、狡猾じゃないですか。いつ何が問題で、槇原君から愛想を尽かされるかわかったもんじゃありません」
「自覚あるなら改善すればいいのでは……?」
どうして彼女は、端から自分の性格は変えられない前提でものを語っているのだろう?
そんなに俺に嫌われたくないと思うのなら、少しは自分の悪いと思う点を改善しようとすればいいのに。
ちなみに、ハッキリ言っておくと、俺は別に白石さんの狡猾な人間性は嫌いではない。
むしろ好きだ。
こんな恥ずかしいこと、本人には簡単には言えないけども。
「まあ、大丈夫だよ」
まあ、色々言いたいことはあるが、俺は今回の件を楽観的に捉えていた。
「本当に俺にモテ期が来たかも中々疑問だし……仮にモテ期が来ていたとしても、そんなの一過性だよ」
「一過性?」
「そう。一週間もすれば皆、球技大会のことなんか忘れて、俺への興味も薄れる。そうしたら、俺のモテ期も終了さ」
つまり、俺の人生で一度のモテ期も、僅か一週間で終幕ということ。
セミと同じ寿命の俺のモテ期。いやはやまったく、儚すぎてたまらない。
「……槇原君」
「何?」
「あなたの言葉通りに仮に進んだとしても……それでもですよ? 一週間は槇原君のモテ期は続くわけですよね?」
「……もっと短いかもしれない」
「もっと長いかもしれません」
……つまり。
「その間、色んな子に色目を遣われて、他の女の子に目移りしたりしませんか?」
白石さんの悩みは、実に女の子らしくて可愛らしいものだった。
「しないよ」
「本当ですか?」
「本当だよ。俺を信じてくれよ」
白石さんは、はい、とは言わなかった。
「……もしも目移りしたりしたら」
「何?」
「赤色です」
「……はい」
とりあえず、俺は頷いておくことにした。