15.中間テスト
白石さんとのテスト勉強も、中間テストが近づくにつれて真面目な雰囲気を帯びていくようになった。
完全下校時間ギリギリまで学校で白石さんと勉強し、その後は家に帰っても勉強し……テスト期間中、よく見る勉強漬けの生活を、俺は送っていた。
『槇原君。もしテスト勝負であたしが勝ったら……学年順位を皆に公表してくれませんか?』
ただ、テスト勉強中、少しでも集中力が散漫すると、白石さんの言葉が脳裏を過るようになった。
もし今回のテスト勝負、彼女が勝ったら、俺は学年順位を皆に公表させられるそうだ。
そもそもウチの学校でテストの学年順位が公表されなくなった経緯は、下位順位の子の順位晒上げを失くす意味や生徒間の格差感情を失くすという……現代の時代背景に沿ったところが要因である。
まあ、実際のところ、内輪では自分の順位や友人の順位を知らせ合っていることだろうが……高順位の学生全員を知っている人間は、多分いないだろう。
『どうせあなたのことです。ちゃんとやっていないんでしょう』
だから、この前の峰岸さんのような誤解が生じてしまった。
峰岸さんから見たら、学校一の問題児と言われている俺が、テストで高順位を収めているだなんて思ってもみなかったことだろう。
だからこそ、あの時、あんな発言をしてしまったわけだ。
……白石さんは、俺のことを軽んじた峰岸さんに対して、怒りを覚えていたそうだ。
まあ、こんなことを言うのもなんだが……俺がこの学校で立場を軽んじられている原因の一端は、君が私欲のために、俺に違反切符を切り続けたところにだってあるんだけどな。
……ただ、まあ実際、白石さんの言う通りだ。
どういうことかと言うと、学校一の問題児と扱われる俺の問題要素は……何も風紀違反常習犯というイメージだけで形成されたものではない、ということだ。
俺が学校一の問題児と言われるようになった所以は、それこそ中学時代に遡る。
『槇原、てめえ!』
……その時の記憶は、あまり思い出したくもない話だった。
「白石さんは、どうして突然、こんなことを言い出したんだろう……?」
考えても仕方がない。
とにかく今は、白石さんとのテスト勝負に勝つために。罰ゲームを回避するために……テスト勉強に励もう。
……それでいいのだろうか?
少しだけ邪な感情が、俺の中に生まれ始めていた。
テストで二位になったところで、俺の内申点が下がることはない。
白石さんが俺に勝てば、罰ゲームこそ受けるものの、周囲からの俺へのイメージは払拭される。
……良いこと尽くしじゃないか。
別にテストで高得点を取ろうが、誰かが褒めてくれるわけではない。
むしろ、培われた悪感情は、時折俺の心を折ろうとしてくる。
勉強だって面倒だし、将来活きるのかさえわからない。
……そんなメリットが一つも見つからない行為、今すぐやめて、白石さんと電話でもした方が楽しめやしないだろうか?
俺は、スマホに手を伸ばした。
そして、スマホのスリープモードを解除して……時間だけを確認して、勉強に戻った。
……勉強をしたって。
誰かが俺を褒めてくれるわけではない。
学生達が抱く俺への悪いイメージが払拭されるわけではない。
良いことなんて、一つもない……っ。
でも、俺はテスト勉強に励んだ。
今回も学年一位を取ろうと思った。
「白石さんに、負けたくない……っ!」
それだけだった。
「白石さんに褒められればいい……っ!」
きっと彼女は、俺の頑張りを認めて称えてくれる……。
「白石さんに好きでいてもらえれば、他の学生からなんて思われようが、どうでもいい……っ!」
それだけで、十分だったんだ。
……迎えた中間テスト。
俺は無事、全教科好成績を叩き出す。
指導室……。
「それじゃあ、順位表の見せあいっこをしましょうか」
「うん……」
と言っても、緊張感はあまりない。
結果は二人とも、わかっていたから。
「じゃあ、せーの」
「はい」
二人の順位表は……。
白石さんが二位。
そして俺は、一位だった。
この前散々、学校のテストで高順位なんて取ってもしょうがないとか言った癖に……。
今回の順位表をもらった時、俺は久しぶりに喜んだ。
無事に白石さんに勝利することが出来たから。
……でも、放課後に近づくにつれて、後悔し始めていた。
白石さんは、暴走癖があり、嫉妬深く、メンタルが弱い。
この結果を前に……怒ったり、泣いたり、癇癪を起したり、また暴走したりしないだろうか?
だから今、二人の順位表を見せあったにも関わらず、俺は白石さんの顔を拝めずにいた。
……心のどこかで、彼女に拒絶されることに怯えていたのかもしれない。
「……槇原君」
……でも。
「やっぱり……槇原君は、すごいですっ!」
彼女に一言褒めてもらえただけで……俺は自分の心が満たされていくのがわかった。
「次の期末テストこそ勝ちます」
「あはは。負けないよ」
しばらく笑い合って、白石さんは頬を染めて俯いた。
「それで……その、槇原君?」
「何?」
「あたしへの罰ゲーム……どうしますか?」
「……あー」
そういえばそうだった。
最終的に、罰ゲームのことも忘れて勉強に没頭したから、すっかり忘れていた。
「……そうだねぇ」
「……どんなことでも受け入れますよ、あたし」
意味深。
「わかった。じゃあさ、白石さん」
「はい」
「今週の土曜日、暇?」
俺は苦笑しながら尋ねた。
三章終了です
もう付き合っちゃえよこいつら
付き合ってたわ
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