14.罰ゲーム
放課後、俺は指導室へ向かった。
いつもなら指導室に向かう時、もう少し足が重くなるのだが、今日は勉強に励むという立派な訪問理由があるため、スイスイ廊下を歩くことが出来た。
指導室にたどり着くと、扉をノックするが応答はない。
「失礼します」
室内に入ってみると、白石さんは既に勉強を開始していた。
凛々しい顔で机に開いた参考書片手に勉強に励む白石さんは、なんだかとても絵になっていて……俺は一瞬、彼女に見惚れていた。
いかんいかん。
昨日は一日イチャイチャするだけで終わったこともあって、さすがに白石さんも危機感を感じて、今日は真面目に勉強に励んでいるのだろう。
であれば、邪魔をするのも失礼だし、俺も勉強に励むとするか。
俺は白石さんの隣に腰を下ろして、参考書を捲り、勉強を開始した。
……しばらくして。
「……すか」
「ん?」
「なんで構ってくれないんですか!」
白石さんが、キレた。
謂れのない怒りに、俺はしばらく困惑した。
「……勉強を必死にやっているんだろうと思ってたんだ。だから、邪魔したら悪いと思ったんだけど、違った?」
「……」
「……」
「それもあります」
「そっか。それもあったか」
なら半分正解。半分不正解というところか。
「いえ、三割正解。七割不正解です」
「ナチュラルに心を読まないでね」
「……どうして構ってくれないんですかぁ」
また泣き出した。
最近思ったんだけど、白石さんのこれって暴走というより癇癪だよな。
……ま、そんなところも可愛いんだけどさ(バカ)。
「ごめんね。何が望みだったの?」
「……槇原君、今朝、あたしが怒っていたこと気付きましたか?」
「今朝?」
……はて、そんなことあったっけ?
「……あー。峰岸さんに絡まれたやつか」
「そうです。その件です」
……確かにあの時の白石さん、すごい形相で俺を睨んでいた。
あの時、睨んでいたということは……。
「ごめんね。次からは君との関係がバレるかもしれないリスクある行為はちゃんと控えるよ」
「……そうじゃないです」
「えっ、違うの」
「あたし以外の女の子と話さないでくださいっ!」
「強い強い。束縛が強い!」
さすがにそれは、学校生活を続ける以上は不可能だ。
「……白石さん、絶対自分でも無理なことわかった上で怒ってるじゃん。やめた方がいいよ。その無理筋をごり押しでなんとかしようとするの」
「正論パンチすぎてぐうの音も出ません……」
草。
この子、突拍子もないことを言い出す割に、理解力はあるんだよな。
「もしかして今朝は、俺が峰岸さんと話していたことに腹を立てていたの?」
「それもあります」
「あるんだ。……じゃあ、他には?」
「……言っても嫌いになりませんか?」
「あー、多分、大丈夫」
ここまでの君のムーブ全てを耐えられたんだ。
何が来たってへっちゃらさ。
「……昨晩、一人で盛り上がってしまったんです」
「意味深な言い方やめてね。……何で盛り上がったの?」
「テスト勝負で槇原君に勝ったら、何をしてもらおうかって」
白石さんは鞄からメモ帳を取り出した。
「……うっ」
そのメモ帳には……『お姫様抱っこ五時間』だとか、『一日家政婦』だとか、テスト勝負で白石さんが勝った際、罰ゲームで俺に何をしてもらうかが殴り書きされていた。
「テスト勝負で槇原君に勝ったら何してもらうか考えたら、テスト勉強が捗らなかったんです! だから今朝、あたし怒ってたんです!」
「ひゅーっ。可愛いなぁ、おい」
本当、可愛いがすぎる。
勉強も忘れるくらい、俺への罰ゲームを考えるのを楽しむだなんて……。
……はぁ。
「それで勉強が滞ったら、テスト勝負にも負けちゃうね」
「……はい」
「本末転倒だね」
「……はぃ」
白石さんは弱弱しく頷いた。
自覚はあったようだ。
……本当、俺の恋人は、すぐに暴走をする。
暴れた後、責任転嫁で俺に怒りの感情をぶつけることもあるし……。
自分の欲求に正直すぎることがあるし……。
そんな彼女のぶれない姿勢を目の当たりにして、呆れ果てた回数は、最早数えきれない。
……でも、俺はそんな彼女のことが、やっぱり嫌いになれない。
彼女はよく暴走するし、止まらないし、欲求を満たすために驚くような行動をしてしまうけれど……。
でも、俺のことを好きでいてくれていて、第一に尊重してくれていることは間違いないから。
「……それで、決まったの?」
「え?」
「テスト勝負に勝った時、俺への罰ゲームをどうするか」
「……ああ」
この様子を見るに、決まったらしい。
「……はい。決まりました」
「そっか」
「でも決まったのは……さっきの峰岸さんと君の会話を見た時です」
「……え?」
「……あの時、あたしが怒っていたことは、実は三つあったんです」
……三つ?
俺が白石さん以外の女の子と会話したこと。
昨晩、俺への罰ゲーム決めが捗って、勉強が滞ったこと。
……もう一つは?
「峰岸さんが、君を軽んじたことです」
白石さんの答えは、想定していたものとは異なっていた。
……少しだけ胸が熱くなった気がした。
「槇原君。もしテスト勝負であたしが勝ったら……学年順位を皆に公表してくれませんか?」
今日はこれ含めてあと二話投稿予定です
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