9.解析結果
「それはドラゴンゾンビなどと同じ、ということでしょうか」
生体反応がなかった。
つまりは生きていない魔物ということだ。
そう聞いて、真っ先に思い浮かんだ魔物の名前を口にする。
ドラゴンゾンビは名前の通り、ドラゴンの姿をしたゾンビの魔物だ。
日本にダンジョンが出現して、探索者の前に最初に立ちふさがった壁と言ってもいい。攻略には数か月の時間を要し、死傷者の数もかなり出たと聞く。
今回戦ったゴブリンは、強さこそドラゴンゾンビとは比べるまでもなく弱かった。
それでも見た目や性質などに類似点も多くあった。
ドラゴゾンビのような性質を持つ、新種のゴブリン。ゴブリンゾンビと言ったところだろうか。
しかし。
「いや、それとは違う」
津守さんは首を横に振った。
「たしかにドラゴンゾンビとの類似点は確認されている。だが、ドラゴンゾンビは生体反応がある。ゾンビとはいえ、ドラゴンゾンビという魔物として生きているわけだからね」
その一方で、と津守さんは言葉を続ける。
「今回のゴブリンとキングゴブリンには生体反応そのものがなかった」
「最初から死んでいた、ということですか?」
「そうなる」
津守さんが首肯するが、私はイマイチ受け入れられていなかった。
生体反応がない=死んでいる、ということは理解できる。
しかし、私たちが相手をしたゴブリンたちは動いていたのだ。普通のゴブリンたちと比べれば、見た目や動きに違和感はあったが、それでも死んでいたとは思えない。
そもそも。
魔物とは言っても、死んでいる状態で動けるものなのだろうか?
「津守二等迷宮保安監殿」
「ん?」
「迷宮保安庁の機器や解析を疑うわけではありませんが、計測ミスである可能性はないのですか?」
「ゼロとは言わないが、その可能性は限りなく低いだろうね」
やんわりと私の言葉を否定して、津守さんが続ける。
「最下層でキングゴブリンと複数のゴブリンを相手にしただろう? その全ての魔物に生体反応は見られなかったそうだ。もちろん、何度も解析は試したそうだ」
「全てですか!?」
「あぁ、全てだ」
あの場には、キングゴブリンとゴブリンが10体ほどいた。
毎日きちんと整備や調整をされている保安庁の機器が、それだけの魔物に一切反応しないとは思えない。
あそこにいた全ての魔物が死んでいたというのか。
にわかには信じられなかった。
「他に分かっていることと言えば、佐々貴君が実践した通りだ。治癒魔法によって消滅させることで倒せる。現時点で判明したことはこのくらいしかない」
力なく苦笑いを津守さんが浮かべる。
解析班の研究員たちも苦戦しているのかもしれない。だが、それも仕方のないことだろう。
キングゴブリンとゴブリン複数を倒したとはいえ、サンプル数としてはダンジョン1つ。
分析、解析に使えるのは私が撮影した映像のみ。
治癒魔法で倒すと消滅するから、魔物に関するものは何一つ持って帰ることができないので実物を研究や解析できない。
いくら迷宮保安庁とはいえ、これで全てを解き明かすことは不可能である。
「ただ、佐々貴君のおかげで治癒魔法を用いれば倒せると証明されたのは大きな収穫だった。感覚としてはどうだった?」
「そうですね……」
昨日、ゴブリンたちにトドメを刺していた時のことを思い出す。
「基本的には人に使う時と同じでした。ですが、いつも以上に力を消費している感覚がありました。本来の使い方ではないからかもしれません」
「なるほど……。その辺りについて、レポートにまとめて提出してもらえるかな?」
「承知致しました」
あくまでも私の感覚の話にはなってしまうが、今は一つでもデータが欲しいのだろう。
私以外の治癒魔法使いだった場合、もっと楽に倒せた可能性もある。
その辺りは注釈で入れておこう。
そう思っていると、「それで」と津守さんが改めて口を開く。
「迷宮保安庁の見解としては、あのゴブリンたちはドラゴンゾンビとは全く別の性質を持った新たな魔物だと判断した」
「新しい魔物ですか」
「あぁ。我々は、生体反応がなく、治癒魔法によって倒せる魔物を『アンデッド』と呼ぶことにした」
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