5.ダンジョンの主
「……いますね」
やはりと言うべきか。
急ぎ向かった最深部の扉の先。
こっそりと窺うと、このダンジョンの主である魔物――キングゴブリンが復活していた。
キングゴブリンは、その名前の通りゴブリンたちの王。
普通のゴブリンが人と同じか少し小さい背丈なのに対して、ゴブリンキングは王の名を冠しているだけあって2メートルほどはある。屈強な身体に俊敏性、それからそれなりの知性も持った魔物だ。
とはいえ、先ほど2階層で倒したゴブリンと同じく、このキングゴブリンも私の知っているキングゴブリンとは違う姿や挙動をしていた。
頭がおかしな角度でくっ付いているし、目に光もない。身体は傷だらけで着ている毛皮の服もボロボロだ。手にしている巨大な棍棒も持ち手部分が折れてしまっている。
キングゴブリンを守るようにして周辺にいるゴブリンたちも、同じく痛々しい姿をしていた。
まるで、自分たちを倒した探索者に復讐するために地獄から這い上がってきたようだ。
ホラー映画のゾンビの集団を見ているような、そんな光景だった。
「佐々貴さん。ここにいるのも、さっきと同じ奴ですか?」
「だと思う」
キングゴブリンも含めて、どのゴブリンたちも所謂普通のゴブリンとはどこか違う。
二階層で倒したゴブリンのように、執行さんの攻撃だけでは倒せないのだろう。完全に倒すには私の治癒魔法を使うしかない。
キングゴブリンに加えてゴブリンもいるので、少し骨が折れそうだ。
幸いにも、私たちはまだ気づかれていない。
今のうちに作戦を立てておこう。
今でこそ、ゴブリンやゴブリンキングは探索者が一人や二人でも倒せる相手だ。だけど、攻略された当時は5、6人のパーティーだったと聞いている。
執行さんがいるとはいえ、油断はできない。
「一体ずつ倒していきますか?」
「いや、キングゴブリンを倒せるなら先に倒したいかも」
ちら、と集団の真ん中にいるキングゴブリンを一瞥する。
主と呼ばれている魔物を倒すと、多くのダンジョンでは周りにいる魔物たちも一緒に消える。
このゾンビだらけのダンジョンにも当てはまるのかは分からないけど。
けど、やる価値はある。
他のダンジョンと同じようにゴブリンたちが消えたら最高。仮にゴブリンたちが残ったとしても、ゴブリンたちを率いているキングゴブリンを先に倒して悪いことは一つもない。
キングゴブリンとゴブリンの習性を思い出しながら、作戦を執行さんに伝える。
「私たちが近づいたら、まずはゴブリンたちが来るはず。だから、執行さんはゴブリンたちを倒したあと、キングゴブリンに向かってくれる?」
「わかりました」
「執行さんがキングゴブリンと戦っている間に、私はできるだけゴブリンたちに治癒魔法でトドメを刺しておく。それで、執行さんがキングゴブリンを倒せたら合図を送ってくれる? 私もそっちに向かうから」
「はい。では、私は佐々貴さんがトドメを刺し切れなかったゴブリンたちをもう一度倒しておけばいいでしょうか?」
「うん、お願い。たぶん、執行さんがキングゴブリンを倒す方が速いと思うから」
「わかりました」
執行さんなら、おそらくキングゴブリンも苦にすることはない。
問題は私の方だ。
先ほど、2階層でゴブリンにトドメを刺したときの感覚からすると、厄介なことにそれなりに強く魔法を使わないとダメみたいだ。使うこと自体はいい。ただ、近づかないといけないし、集中しないといけないし、時間がかかってしまう。
執行さんがキングゴブリンを倒す速度を考慮すると……。
多く見積もって二体……もしかすると一体しかトドメを刺せないかもしれない。
……流石にそれは申し訳がない。
キングゴブリンを倒して、ゴブリンたちも消えてくれたら良い。
だけど、そうでなければ、執行さんに何度かゴブリンを倒してもらうことになるだろう。
「ごめんね。執行さんにばっかり負担をかけちゃって」
「いえ、気にしないでください」
表情を変えることなく、さらりとした口調で執行さんが言う。
「このくらいでしたら、何度だってやります」
「ありがと。でも、少しでも負担が減るように頑張るから」
「いえ……無茶はしないでください。倒せるのは佐々貴さんだけなんですから」
「そう、だね。だけど、執行さんも無茶はしないでね?」
「はい」
作戦も決まったところで、ゴブリンたちの様子を窺う。
まだ気づかれていないらしい。
私がこくりと頷くと、それを合図に執行さんが飛び出した。
足取りは真っすぐキングゴブリンへ向かいながら、迫りくるゴブリンたちを順々に斬り捨てていく。
立ち止まる気配はない。
このペースだと、あっという間にキングゴブリンにまでたどり着いてしまいそうだ。
「わ、私も行かないと!」
慌てて私も飛び出したのだった。
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