43.お昼ご飯②
注文して数分後。
私の日替わりホットサンドと執行さんのパンケーキが運ばれてきた。
ちなみに飲み物は、私はブレンドコーヒーで執行さんがメロンクリームソーダ。喫茶店と言えばメロンクリームソーダのイメージはあるけど、甘い物ばっかりだった。
ま、まぁ……執行さんが言っていたように、家ではなかなか食べたり飲んだりできない代物だ。こういう機会に注文するのは正解かもしれない。
「いただきます」
執行さんが小さく手を合わせて、ナイフとフォークでパンケーキを食べ始める。
パンケーキはふわふわな生地にバニラアイスが乗り、メイプルシロップが注がれた一品だった。
一口食べた執行さんの口元がほころんだのを見て、私も「いただきます」と食べ始める。
……さてさて。
日替わりホットサンドの中身は何だろう?
期待を抱きつつ、ぱくり、と一口食べる。
「ん! カレーだ。美味しい」
ふんわりと口の中に香辛料の香りやうまみ、コクが広がっていく。
若干のスパイシーさはありつつも、甘めの家庭的な優しい味のカレーだった。
カリカリに焼かれたパンの食感とも相まって、ほぼノンストップで食べ進めていく。武器選びにけっこう悩んだと言うか、頭も使ったから思っていた以上にお腹も空いていたのかもしれない。
香り高いブレンドコーヒーも飲みながら、もう一つのホットサンドを手に取る。
こちらはタマゴとハム、そしてチーズと言う王道の組み合わせだった。めっちゃ伸びるチーズに驚きながら食べていく。半分ほど食べたところで執行さんを見ると……。
……えっ、もう食べ終わってる!?
すでにパンケーキは執行さんの胃袋の中に消えていて、今はメロンクリームソーダのバニラアイスをスプーンで食べていた。
その執行さんと視線が重なる。
「あの……パフェを注文してもいいでしょうか」
「もちろん。どれがいいか決めてる?」
「はい。これにしようかなと」
「おっけー。じゃあ注文しちゃうね」
店員さんを呼んで、執行さんがメニュー表を指さしていたイチゴパフェを注文する。
私がホットサンドを、執行さんがメロンクリームソーダを食べ終わる頃にイチゴパフェが運ばれてきた。
「わ、おっきいね」
メニュー表の写真で見るよりも、実物は大きく感じる。
縦長のグラスにコーンフレークやアイスクリームがぎゅうぎゅうに詰められていて、上部分には生クリームやフルーツがたくさん飾られている。
メニューの名前となっているイチゴは、パフェのど真ん中の一番高い場所に丸々1つ。そして半分に切られた実がまるで羽みたいにグラスからはみ出して置いてあった。
イチゴソースかジャムもかかっているみたいで、まごうことなきイチゴパフェだった。
「いただきます」
「どうぞ~」
パフェでしか使わない、細長いスプーンを使って、執行さんがパクパクとパフェを食べていく。
さっきパンケーキを食べていたとは思えないスピードだ。
甘い物は別腹……なんて言うけど、甘い物の前に甘い物を食べていても成立するらしい。
これが若さか……。
いや、私とそこまで変わらないはずだけど。
でも6歳か7歳も離れていたら、高校生からしたら随分と年上に見えるかも。
しかし執行さんが喜んでくれているみたいで良かった。
表情に感情がはっきりと出るタイプではないから分かりにくいけど、それでも幸せそうに食べている姿から読み取ることはできる。
こんなに甘い物が好きだとは思わなかったけど。
くすり、と思わず笑みを浮かべる。
執行さんを見ながらコーヒーを啜っていると、不意に執行さんと視線が合った。
「……佐々貴さんも一口食べますか?」
「え?」
「私だけ食べているのも、なんだか悪いような気がして……」
気にしなくてもいいのに。
でも、気にしちゃうのが執行さんなんだろう。
それに執行さんがそんなに美味しそうに食べるパフェの味、たしかに気になるかも。
「せっかくだし、もらっちゃおうかな」
「はい、是非」
執行さんは器用にスプーンを使って、アイスクリーム、生クリームをスプーンで拾い、最後にイチゴを上に乗せた。
そのスプーンを「どうぞ」と差し出してくる。
「ありがと」
少し身を乗り出して、ぱくっとスプーンの先にあるパフェを食べる。
「うん、美味しいね」
と感想を言ったのだけど、なんだか目の前の執行さんの顔が浮かない。
スプーンを――スプーンの先を見つめて、あわあわとしていた。
「し、執行さん?」
「あ、あいや、いえ……」
少しの間、目を泳がして、執行さんが俯き加減で言う。
「そ、その。スプーンごと渡すつもりだったので、驚いてしまって……」
「え! そうだったの!? ごめんね!?」
マジか……。
てっきり、スプーンを差し出されたから「あーん」のつもりだったのかと勘違いをしてしまった。
ま、マズい……。早とちりしてしまった。
これは気持ち悪いか!?
「ごめん。新しいスプーンもらうね!?」
「い、いえ、それは大丈夫です」
「ほんと?」
「はい。少し、びっくりしただけですから……」
という執行さんの顔には、未だに困惑が残っているように見える。
「佐々貴さんは、こういうのは、よくされるんでしょうか」
「へ!? いやいや、全然そんなことはないよ。今のはなんか流れで」
「そう、ですか……」
「うんうん」
その後。
ほんのりと頬を朱に染めた執行さんがパフェを食べる様子を、何とも言えない気持ちで見守るのだった。




